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一章 * 紹介 4

昨日ネットが何故か繋がらず、連日更新出来ませんでした。読んで下さっている方に心よりお詫び申し上げます。


「参った」

 そう言いながらセリードは肩を震わせて笑いをこらえる。

「先週新調したばっかだぞ制服。嫁にキレられる、めっちゃキレられる‥‥」

 半泣きにでもなりそうな顔をしてうなだれるバノンは大きな大きなため息。

「お前が悪いんだろう? 自業自得だ、だから話を聞けと言われるんだ。しかも相手は女だ、リオンは気丈なタイプらしいからよかったが、普通ならあんな責め立てるような態度を取れば女なら泣かせていたぞ?」

 冷静に、でも少し皮肉を込めているのだろう。口元を緩ませてジルが年上らしい短い説教。

 男3人は王宮にある公人なら誰でも使える大浴場にいた。地下から引いている温泉が絶えず流れる広い浴槽に仲良く並んで浸かっている。


 女二人は話に夢中でせっかく用意された飲み物と菓子に手をつけていなかった。その飲み物はリオンが初めて飲んだときあまりに美味で目を輝かせ体をよじらせて美味しいと悶絶したアルファロス家の葡萄果汁だ。それ以来、アルファロス家の人々がリオンが王宮に行く日に合わせて王宮に届けている。

 美味の葡萄果汁はわざわざ季節ごとに各地域から取り寄せした完熟していて甘い品種を厳選しているのもを贅沢に絞ったものなので糖度は非常に高い。いつもならほとんどなくなっていたにちがいない。フィオラと話に夢中でその存在が一時とはいえリオンから消えていたので、今日に限って大きな美しい水差しにたっぷり入ったままだった。その糖度の高い濃い紫色の高級な飲み物は、今日はある意味武器だった。

「あいつ怖い。あいつマジ結構強い」


 うなだれるバノンのそばで、セリードはやっぱり肩を震わせて笑っている。

「あー、面白いやっぱりリオンは面白い、最高だね」

 そんな二人を見てジルも、つい笑った。

「なかなか貴重な経験だったな」

 フィオラより、怒りがこみ上げたのはリオンだった。こんな時になんで喧嘩になるわけ?と思ったら無性に腹がたったのだろう。タプタプに入った水差しを掴むとリオンは躊躇い(ためらい)など微塵もなく男たちにぶちまけた。


「騎士団団長たち、責任もって掃除しなさいよ。いいわね?」


 フィオラの命令をだまって受け入れて男3人せっせと拭き取りしたあと水拭きし、あまーいフルーティーな香りをプンプンさせて、すれ違う人たちに真紫に染まった姿をじろじろ見られ、こうして大浴場まで来たのである。


「フィオラの騎士嫌い、なんとなくわかったかも」

 ブスッとして、ぶっきらぼうに言い放ったリオンにフィオラは勢いよく数回頷く。

「なんであそこで喧嘩になるかな?! あのあとすぐにクロード様に会えたからよかったけどそうじゃなかったらどうするつもりだったのかなぁ?!」

「ね、バカでしょ」

「ああ! もう!! 腹立つ!! ホントに喧嘩したら強制送還だわ!! いっそ一人でいいわよ!」

「え?! あたしも?!」

「当然でしょ」

 その時だった。

 急にフィオラが立ち止まり、頭をさげた。その存在に気がついてリオンもそれにつられるように直ぐに頭をさげた。

 この行為はある特定の人物たちにのみ行われるものだ。この王宮の主たち。つまりは歴代の王、皇太子であるエルディオンの名を世襲するものたちへの基本であり最低限のマナーだ。

「聞いたよ、葡萄臭い男3人が大浴場に駆け込んだそうじゃないか」

 軽やかで明るい気さくな語り口。

「顔をあげて」

 二人が顔をあげるとそこには次期国王エルディオン四十一世が一人でこちらに近づいてくる姿があった。いつもは数人の側近をつれている彼も一人のせいかいつになく柔らかな雰囲気だ。

「殿下、お一人ですか?」

 戸惑い気味のフィオラの問い。本当に珍しいことなのだ。

「クロードが今父と他の議長に掛け合っているところだ。まわりが彼の急な話にちょっとあわただしくなってね。私はリオンの意見に反対をする理由はないからあそこにいても意味はないと思って離席してきた」

「どういう、意味ですか?」

「3人で話せないか。あいにく忙しい身だからね、立ち話になってしまうが」


「領有院の議長が、決まったことを覆すべきではない討伐最優先の遠征として今すぐ出向させるべきだと強硬姿勢を見せた」

 完全に人払いされた、エルディオンの政務室はとても広くて静かだった。お茶も用意させずにすまないねと一言謝意を述べて彼は直ぐに話し出した。

「同じく事情を知らないこともあって政経院の議長も難色を示している。報告内容から早急に騎士団の派遣をすべきとの意見は一致しているけどね。大筋の一致で出向が可能ならどんなに楽か」

「そんなっじゃあ結論は」

「王家と魔導院、政経院と領有院で分裂している。時間がかかるのは確実だ」

 リオンは抑えて小さなため息をつきながら天を仰ぐ。

「リオンの存在を彼らも知っているが、そもそも謎が多くて信用できないと。正直君のことを広く認知させるにはまだ時期尚早だ、今ある情報で説得するしかない。こういう事態は予測していた事だからジェスターが上手くやってくれるだろう。時間がかかることだけはどうにもできないけれど」


 わかっていたことではある。必ずそれなりの反発や抵抗はあるとリオンも覚悟していた。けれど極めて当然なことだとわかっているのにそれを止める術をもたないのはもちろん、無力さにリオンはどうしても抗えない。その苛立ちがリオンにふつふつと沸き上がるのは致し方ないことなのだろう。

「そこでた」

 エルディオンはリオンの前に立つ。

「私が今できることは君を直ぐに出立させることだ」

「え?」

「必要なものはすでに上皇と相談して以前から揃えさせてあるし、早馬を二頭調整済みだ。セリードにも多少の公務の引き継ぎがあるだろう、それが終わり次第直ぐに後を追わせる、半日もあればここを発てるだろう。そしてバノンたちも必ず2、3日中には正式に後を追わせる。だから行きなさい、いや行ってほしいリオン」

 エルディオンはリオンの手を取り、強く掴んで握った。

「これ以上犠牲を出したくない。一人でもいい、傷つくものが減ってくれることを祈っている。君が何をどうするのか私にはわからない、ただひとつだけわかっているのは、リオンにしか出来ないことがあり、それによって救われる者がいるということだ」

「エルディオン殿下……」

「ランプの灯りを、一人でも多くの者に」

「はい」

 しっかりと握りあった手を離してリオンは深々と頭をさげた。

「ほんとうに、ありがとうございます」

 そして穏やかに微笑みを称えたエルディオンはフィオラに顔を向けた。

「リオンを頼む」

「はい。命にかえても」

「君も無理だけはせず。リオンの言葉に耳を傾けてミオに代わって見てきてほしい。我々がこれから知らなければならないことを」

「はい、必ず」

「では、南海岸へ。本来は君の希望通りネグルマに行かせるべきかもしれない。けれど‥‥力を貸してくれ。我々では到底理解出来ない世界へ何も知らず足を踏み込んで出られなくなる前に、導いてやってくれ」


 フィオラはその時、リオンの中の《何か》がゆっくりと目を覚まそうとしているのを感じる。

(なに?これ‥‥)

 潜在能力が開花したり、強い意志を持ったときなど、人の気が変化する。フィオラはそれを察知することが可能でどんな変化か瞬時に判別できる。

 だか、そのどちらでもない。リオンの《何か》は今までのものとは明らかに違うのにそれが何なのか、全くわからない。


 目覚める


 少し前、この王都に現れたリオン。普段の魔力は多少使えるとしか言いようがないくらい平凡、というよりそれよりも劣る程度しかない。とても強い魔力が出る日も稀にあり、それに偶然フィオラも遭遇しているが、いかんせん滅多に出てこないその強力な魔力を操る機会自体がめずらしいので、さてどうやってビートやミオ様に代わって魔力の扱い方を教えようと唸る羽目になった。正直彼女に何ができるのか分からないし不安がいつもフィオラのなかにあった。


 けれど。

 それなりの魔導師だと自負するフィオラは彼女が今この瞬間その身に秘めたものを感じ取って、それがとても特異で特別なものだと直感が教えてくれた。


 未知の領域に踏み込んだ瞬間。


 そう悟った。

 今まで必死で培った知識、経験を持ってしても自分の力ではたどり着くことが出来ない世界へ進み始めたことをフィオラは目の前の女の姿から感じて、そしてそれに抗うことが出来ない強烈な引力のようなものに導かれて歩み始めたのはリオンの《何か》によるものだと感じて、ただただその姿を見つめた。

次の幕で一章が終わります。

二章からは王都も離れて、登場人物も増えます。引き続き読んで下さると幸いです。

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