10
翌日。第一回戦第一試合、第二試合当日。
煌はシルフィとニンフと集まって昼食を食べ終えてそのまま会場へと歩いて向かっていた。
「煌、どう? 調子のほどは」
「バッチリだ。昨日は今日のことを考えて早めに寝たからな」
任せろと言わんばかりにはっきりと答える。
「それは、頼もしいね。もし煌くんが負けたら罰ゲームね」
「なんでだよ」
「えー? もしかして煌くん本当は勝つ自信ないのかな」
「そこまで言うならいいですよ。罰ゲーム受けますよ」
売り言葉に買い言葉だったが、ニンフのちょっとした挑発に煌は受けて立つことにした、
「うーん、それじゃ罰ゲーム何にしよっか。シルフはなにかある?」
「え、私?」
「うん。てかシルフに罰ゲームの内容決めてもらおうと思って言ったんだよ」
「師匠はまたそんな勝手なことを……」
そう口では言いつつも頭の中ではしっかりと罰ゲームの内容を考えているシルフィ。
「そうだね……うん、それじゃあ今度どこか連れてってくれると嬉しいな」
「中学生に高校生がたかるんすか……別に負けないからいいけど」
「違うよ、煌くん。これはデー……。あはは、シルフそんなに睨まないでよ。ボクはシルフのために言おうとしたんだよ」
ニンフはよくわかっていない煌に説明しようと口を開くが、シルフィによって再度口を閉ざされることになった。
「大きなお世話です、師匠」
状況の理解がよくできない煌は困惑するが、試合前に自分を気遣って道化を演じているのだろうと思い込むことにした。そんな話をしながら会場に入り、大会にでる選手が一堂に会する控室へと足を運んだ。試合が実際に行われるステージとは隣接している、そこにはすでにほかの選手たちがある待っており煌たちが一番最後のようだった。
やがて、大会開始時間となると、スタッフがステージ上に現れたようで観客たちの歓声が控室の中まで聞こえてくる。スタッフが大会に向けて事前説明を観客にしているため、まだ選手が入場するまで少し時間があった。その時間を使い煌はこれから始まる試合に向けてイメージトレーニングをして時間を過ごす。
やがて説明が終わったらしく、スタッフが選手の名前を呼び始めた。そして選手たちはその声に答える形でステージ上へと進んでいく。
次々と呼ばれ新たな選手が壇上へ姿を現すたびに拍手や歓声が上がる。
ステージの一番奥にある大きなモニターには選手の名前や先日のインタビューの様子がでかでかと標示されていた。そして煌たちの順番になり誰一人として例外なく歓声をあびせられながらステージへと進んでいく。
最年少と言うことで否が応にも大きな歓声を受けるライト。そしてニンフの現役時代を知っている観客が多いのかニンフにも盛大な歓声が上がる。
そしてライトがステージ上に立って最初に思ったのは、試合を楽しみにしている観客の多さだった。あたり一面に広がる人、人、人。まるで人の海のようだった。
照明がステージ上の選手たちを照らし出しているため、あまり遠くまで見通せないが、それでも分かる圧倒的な人の数だ。十六人の選手が全員揃うと、ひときわ大きな歓声が上がる。ステージ上にそろった選手たちは観客の声援にこたえ手を振り返している者や、会場を見渡す者、これから始まる試合に胸を高鳴らせる者など十人十色の反応を見せていた。
そしてすべての選手の紹介にされたモニターにはトーナメント表が表示される。事前に知らされていた選手たちと違い、それぞれの好きなプレイヤーを応援しに来た観客たちはここで初めて試合の組み合わせを知ることになる。そして、少し時間がたつとトーナメント表がだんだんと拡大されていきこれから始まるライトとフレームの組み合わせがクローズアップで表示された。
「それでは、これより本戦第一試合一回戦、ライト対フレームの試合を始めます」
そうスタッフが宣言したことにより煌とフレームと呼ばれた背の高い男以外の選手はステージから離れていく。そんななかシルフィとニンフは煌のもとに近づくと二人そろって「頑張って」と言い残して去っていった。
防音ブースの中に用意されているパソコンの前に煌とフレームは移動し、試合を始める準備をする。本戦の試合から実況や解説をする人や観客がいるため選手が試合に集中できるようにとの配慮から防音ブースが用意されているのだ。自宅ではヘッドセットを付けてWGOをプレイする煌だが、大会ではイヤホンをしてその上からイヤーマフをしてプレイすることになる。
二人は無事支度を終えたことをスタッフに告げると、試合開始のカウントダウンが始まり煌はモニターの中にへと意識を集中させ始めた。
中継をするカメラが煌やフレームをモニターに映していたが試合が始まると同時に、試合の映像へと切り替わった。
試合が始まったと同時に、ライトは定石通りに前進していく。普段と違う状況で思わぬミスをしてしまうかもしれないと思ったが故の行動だった。相手はほかのゲームとはいえ大会常連のフレームだ。こういった状況での試合にも慣れているだろうことを頭に入れてライトは体を動かす。
ガーデンとの特訓が功をなしているのか、ライトは予選の時よりも体が軽く敵の動きも鮮明に予想できていた。その予想に基づいてライトは位置取りを行いフレームがいると予想した方向にスカーを向けて構えて待機していると数秒としない間にフレームがやってきた。
ライト自身、予想通りにことが運んでいることに驚くが、しっかりと狙いを定めてスカーを発砲する。その攻撃を予想できていなかったのかフレームは攻撃をまともに受け、みるみるうちに体力が無くなり呆気なく試合が終わりを告げた。
他のゲームでのフレームの活躍を知っていた観客もいるのだろう、困惑している観客もいたが大半の観客と実況者や解説者は、この圧倒的な試合内容に盛り上がりを見せる。
そして煌自身も表には出さずにいたが面食らっていた。ガーデンとの特訓の成果がここまでのものだとは思っていなかったからだ。相手側の防音ブースを見るとフレームも同じような状態なのかただただ呆然と視線を煌の方に向けていた。が、その視線の中に明らかな称賛の色が混ざっていることに煌は嬉しさを感じる。こうして無事に二回戦へと無事に駒を進めた。
試合が終わった煌が次の選手と入れ替わりに舞台への裏側へと消えるとシルフィとニンフが驚きと感嘆の声をかけた。
「煌、いつの間にそんなにうまくなったの」
「煌くん、すごいじゃん。解説の人も言葉を失っちゃってたよ」
二人がほぼ同時に、嬉しそうに話しかけてきたことを煌は嬉しく思った。そして調子よくなった煌は予選が終わったことにガーデンというプロゲーマーに特訓してもらったことを話した。
「えっ、あのガーデンが? 珍しいこともあるもんだ」
過去にはガーデンと直接話をしたこともあるニンフは、意外なこともあるもんだと驚きの声を上げる。
「そういえばなんだか約束とか言ってた」
当時気になっていたがガーデンが内容を教えてくれなかった疑問を煌はニンフに伝えた。
「約束? …………なんとなくわかったかも」
「どういうことだ?」
「うーん、確証もないからまだ秘密」
約束という言葉で思い当たる節があったのかニンフは答えにたどり着いた様子だった。しかしそれが正解か確定できる情報がないため、煌に伝えることはなかった。そんな話をしていると気付いた時には第二試合目の選手の準備が終わったらしく試合が始まる寸前だった。
「あ、二人とも。次の試合始まるみたい」
シルフィがそれを伝えると煌とニンフは話をするのをやめ、試合の様子をうかがうべく控室を後にし観客席側へと移動し試合の見学をすることにした。
「この試合は……二人とも機動力重視の装備みたいだね」
試合を大きく映し出しているモニターの中には動きやすそうな軽装の恰好をした二人のプレイヤーが似たような形をした短機関銃をもって索敵をしている様子が映し出されていた。
「この試合は短機関銃同士の勝負か。これは実力差がそのままでそうだな」
同じプレイスタイルで同じ種類の銃を使う場合、装備によるハンデはほとんどなく、お互いの実力がはっきりと試合運びに影響するのだ。
ステージは地下の研究施設というコンセプトの場所で、場所が入り組んでおり短機関銃使いにとっては願ってもない戦いやすいステージだた。この試合の勝者が次の対戦相手となるため煌は二人の癖を見つけようと目を皿のようにして見つめる。そんな煌の雰囲気が伝わったのかシルフィとニンフも静かに試合の様子を見守ることにした。
そうしている合間にも試合は動いており今は撃ち合いにへと発展していた。お互いに場所を目まぐるしく移動し、短機関銃使いとしてお手本のような戦い方をしている。遠距離では火力が乏しいが、近距離の撃ち合いでは連射の速さから瞬間的な火力が高い短機関銃は常に相手の懐に潜り込むような戦い方になることが多い。そのためモニター映えがする戦いとなり観客たちも盛り上がっていた。
お互いが同じ戦い方をするため、動きを読みやすいのかどちらも決定打をうてず、徐々に体力を減らす試合がしばらく続き、実況者と解説者が間を持たせる意味も込めて、観客にわかりやすいようにかみ砕いて説明したり、盛り上げるために工夫をする。
そして長時間の試合の末、生まれた小さなスキを突かれる形で体力が無くなる、という終わりをむかえた。
「やっぱりここまで来た選手だけあってどっちもうまかった」
煌が見ていてとても白熱したいい試合だったと感想を言う。
「そうだね。これはレベルの高い大会になりそうだ」
ニンフの目から見てもいい試合であり、このレベルの試合が続くとなると、とても白熱した多くの人を魅了する良い大会になると感じていた。
そして今日行われる予定の試合がすべて終わったこともあり三人は観客や試合を見ていたほかの選手たちよりも早めに抜け出し会場を後にした。
三人が目指したのは会場の近くにある小さなカラオケ店だ。煌が今日の試合で勝ったら煌の勝利を祝うのと、試合を控えているシルフィとニンフのモチベーションを高めるのが目的だ。料金を支払い個室へと入るとニンフが煌に話しかける。
「煌くんは何歌うのかな」
「うーん、アニメの曲とか」
「あれ煌もアニメ見るの?」
ニンフの質問に煌が答えるとシルフィが意外な共通点を見つけたと言わんばかりに嬉しそうに話しかけた。その様子に煌も楽しそうに、誰もが知っていると言っても過言でないほど人気なアニメや、夕方頃にやっているアニメの名前を告げた。そしてそれは静かに聞いていたシルフィの期待していた答えとは違ったようで、だんだんと諦めにもにた表情をし始めた。
「シルフ。そう気を落とさないの」
ニンフはどうしてシルフィがそんな反応を示しているのか知っているようで優しくシルフィに言った。
「うん、わかってたよ……普通アニメって言ったらそっちだよね……」
病弱だったシルフィはベッドの中で過ごすことが多く昼夜を問わず睡眠をとることが多かった。そのため、深夜でも起きていたことが多々ありその時にテレビでやっていたとあるアニメを見て以来、深夜帯に放送しているアニメが好きだった。そのためアニメを好きだと言った時には仲間だと思ったのだが、煌が今言ったアニメは中学生ぐらいの年頃の男の子なら誰もが見ていると言えるようなアニメだ。つまり、煌が言うアニメとシルフィが言うアニメでは種類が違うのだ。
「なんだったら、引き込んじゃえばいいんじゃないかな。ボクの時みたいに」
そしてそんなシルフィと付き合ってからだが、ニンフもそういったアニメを勧められる形で見始め今では自主的に深夜アニメを見るようになっていた。
「うーん、とりあえず私の好きな曲歌うことにするね」
すっかりしょげてしまったシルフィだが、一番手を名乗り上げ歌を入れる。
マイクを握り曲のイントロが流れ始めたのを静かに聞いているシルフィは歌詞のある部分に入ると一聞しただけでは細く華奢そうな、それでいて鈴の音のように綺麗な透き通りつつも芯のある歌声で歌いだす。聞いた覚えのない曲であったが煌はその歌声に思わず過ぎる時を忘れ聞き入ってしまう。そして、気付いた時には曲が終わりシルフィがきょとんとした様子で煌を見つめていた。
「どうしたの煌?」
「その……良かったよ、歌」
シルフィの歌が終わってしまったことに一抹の寂しさを感じていた煌は、よかったと伝える。
「でしょー。たまに音程ずれるし上手ってわけじゃないんだけど……えーと、魅了? されるんだよね」
ニンフも珍しく絶賛しするとシルフィはいたたまれなさそうに、マイクを無理やりニンフに押し付けた。
「もう! そんなことよりほら、師匠の番だよ」
シルフィからマイクを受け取ったニンフが歌うのは、煌でも聞いたことがある大ヒットして社会現象にまでなったことがある深夜アニメの曲だった。シルフィとは違い力強い歌声だが、勢いで歌ってしまう癖があるのか歌詞を間違えることも多々あった。だが、総じて伸びのある歌声歌われる曲は原曲の良さもありとても良いものだった。
「久々に歌ったら歌詞間違えちゃった。もう一回歌いたいけど、順番だもんね……はいっ、煌くん」
煌はもう一回ぐらいならニンフが続けて歌うのに文句はなかったが、ニンフが自制しマイクを手渡したので断ることはせずに受け取るとカラオケに来るとよく歌う十八番の曲を入れた。
「あ、私これ知らなーい。師匠は知ってる?」
曲のタイトルを見たシルフィはその曲を知らなかったようで、ニンフに問いかける。
「昔やってたドラマの曲だね。結構人気があったはずだけど、シルフ知らないの?」
意外そうにニンフは答えた。
「うん。そもそも一人で部屋の中にいると人気があるとかないとか関係ないし」
「あー、そっか。ごめん」
嫌なことを思い出させてしまったと反射的に謝るニンフに対してシルフィは朗らかに笑う。
「師匠、前から言ってるけど気にしないでいいよ。確かにあの頃はつらかったけど今は、師匠がいて煌もいる。今は、十分あの頃の寂しさを補ってあまるほど楽しいもん」
「シルフのそういうところ。ボク好きだよ」
「えっ? 師匠がそんなこと言ってくれたの初めて聞いた……かも。やった」
「あの、歌っていいんだよね?」
シルフィとニンフが二人で盛り上がってしまって蚊帳の外になってしまった煌はイントロが流れてきたことによって肩身が狭そうに言った。
「あ、ごめんごめん。どうぞ、煌くん」
煌に申し訳なさを感じながらニンフは先を促した。そんな微妙になってしまった空気の中でも煌はしっかりと歌い切ると、煌の歌い方が気に入ったのかシルフィはもう一つあったマイクを手に取ると二人でデュエットしようと持ち掛ける。
シルフィが持ち掛けた曲は昔流行った映画の主題歌で、決意の朝にというタイトルの名曲だ。煌もその歌が好きで当時映画館に足を運んで見ていたこともあり、まだ歌詞も覚えているためシルフィと一緒に歌うことにした。煌とシルフィは流れ出す曲に懐かしさを感じながら歌いだす。ニンフもその曲を知っていたのか時折歌詞を口ずさみ、二番になるとシルフィのマイクに顔を近づけて一つのマイクを使い二人で歌いだし、最終的には三人で歌うことになった。
「もう、師匠。急に入ってこないでくださいよ」
歌い終わるとシルフィが言葉とは裏腹に楽しそうに言った。
「ごめんね。二人が歌ってるに聞いてたらボクも歌いたくなっちゃってさ。同じ曲歌うのも気まずくなっちゃうし、歌うならここしかないっ! って思っちゃって」
舌を出しながら冗談めかして言うニンフにシルフィは「全く……」と微笑んだ。それからはそれぞれがソロで歌ったりデュエットで歌ったりと楽しい時間を過ごした。




