20 きょうだいでありいとこであり
髪や瞳の色は違うが、顔立ちや雰囲気がクロウに似た雰囲気の男子だった。あにうえ……とクロウが呟く。
アンリウォルズ先輩は、新たに来た男子に声をかけた。
「ライオット、お前は弟にも厳しいのだな」
「弟じゃない。いとこだ」
「しかし、彼は君の父上の養子になったのだろう」
「名前だけだ。伯爵家の人間としての教育はほとんど受けていない。今だって寮から学院に通っているし、宴の出席者に決まったのに、我が家が手配した教師陣の指導を断り続けている」
「それは」
クロウが何か言おうとしたが、向こうはそれを遮った。
「魔法か魔素術かどっちつかずで悩んでいるような愚か者は宴への参加を辞退しろ。どうせ何もできずに終わってしまうだろう。フェドゥール伯爵家の恥を晒すな」
クロウは俯く。向こうはクロウをじっと見つめていた。文句を言い終わったのならさっさと立ち去ればいいのに、向こうはまだクロウを見続けている。
沈黙が続く。私はこの沈黙に飽きてきた。無礼を咎められそうだったので我慢していたが、溜息をつきたかった。七時限の授業をこなしたのだ。いつもより時間は遅いし、帰りたい。今日はまだ木曜日。明日も授業がある。
私はジェニファに小声で言った。
「私、帰るね。なんか今日、疲れたし」
「あ、それじゃ私も」
私はジェニファと連れだって教室を出た。
二人で寮への道を歩く。
「シホちゃん、今週末、予定ある?」
唐突にジェニファが言うのに、何?と訊く。
「うん、うちが新しい家に引っ越すって前に話したよね?引っ越しが終わったから友達を連れてきていいよって言われたから、今週末、シホちゃんに来てもらえたらって思ったんだけど」
「あー、それは。うん、残念だけど、予定があって。また今度、呼んでくれないかな」
私は若干後ろ髪を引かれる思いがしながら言った。用があるというのは本当だった。クラリィ婆ちゃんに、週末は一緒に出かける先があると言われたのだ。
「それにしても、さっきの三年生って」
「ああ、フェドゥール先輩ね。フェドゥール伯爵子息よ。クロウくんのお母さん方のいとこ。ちなみに、魔法科三年生の魔法第二位ね。アンリウォルズ先輩の次」
アンリウォルズ先輩が一位というのは想像がついていた。だって、仮にも天才と言われているのだし。まあ、そんなのが一位なのだから、一位と二位と言っても、かなりの差があるのだろう。
「なんか、面倒くさい人だったなあ。心配なら心配って言えばいいのに」
そのとき、ジェニファが私をじっと見ているのに気がついた。
「何?」
「ううん。シホちゃんは、誰に魔素術習ってるのかなって。学院の先生に課外講義を受けてるとかそういうのもなさそうだし」
「今は誰にも習ってないよ。名付きの魔素術は全部使えるし」
「名付きの魔素術?」
私は説明をした。名前が付いた魔素術は六つしかない、ときいて、ジェニファは驚いていた。
「魔素術って、もっといろいろあると思ってた。シホちゃんもだけど、町で見かける魔素術師の人たちって魔素術でいろんなことしてるし」
「魔素術は、結局のところ魔素をどう使うかだから、応用は自在だよ。でも、それはみんなが自己流でやってる感じで、系統立ってないんだよね。で、そんな中で、みんなの共通認識として使われてるのがその六つの術っていう感じ」
そして、高等学院に入ってくるような子は、六つ全部とは言わないが、ある程度は使える。魔素術の成績上位者はおそらく全部使えるのではないか。
「じゃあ、魔素術の授業って、何をしてるの。実技やるって言っても今更だよね?」
「理論をやって、それを基にした応用技をそれぞれが磨くっていう感じになるらしいよ」
伝聞なのは、入学して授業が始まったばかりで、今後どうなるかがわからないからだ。
「さっき、アンリウォルズ先輩に言ってたのは、名付きの術?先輩との戦いのときに使ったっていう」
「ああ、あれね。そうだね。えっと、六つの名付きの術以外に、人形師が使う魔素術っていうのがまた別にあって。ちょっと難しいっていうか、特殊で。一般には知られてないんだけど」
「何でそれをシホちゃんが知ってるの?」
「遠い親戚が人形師で、子供の頃から家族同然のつきあいで、私もよく教えてもらってたんだよね」
「そっかー。じゃあその人が、シホちゃんの魔素術の先生なんだね。宴のことも相談したらいいんじゃない?」
「んー、そうだねえ」
でも、クラリィ婆ちゃんは人形師だ。魔素術に長けていることは間違いないが、宴で通じるような技術を持っているかはわからない。相談しても、私の埒外だよ、と言われて終わるのではないか。
と、校舎の出口に魔法科の二人の男子生徒が立っているのが遠目に見えた。茶色の髪の男子と銀髪の男子。学年まではわからない。
私はジェニファを庇うようにして前に出た。
私の目には、彼らが私たちを待ちかまえているように見えた。彼らの目的が私かジェニファかはわからないが、どちらにしても碌な話ではないように思われた。私は平民のくせに神々の宴に出る女生徒で、ジェニファは子爵令嬢のくせに神々の宴に出る女生徒だ。
彼らが立っているのは、そこから先は女子しか入れないと決まっている地点だ。そこを通り過ぎればこちらの身は安全だが、逆に言うと、男子から危害を加えられる可能性が高い最後の地点ということになる。
急に前に出た私をジェニファは妙に思ったのだろう。私の横に並ぼうとしてきた。私はジェニファを制して訊く。
「あの男子二人、知ってる?」
「あ、うん。魔法科の二年生。ファラーグ先輩とガリエス先輩だよ。二人とも魔法の腕前が凄くて、女子に人気あるの」
「それって、家の格はどれくらいなの。揉めたときに、ちょっとくらい魔素術を使っても不敬だとか言って責められたりしない?」
「ファラーグ家は侯爵家で、ガリエス家は伯爵家だよ。やだな、そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。話したことあるけど、気さくな先輩たちだったよ?」
近づいてみると、二人に見覚えがあることに気がついた。オリエンテーションの日に私がぶつかった二人連れだった。
私たちが近づくと、茶髪の男子の方が声を掛けてきた。
「やあ。ジェニファ・テウル・ラウドゥーゾさん。特別講義お疲れさま。そちらはシホ・アリス・ゼンさんで合ってるかな」
私は黙ったまま頷いてみせた。マリちゃんがいたら、後で絶対に叱られる振る舞いだ。
茶髪の男子はレイ・テウル・ファラーグと名乗った。となると、傍で黙って立っている銀髪で綺麗な顔立ちをした男子の方がガリエスか。
ジェニファが二人に訊ねた。
「あの、私たちに何か御用ですか」
「うん、実はそうなんだ。魔法部に入らないかなって、勧誘に来たんだけど」
本日もう一話投稿します。




