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「おはよー。いよいよ明日から試合だね」
朝食を取ろうと部屋をでた煌は、偶然シルフィとニンフに出会った。
「……」
元気に話しかけるニンフと違い、煌とシルフィは昨日のことを思い出して気恥ずかしくなる。
「あはははっ。二人とも分かりやすすぎだって。シルフ、昨日煌くんは褒めてくれたんでしょ? 性格的に煌くん嘘はつかないはずだからそんな固まらなくても、堂々としてればいいんだよ」
「あの、そう言われると俺が恥ずかしいんだけど」
「あーもう。二人とも可愛いなあ」
ニンフがシルフィをフォローする発言をすると、今度は煌が恥ずかしいと言い出し、ニンフは思わず煌の頭を撫で始める。
「早く行きますよ、師匠」
そんなニンフの煌を撫でている腕を掴むとシルフィは先を急ぐ。
「ほら、煌くんも一緒に」
そんな様子を静かに眺めていた煌をニンフが誘い、三人で朝食を食べることになった。
世間話をしながら軽めの朝食をとり終えた三人は、この日は大会に向けて進行の内容の説明や出場するプレイヤーへのインタビューなどをすることになっているため、ホテルを出て会場へと向かう。
「師匠、インタビューってどんなこと聞かれるんですか?」
「ボクが大会出てた時は、まあ意気込みとか気になる選手はいるかとか、当たり障りのないこと聞かれたかな。今回も聞かれるのはんそんなことだと思うよ」
「今から考えとくか」
「そんなに気負う必要もないと思うけど。ま、事前に準備しとくのはいいことだね」
聞いたことをもとに答える内容を考えようとする煌に、インタビュー経験者であるニンフは、そんなに身構えなくてもいいとアドバイスを送る。
「そういえばトーナメントの組み合わせも今日発表でしたっけ?」
「ああ、うん。そうだね。みんなでくじ引いて決めるんだ。だから大会にでる他の選手ともその時に会えるよ」
「そっかー。私どんな人がいるか楽しみだな」
「煌くんは多分注目されるだろうから覚悟しといた方がいいと思うよ」
「なんでです?」
ニンフの言葉に煌は理由が分からなく疑問をぶつけた。
「いやだって、多分煌くんって中学生だし、多分最年少だよ。そりゃ目立つって」
「確かに中学生以下の人は流石にいないだろうし、注目されそうだね」
「そんなこと言ったら二人も綺麗だし、目立ちそうだけど」
「まーたそういう嬉しいことをすらっと言う。シルフなんてほら、また赤くなっちゃってる」
綺麗と言われ満更でもなさそうなニンフは、肌が色白なためすぐに赤くなってしまうシルフィを発見するとそう弄る。
「もう、煌は年上をからかわないの!」
煌自身はからかったつもりはなかったが、照れ隠しかシルフィはそう声を大きくして言った。
「ほんと、仲いいね。ちょっと妬けちゃうよボクは」
「師匠も、冷やかさないの」
「はーい」
見ている人に仲の良さが伝わってくるやり取りをしていると、気づいたときには会場の目の前までたどり着いた。
「いやー何度見ても大きいね」
ニンフは会場を見上げ、嬉しそうに言う。またこうした舞台に立てるのが嬉しいのだろう。
「ほら、師匠。行きますよ」
そんなニンフをシルフィが背中を押してスタッフのところまで連れて行き、身分証明をして三人そろって中へと入る。
「綺麗だねー」
中に入りロビーを歩いていると周囲を見渡していたシルフィが感想を漏らした。
ガラス張りの建築で日差しを取り入れるようになっており、とても明るく、装飾も多いが適度な量でバランスがとれていて美しさを際立たせており、シルフィが思わず綺麗と言ってしまったことにも納得のいく造りとなっている。
「そうだったね。シルフこういうの好きだったよね」
「うん」
そんなことを話ながら三人は進んでいく。少し迷いながらも順調に進んでいくと、本戦の試合をするメインステージが見えてくる。
「もう結構いるね」
大会に出場する十六人のうち半数以上の人が集まっていた。
「師匠知ってる人いる?」
「うーんと、ボクが知ってる人はいないかなー。やっぱり元プロとかで出てるのはボクだけだと思う」
周囲を見渡したニンフは見知った人はいないと告げた。
「俺は一人、二人見たことある人いるよ。他のゲームの大会とかで上位常連だった人だ。最近見ないと思ったらこっちのゲームに移ってきてたのか」
煌はニンフと反対に見たことがある選手がいると言った。他のFPSゲームの大会で上位をとっていた上手いプレイヤーだ。
「へー。それは気を引き締めないといけないね」
戦うことになる相手の様子を見ていると、選手全員がそろったようで運営スタッフが本戦の進め方の説明を始めた。
その話をまとめると、翌日から始まる本戦の八試合ある一回戦を一日に二試合、つまり四日間で行いその後、計四回ある二回戦の試合を二日にかけて行う。その後、準決勝を一日で行い、その後一日の休憩日が入ると、翌日に決勝戦とその後の優勝者によるプロゲーマーとの対決が行われる。それで計九日間の試合日程ということだった。
勝ち進めば気の抜けない試合がずっと続くことになるが、一回戦で負けてしまえば残りの八日間は暇となり試合を見に来ている観客と大差ない状態になってしまう。
「それでは明日から始まる一回戦の組み合わせを決めるくじを引いてもらいます」
前にでているスタッフの一人がそう言った。このくじで決まる対戦相手によっては一回戦で敗退することも順調に決勝に行ったりすることもある。だが煌とシルフィ、ニンフの三人は誰が相手であろうとも負けるつもりはなかった。
スタッフは近くにいた選手から順番に呼ぶとくじを引かせ、選手が引いたくじはスタッフが全員が引き終わるまで預かっていく。
「どきどきするね」
その言葉通りに緊張の面持ちでシルフィはくじを引く他の選手を眺める。引かれたくじはまだ開かれることはなく、全員が引き終わった後に一斉に内容を確認することになっている。
「いい? 念を押すけどボクたちの中で誰と誰が当たって、誰が勝っても恨みっこなしだからね」
「わかってる」
「そういう師匠こそ私に負けて拗ねたりしないでね」
「言うようになったねシルフ」
そんな話をしているといよいよ煌たちの順番となり、煌、シルフィ、ニンフの順で引いていく。選手全員がくじを引き終わると、スタッフが全員のくじを開けていき、一回戦の第一試合から発表していく。一番最初に呼ばれた名前はライトだった。そしてその対戦相手は先ほど煌が知っているといった他のゲームで名を挙げていた選手で名前をフレームという。
「煌くん初戦からだね」
「いきなりか。まあいつの試合でも勝つことに変わりはないから関係ないけど」
「自信満々だね、煌は。こんなところで負けたら承知しないからね」
「任せとけって」
シルフィの言葉に煌は答えると続くスタッフの試合の組み合わせの発表に耳を傾けた。
そして次々と選手たちの名前が呼ばれていくが、未だにシルフィとニンフの二人の名前が呼ばれることはない。
そして、まだ決まっていない残りの試合は残り二つとなり残った選手はシルフィたちを含め四人となった。
ここまでくると、最初は次々と決まる試合の対戦表にあれやこれやと話していた二人の口数も皆無となっていた。煌もその二人のだす緊張感にのまれ、ただただ見守るしかすべはなかった。
そして次に呼ばれた二人の選手名にシルフィとニンフの名前はなかった。
この時点で大会本戦、一回戦の最終試合に挑む選手は決まったも同然だ。だから、スタッフが続く最終試合を行う選手の名前――シルフィとニンフの名前を呼んだことにそこまでの衝撃はなかった。が、それでも当人たちは意識せざるを得なくお互いに互いを見つめあう。
「まさか一回戦目から戦うことになるとはねシルフ」
「……師匠」
可能性としては微々たるものだったが、予選の時から師弟対決はあり得たことだ。そしてそれはここにきて実現することとなった。そんな二人を煌は神妙な面持ちで二人を見守っている。
「なに、そんなに身構えてるの煌くん。いきなりシルフと戦うことになって驚くのは分かるけど、さっきも言った通り誰と当たっても不思議じゃなかったんだから。お互いに勝ち進めばいつかは当たってたんだし、早いか遅いかの違いだよ」
「そうだよ煌。そんなに気にしない気にしない」
二人にそう言われてしまっては、当事者でない煌のほうが気にしすぎるわけにもいかず一言「二人とも頑張ってください。応援してます」と伝えた。
「ありがと。……そういえばこの感じだと、勝ち上がっても煌くんと戦うことになるのは決勝になるね」
一番最初に名前の呼ばれた煌と、一番最後に名前を呼ばれたシルフィとニンフ。つまり二人のどっちが勝つことになっても煌と戦うことになるのは決勝戦になるのだ。
「あー、そういえばそうだね。煌と戦うなら決勝になるんだ……」
一時は気まずい雰囲気になるかと思われたがいつも通りの状態に戻り、三人は普段通りの会話を続けその後に控えていたインタビューも滞りなく無事に終えたのだった。