83 やっぱり同行を求められる
戸惑った様子のマリちゃんに、クロウが説明をした。マリちゃんは納得した様子を見せたが、不安そうに言った。
「あの、あんまり多額のお礼は払えないんだけど」
「いや、そこは心配しなくて大丈夫。ただ、習いに来るのにフェドゥール伯爵家の訓練場まで来てもらわないといけないんだけど」
「それって、王都のどのあたり?」
訊くと、うちからそんなに遠くはなかった。ジェニファも知っている場所だという。
「その場所はフェドゥール伯爵家の持ち物だけど、王都の北の守りを預かる詰め所みたいな感じになっているの。転移陣への門も近いし、その他の地域で何かあったときにも対応するんですって」
そんなのがそんなところにあるなんて知らなかったなあ。うちみたいな生業だと貴族と直接話すこともないし、その辺無頓着になっているのだと思う。……あとは、うちは専ら城壁の外に家の屋根から直接出るとかしていたので、買い物のために必要なご近所の店に行く以外は王都の中を歩き回らない、というか。
「何だったら、今週末、来てみるか。今日帰ってから知らせを送っても、明日中には返事が来ると思う」
「えっと、あんたも寮に住んでるんだっけ?」
「いや、俺もそうしたかったんだけど、それは絶対に駄目だって兄が。体面が悪いとか言ってた。そもそも兄自身が屋敷から通っているから、同じ馬車に乗って通えばいいって言われて」
「寮住まいはやっぱり体面が悪いのかな?」
ジェニファが苦笑するのに、クロウが慌てて言った。
「いや、ごめん、別に貶すつもりは。……いや、そうとしか聞こえないな。本当にごめん」
「いいよ、そうとわかっててやってることだから。うち、馬車がなくて、それで仕方なく」
「屋根の上を移動できれば問題ないのにねえ」
私が普段から思っていたことをついぽろっと言うと、他の三人がぎょっとした様子で私を見た。
「屋根の上を移動するって、どういうこと?屋根の上を歩くってこと?」
「そんな危険なことをして、落ちたらどうするんだ」
「そうよ、シホちゃん。魔素術で移動するにしたって、何かの拍子で集中力が切れたりしたら、落ちてしまうんじゃないの?」
「嫌だなあ、そんなヘマしないってば。まあ、ちょっと術を使うときに結構気を遣わないと、屋根瓦を吹き飛ばしかねないけど」
「それが空から落ちてきて通行人に当たったら大変じゃないか」
「だからやらないってば。私、ちゃんと寮に入ってるでしょ?」
「……もしかして、そうやって通学することも考えてたってことか?」
「まあね。それこそ、周りに止められたけど。それでどうする、マリちゃん。クロウのお父さんにお願いしてみる?」
「うん、お願いします。……ただ、シホちゃんにお願いがあるんだけど。行き帰り、私一人だとちょっと不安だから、一緒についてきてほしいの。お願いできないかな」
マリちゃんのお願いに、ジェニファが首を傾げた。
「あの辺、そんなに治安悪くないよ?それに、明るい時間に行き来するんでしょ?」
「ううん、そういうことじゃなくて。私、ちょっと道を覚えるのが得意じゃなくて」
うん、知ってる。それに、あの辺りは似たような町並みが続くから、マリちゃんはすぐに迷ってしまいそう。
「いいよ、ついて行くよ。婆ちゃんに言って、その時間は作業を休ませてもらうようにする」
マリちゃんは花が綻ぶような笑みを見せた。




