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 やがてその時はやってくる――

 実況者に呼ばれステージ上へと上がる煌は、先ほどまでの熱い試合を観戦していた観客たちからの暖かい拍手によって迎え入れられた。握手を求める実況者に答え、差し伸べられた手を握る。

 明らかな歓迎ムードに、プロゲーマーに応援が集中するだろうと考えていた煌は一先ずほっと息を吐いた。

 何やら話し出した実況者と解説者の言葉を適当に聞き流しながら観客席を眺めていると、大勢の観客の中に目立つ存在があった。

 奈緒がぴょんぴょんと飛び跳ね自分の存在をアピールしているのだ。そんな妹の存在を、微笑ましく思う煌。だがまだ戻ってきていないのか、単純に見つけられないだけなのかは分からないが、シルフィたちの姿は見つからなかった。

 そんなことを考えていた煌だったが、ひときわ大きな歓声で思考を中止せざる負えなくなった。どうやら、相手となるプロゲーマーが発表されるようだ。

「それでは、謎に包まれ続けていたライト選手の対戦相手となるプロゲーマーの紹介をしましょう!」

 盛り上がる場内に答えるように、大げさな手ぶりをとる実況者。そしてそんな実況者と連動するようにして控室のドアが開き、プロゲーマーがステージへと進む。その姿を見た瞬間煌は呆気にとられ、声を出すことが出来なかった。

「日本を代表するプロゲーマーと言えば、この人以外にはあり得ないでしょう! 世界中のプロゲーマーが集まるメジャー大会で準優勝にまでたどり着いた唯一の日本人選手。全盛期の時には国内に勝てる者は誰もいないとまで言わしめた生ける伝説。その名は、レイイイッ!!」

 そう、そのプロゲーマーの名前はレイ。現実世界での名前を、勝。――煌の父親だ。

 その姿がモニターに映り、観客席から見えるようになると観客たちの声援が大気を震わせるほどのものとなる。

「よう、煌」

 いつも通りの気安さで話しかける勝。それによって、煌も正気を取り戻す。

「ドッキリとかじゃないよな?」

「こんなところでそんなことしてどうする。なんだ、ビビったのか」

 いい歳した大人のわりにあどけなさの残る笑みを浮かべる勝。

「まさか。むしろありがたいと思ってるよ。いつかは超えたいと思ってたから」

「言ってろ」

 煌が挑発するように言うと、勝は嬉しそうに答えた。

 その場にいた観客たちも煌が勝の息子だと言うことを知っているため、そのやり取りを楽しそうに眺めている。

「そんじゃ、早速やろうぜ。見てる方たちにも申し訳ないしな」

 そういうと勝は観客席に向けて両手を大きく上げて手を振った。

 実況者と解説者もその様子を見ると、二人を防音ブースへと案内し試合を始める準備をし始める。

 煌と勝。両選手とも防音ブースの中にある椅子に座ると、目の前にあるパソコンの設定を微調整し、事前準備を終えいつでも開始できる状態になる。

 それを見ていた実況者が、カウントダウンを始めると今回はそれに観客も一緒になって数え始め、大きな声が場内に響き渡った。

 ライト対レイ。ライトのプロになれるかどうかをかけた親子対決の火ぶたが切って落とされた。

 先ほどティンバーウルフに壊されたスカーも予備を持ちだしてきたため、ライトの装備は万全だ。

 対するレイの装備はアメリカで開発された名作銃のM4をさらに改良し、近代化されたM416という銃レーザーサイトやフォアグリップ、ホロサイトを付けていた。顔全体を覆うフルフェイスヘルメット、隠密性に優れた黒っぽい服に、ライトと同じ太もも辺りで拳銃を保持するサイホルスター。だがライトのホルスターはナイロン製でレイは革製という細かな違いはある。そして肘と膝を守るプロテクターを着けていた。ライトとほとんど似た服装だ。と言っても真似したのはレイではなくライトの方だが。

 最後の試合が行われるバトルフィールド。それは遊園地だった。

 それを見た瞬間に煌は思わず舌打ちをしてしまった。シルフィとの戦いで動きを読むのに力を尽くしてしまっている今、煌の中に残っているのは休憩時間でわずかに回復しただけの集中力だけだ。騒音が激しく敵の動きが分かりにくいこのステージは一番やりたくなかった。

 だがランダムでこのステージが選ばれてしまった以上、そのことを悔いていても仕方がない。ライトは騒音が少なそうな場所を見繕って移動を開始する。

 どういった行動を起こしてくるか予想もつかないが、走り回れば足音が響くし、リロードすれば弾倉を変える音がする。それ以外にも音が出る動作が多々あり一つ一つの音が響く距離が違うという点はあるが、注意していれば何かしらのアクションをする前にその予兆が聞こえてくるのだ。自分より腕のたつプレイヤーと戦うには、常に自分の有利な場所に位置し主導権を握らなければならない。

 ライトはレストランや軽食店、土産物屋などのアトラクションではなく店が多い地帯に陣取った。店が乱立する地帯のため銃撃戦になってもすぐに物陰に隠れることもできる。だが、それは相手にも言えることで不意を撃たれやすいと言うことでもある。

 そのためライトは精神を酷使しないよう適度に集中してレイの動向を探る。

 そんな時だった。周囲を警戒していたライトの視線の先で、突如フラッシュグレネードが飛んできて破裂した。

 咄嗟に視線をずらしたライトは完全に視力を失うことはなかった。それでも視界を白く染めながらほうほうの体でその場を離れ、近くにあったポップコーンの屋台の後ろに隠れる。

 ピンを抜く音が聞こえなかったため、レイが近くにいないと言うことだけは分かる。が、それ以外のレイに関する情報は何も得ることが出来なかった。

 そのため遮蔽物に隠れながらも、どこからか狙われているかもしれないと言う緊張感が常にライトを包んでいた。だがすぐに銃撃されないと言うことはライトの姿が今、レイの視線の中にないと言うことが分かる。

 つまりレイが今いる場所はライトと屋台を挟んだ反対側ということになる。だが正確な位置が分からないと対処の仕様がないためライトは探り撃ちと呼ばれる相手が居そうな場所に適当に撃って、敵に撃ち返させて居場所を教えてもらうという方法を取ることにした。

 探り撃ちをして被弾してしまうということにならないように、レストランの角や破砕音を響かせるためにガラスを撃つ。

 だが、相手もゲームの隅々まで知り尽くしたプロゲーマーだ。簡単に自分の優位を潰すような行動はとらない。

 そのためライトは、一つスモークグレネードを消費せざるおえなくなった。スモークグレネードを足元に落とし煙に姿を隠してこの場から逃げようと言う作戦だ。

 プシューと音を立ててアルミ缶サイズの物体から煙が吐かれ、辺りを覆いつくす。

 すぐに飛び出すとタイミングを読まれ、姿が見えないながらも撃ち抜かれる可能性があるため数秒心の中で数えてその場に待機することにした。煌の読みは正解でその数秒の間に数発の銃弾がダダダッと屋台のすぐ隣に飛んできた。

 銃声が聞こえ、さらに数秒待ったライトはすぐ近くにある軽食店の角に隠れ、その場にしゃがむとすぐさまスカーを構え上半身だけを斜めにして角から体を出す。そして先ほどの銃声で位置が割れたレイの元にセミオートで銃弾を数発撃ちこむ。

 すると人影が障害物に隠れたのが見えた。ライトの狙いは間違っていなかったのだ。レイは約五十メートルほど離れた地点にいる。

 そのことを確認したライトは、次にレイが顔を出すところを正確に狙うためその場に伏せる。レイの居場所が確定した以上、不意を突かれることはないためだ。

 そして当然そのことが分からないレイでも無かった。レイはライトの射撃を誘うように体を一瞬だけ晒すと元の障害物に隠れる。そしてそんなレイに反応して発砲したスカーの銃弾が、先ほどレイがいた場所をむなしく通過していく。それを確かめたレイは再び体を障害物から出すと今度はそのまま走り抜け、障害物を利用しながらその場から遠ざかっていった。

 伏せていたのが裏に出てしまい、立ち上がるまでに時間がかかってしまったライトはそのあとを追うことが出来ない。

 追従することが叶わなかったライトは立ち上がると、位置がばれている状態は不利になるため直ぐに走って移動を開始する。ライトが次に目指す場所はお化け屋敷や絶叫マシーン類のアトラクションが集中している地点だ。その場所を選んだのには理由があり、このステージで四方にある隅の一角に目的の場所が存在すること、マスコットキャラクターの行進のルートから外れていることが主な理由だ。

 道中、レイによる銃撃がおこなわれるかと警戒していたライトだったが、途中で起こったことといえば行進してくるマスコットキャラクターに会ったことや、近くをジェットコースターが通っていったことだけだった。思いのほか素直に目的の場所に到着できたがそれだけで警戒を解くわけにはいかない。

 お化け屋敷の出入り口に隠れ周囲を警戒する。中からお化けのものと思われるささやき声が聞こえてくるが、他のアトラクションが発する騒音に比べれば気にするほどではない。このお化け屋敷はとても大きく中は入り組んでいるので、いざという時は中に入って身を隠すこともでき、尚且つ裏口があるために逃げ出すことも可能だ。先ほどのようにレイに先手を取られないようにと、壁に囲まれているお化け屋に隠れたライトは、今度こそは自分から攻撃を仕掛けて優位な状態で戦うぞと意気込んでいた。

 十数秒後、そんなライトの気持ちが伝わったのか障害物に身を寄せながら向かってくるレイの姿を発見することに成功した。絶好のチャンスを逃さないようにとライトは気を張りながら身を潜め続けながら照準でレイをとらえた状態で待機する。撃ち始めるのはレイがもっと近づいてきて避けることもままならないようになってからと、ライトは考えていた。

 そんなことを知らないレイは周囲を警戒しながらゆっくりと歩を進める。

 ドクンドクンとはやる気持ちを抑え、煌はモニターをしっかりと見つ目続ける。撃つタイミングが早すぎても遅すぎても命取りになる可能性があるのだ。

 そしてレイが目的の地点へ足を踏み出したとき、ライトはスカーの引き金を思いっきり引いた。激しい銃声を発しながらフルオートで吐き出される弾丸。ライトの発砲したタイミングは絶好のタイミングで、どんなプレイヤーでも避けきれるものではなかった。――レイを除いてだったが。

 レイは事前にライトの位置を見つけていた訳でも、マズルフラッシュを直前に見ていた訳でも、音に反応した訳でもない。ほとんど直感のようなものだ。長い間プロゲーマーとして第一線のところで戦い続けたレイだからこそ、感じられた違和感のようなものを感じ取りライトが撃ち始めるコンマ数秒前に回避行動に移っており、アトラクションとアトラクションの間にある路地に逃げ込んでいた。それでも完全に避けきれた訳でなく最初の数発は被弾し、体力を残り四割としていた。

 だが、煌は体力を減らしたことに喜びを感じるどころか反対に不安を感じていた。つまり、レイに勝てるのかと。

 今の銃撃はライトが大会中におこなったどの銃撃よりも、狙いやタイミング、反動の制御などがうまくいったと自信を持って言えるものだった。それはレイを倒せると確信できるほどに。だが結果は違っていた。

 それでもここで落ち込んでいては勝てる試合も勝てなくなると、防音ブースで外に音が聞こえないことを良いことに自分を叱咤し、気持ちを奮い立たせる。

 自分は今、何千何万といったプレイヤーを代表する形で今この場にいるのだと。シルフィやニンフに奈緒、それに大会で試合に負けても自分を応援すると言ってくれた選手や予選でであったトレインの気持ちを一身に宿して。そして何よりも自分が長年の夢だったプロゲーマーになるための最後の壁がずっと憧れてきたレイであること。それらすべてを思い出す。負けたくないと、負けられないと。

 それを確認したライトはお化け屋敷をでるとフラッシュグレネードをレイが逃げ込んだ先へと投げつける。そして、間を置かずにグレネードも投げ入れた。狙い通りに放物線を描いて飛んでいった二つのグレネードを尻目に物陰に隠れる。それとほぼ同じくしてグレネードが順番に爆発する。まず先に閃光がその場を支配し、その後、グレネードが爆ぜる。

 爆発とともに路地から破片が勢いよく飛び出るのがライトから確認できた。もしレイが反撃のために路地裏で構えていたのならそれで体力を消し飛ばせるはずだった。

 だが試合は終わる素振りも見せない。つまりレイはその場にとどまることを選択せずに、路地を通って他の場所に移動していることになる。

 そんなことを考えていると先ほどのお返しと言わんばかりにM416の銃声が聞こえてくる。不意を突かれた銃撃にライトは被弾してしまう。その結果満タンだった体力のゲージが半分まで減少する。そのことに焦りつつもスカーで反撃をしながら後ろに下がり、レイによる攻撃から身を隠す。

 ライトが腰を据えたのはフリーフォールと呼ばれる絶叫マシーンの影だった。そこから少しだけ顔を出して銃声が聞こえた方向を確認する。だがそこにはレイの姿はすでになかった。撃ち終わった瞬間に移動を開始したのだろう。

 そんな行動の速さ、正確な決断を下す判断力。射撃の精度などもあるが、それがレイがプロゲーマーとして活躍できたゆえんだ。

 だがライトにもそれに負けない読みの速さや深さがある。それを前面に出して戦っていけば決して勝てはしない試合ではない。昔は日本最強の名を手に入れていたレイだがそれも今は昔の話だ。いくら伝説と言われていても歳をとることによる反射神経の衰えなどがあるため、全盛期のころにくらべ今はレイの実力は衰えている。それでもライトにとっては十分な脅威なのだが。

 ライトは弾数が減り心もとなくなったスカーの弾倉を入れ替える。するとそんなライトのそばをマスコットキャラクターの行進が騒音をまき散らしながら進んでいく。そしてレイはそんなチャンスを無駄にはしなかった。

 先ほどライトが逃げた方向を見ていてある程度の位置は判明していたのだろう。スモークグレネードとフラッシュグレネードがライトの付近へと飛んできて爆発する。ライトは直視することはなかったが辺りを煙と閃光が埋め尽くし、さらにマスコットキャラクターの行進がライトの索敵の妨げになるのを利用し、レイは容赦なく突いていく。

 視線が煙によって視界がふさがれているため、足音を消しながらゆっくりと歩いても途中で銃撃されることはない。それを有効活用してライトに近づいていく。

 ライトはフラッシュグレネードやマスコットキャラクターによってレイの位置を探るのが阻害されてしまい、それに気づけない。そしてレイも前に詰めてきてはいるがライトの正確な位置までは分かってはいない。

 その結果、二人は至近距離で遭遇することになった。

 レイが足音を消したまま曲がり角を曲がるとそこに身を潜めて周囲を警戒していたライトの姿があったのだ。

 思っていたよりも近くにいたライト。突然目の前に現れたレイ。

 二人はその事実に驚きながらも、お互いに突撃銃を撃ち合いながら距離を取る。お互いに咄嗟の出来事で構えるのもままならなかったため、至近距離の撃ち合いであったにも関わらず二人の体力は一割弱減るだけにとどまった。

 どちらの体力も下手をすれば一瞬で消し飛ばされてしまう領域にまで落ちたことにより、一つ一つの動きに歓声を上げていた観客たちも煌たちが発する緊張感からか固唾を呑み始める者が増え、先ほどよりも段々と静かになってきていた

 スモークグレネードとフラッシュグレネードの効果も消え、視界も良好となったことでライトは追撃に動き出す。レイに見つからないように気を使いながら、先ほど逃げ込んだであろう場所を予想して詰めていく。

 すると曲がり角を曲がったところで、約百メートル先に道の端にある障害物から顔だけ出して様子をうかがっているレイを見つけた。咄嗟に少し下がり身を隠してからスカーを構える。その様子を見ていたレイも撃ち合うことを選択したようで同じようにこちらに銃口を向けていた。

 そこからはお互いに少ししか見えない体に銃弾を撃ち込むためにセミオートで一発ずつ区切られた銃撃戦が行われる。時折体を隠して、相手の銃撃が止むのを待ってから再び体を出して撃ち返すということ繰り返す。お互いに体力が減っているため無理に数発当てる必要がないことと、自身の体力をこれ以上削られるのを嫌がった結果だった。

 十数秒ほどその場で撃ち合っていると弾倉が空になり、トリガーを引いても弾がでなくなる。そこでライトはレイがその隙をついて前に出てこないか警戒しながら弾倉を交換しコッキングレバーを引いた。これにより、ライトが試合に持ち込んだ弾倉は残り一つとなった。レイの残弾数は不明だが、長期戦になれば残弾のあまり多くないライトの方が不利に違いなかった。

 そのためライトは短期決戦を仕掛けようと、行動にでることにした。最後の一つとなったスモークグレネードをレイが隠れているところに向かって投げつけ、視界を吐き出される煙でふさぐ。そしてレイに疑われることがないように、ライトは足音を出しながら前に詰め煙越しに数発レイがいた方向に向かって発泡する。これで、レイは正面を警戒しなければならなくなる。ライトはさらに注意を引き付けるために煙の中に、最後のグレネードとフラッシュグレネードを投げ入れ、数秒後に爆発音と閃光が広がる瞬間にはすでにレイの背後を突こうと走り出していた。爆発音によって走る音、閃光により目視を封じる作戦だった。

 レイの視線をふさいだライトはレイの後ろを取ろうと通路の裏に回るが、そこで見たのは先ほどのレイが隠れていた場所に広がる煙だった。レイが自分の身を隠す目的で足元にスモークグレネードを投げていたのだ。だがそれでも、ライトが裏取りしているとはまだばれていないはずだ。なぜなら先ほどの複数のグレネードによる陽動はそう簡単に見破れるものでないからだ。

 そう考えたライトは回復してきていた集中力をかき集め、総動員する。いくつものグレネードを使って作り出したこの場面だ。簡単に切り捨てるには惜しかった。

 煌は、はやる鼓動を無理矢理抑えつけ、これまでに自身の窮地を救ってきた全力での読みを発揮する。シルフィとの試合で一回使用してからまだあまり時間も立っていない。三回目は無いと考え、ライトはこの二回目で試合の決着をつけるつもりだ。

 親子だからこそ分かる勝の癖や、この試合の中で起こしてきた行動の数々、ライトが今までに観戦してきていたすべてのレイの試合で、相手に対して起こしていた作戦の数々。そう言ったことを加味して、今この場面で勝がとるであろう行動をズキンズキンと痛む頭で予想する。

 そしてレイの居場所を予想しきったライトは咄嗟の反撃受けないように障害物に身を隠しつつ、その場に伏せるとスカーを構える。そしてレイがいると読んだ地点に向かってここが正念場とばかりに全力でフルオート射撃を開始する。煙の中に吸い込まれていくいくつもの銃弾。

 そしてそのライトの読みは当たっていた。煙越しにだが、レイは確かに被弾し体力を減らしていく。――だがライトの渾身の攻撃もぎりぎりのところでかわされ体力を減らし切ることはできなかった。

 レイが残り体力を残り一割としながらも煙の中から飛び出してくるのを見てしまった煌は、痛む頭と疲労感の広がる体に勝つことは無理なのかと諦めかけ始めていた。自分の持てるすべての力を出した最後の攻撃もレイの体力を消し去ることはできなかった。グレネード類も底をつき、スカーに装填していた弾倉も先ほどすべて撃ち尽くしてしまったため、残り一つの弾倉だけだ。ほとんど惰性によってその弾倉をスカーに装填するライトだったが、やる気はほとんどと言っていいほど無くなっていた。

 煙の中からでたレイはライトを見つけると銃撃をしながら通路へと逃げ込む。放心状態だったライトは無抵抗のまま銃弾を受けるが伏せていたため、被弾面積が少なくなったことが幸いした。残り体力を示すゲージがほとんど見えない状態になりながらもなんとか生き残っていた。

 伏せた状態からしゃがみ状態に移行したライトは、ただただレイが逃げ込んだ先を見つめる。頭の中に響く痛みがやる気と集中力を奪っているのだ。

 そんな様子は観客席にいる観客たちにも勿論伝わっていた。レイをここまで追い詰めたことに感心する者や、唐突に緩慢になった動きに落胆する者と人さまざまな反応をするが奈緒たちを除いた誰もが、ライトの負けだろうと思っていたことに変わりなかった。

 煌の表情も試合が始まった当初とは打って変わって悲愴感が漂っていた。

 このままみっともない試合を続けるぐらいならと、ライトは障害物から飛び出てレイに撃たれようと行動しようとした。

 ――その時だった。

「煌ーーーッ!!!」

 そう自分を呼ぶ声が聞こえてきた……気がしたのだ。シルフィの声が。だが、防音ブースの中でさらにイヤーマフをしているため外からの声が聞こえる訳はない。そしてシルフィ自身も先ほど煌の目の前から去ってから戻ってきてたのか煌からは分からない。だが確かに聞こえたのだ。空耳ではなく、シルフィの声が、自分の耳に。

 そう確信した瞬間、煌は負けるという選択肢はなくなった。試合が始まる前にニンフと交わした言葉を思い出したのだ。この試合は自分一人だけの試合ではないと。今までに出会ったすべてのプレイヤー。そして自分を応援してくれるすべての人。そんな人々の想いと一緒に戦っていると。そう決心した瞬間不思議と頭の痛みは消え、今までにないほどの集中力が湧き上がってくる。

 ライトは飛び出ようとした足を止め、最後の弾倉となったスカーとM45の感触を確かめもう一度深くレイの動きを読む。たった一度、一発だけ先にあてることが出来れば勝てるのだ。そのチャンスを掴むために全力で進んでいく。

 レイがいる場所を再び割り出すと、最後の攻撃を仕掛ける。

 いつレイが顔をだしてきても反応できるように狙いをレイが隠れる場所に合わせながら、じりじりと距離を詰めていく。お互いに相手の場所が分かっているこの状況で勝敗を分けるのは反射神経の速さと運だ。

 ライトがやる気を取り戻したことによって観客も再び熱が入り、その様子を静かに見守る。

 刻々と迫る決着の時。

 ――レイが動いた。これ以上近づかれると不利になると判断したのかわずかに体を出してM416を構え、ライトを狙う。全身を晒しているライトと半身だけを出すレイ。そして互いに発泡音が身を包む。

 先に体力が無くなったのは――――レイだった。

 そのことを確かめ自分が勝利したのだと確信した瞬間、煌は人目もはばからずその場に勢いよく立ち上がるとガッツポーズをした。その拍子にかぶっていた帽子が煌から離れ、足元へと落ちていく。だが、煌はそれよりも全身を使って喜びを表現する。長年憧れてきたレイに勝利し、長年の夢が叶えられたことが嬉しいのだ。

 防音ブースを出ると実況者が新たなプロゲーマーの誕生に興奮した様子で言及している声が聞こえてくる。だがそれよりも煌が気になったのは対戦相手だった勝であった。それは相手も同じだったのだろう。煌が視線を勝に向けると目が合った。勝は息子の成長を楽しむような、優し気な表情をしている。煌は思わず目を潤ませながらもしっかりと前を見据えた。

 その視線の先には観客席があり、そこには温かい声援を送り続けてくれた観客たちの姿が見えた。思わずシルフィの姿を探してしまうが、観客の多さが邪魔をして見つけることはできない。そんなことをしていると、実況者がインタビューをしに煌に近づいてくる。レイを倒し優勝したことについて尋ねる、実況者に煌は緊張しながらもマイクを受け取ると答えた。

「……試合の途中で勝てないと諦めかけた時もありました。でも、その時にある人の声が聞こえてきたんです。そうしたら体の底から力が湧いてきました。だから、この勝利は俺一人の力で手に入れた勝利じゃないんです。勿論観客席の方々の応援も……って言いたいんですけど、正直試合に集中してて全く気にしてなかったです。でも、今ブースから出てきて改めて皆さんの応援の暖かさを感じました。ありがとうございました。嬉しかったです」

 初めてのインタビューにたどたどしくもしっかりと答えた煌。

「レイ選手も一言もらえますか?」

 煌からマイクを受け取った実況者が勝にもインタビューを迫る。

「全力で当たって全力で負かされた試合でした。正直ここまでやるとは思いませんでした、アマチュア対プロゲーマーですからね。でも、ライト選手はそんな私の予想を良い意味で裏切ってくる選手でした。もしかしたら私よりも凄いプロゲーマーになるかもしれません。皆さんこれからライト選手をよろしくお願いします」

 親としての目線は入れないで勝はあくまでもプロゲーマーとして、インタビューに本心からの言葉で答えた。

 そしてそれからは、予選から長く続いた大会の閉会式や、晴れてプロゲーマーとなったライトのこれからのことなどの説明などを滞りなくおこなっていった。レイとの試合が終わり数時間するとライトもようやく解放され自由の身となる。

 そうしてやっと思うように動けるようになった煌は試合が終わってからずっと会いたかった人物を探そうと会場から外に出ようとしたところで奈緒に出会う。

「おにいちゃん、おめでとう! とってもかっこよかったよ」

「よう、奈緒。ありがとうな。ステージ上からお前の姿見えてたよ」

「えへへー。頑張って応援したんだ……それはそうと約束は守ってね?」

「ああ、任せとけ。父さんはああ言ってたけどプロゲーマーの世界はそう簡単じゃないからな。当分の間は一緒にいるよ」

「やった」

 そう喜ぶ奈緒を見て安堵した煌はいつものように頭を優しく撫でるのであった。

「また後でな、奈緒。ちょっと探してる人いるから」

「うん。また後で会おうねー」

 煌が探している人物が誰なのかわかっているのか奈緒は、誰とは聞き返さなかった。

 手を振って見送る奈緒と別れ、日も落ち始め暗くなりつつある道中にいないか見逃さないようにきょろきょろしながら煌はホテルへと向かう。中には大会を見ていた観客もちらほらといるようで、声をかけられる場面もあり煌は丁寧に答えつつも先を急ぐ。

 ホテルにたどり着いた煌を迎え入れたのはニンフだった。

「煌くんおめでとう。とってもいい試合だったよ」

「ありがとうございます。……それでシルフィは今どこに?」

 煌は探している人物がどこにいるかニンフなら知っていると思いそう問いかける。

「シルフ、シルフって煌くんは、ボクのことなんてどうでもいいのかな?」

 そう言いながら睨みつけるように煌を見つめるニンフに慌てて答える。

「そんなことないですって。勿論またこうして会えて嬉しいですよ。負けてたら合わす顔がありませんでしたし」

「あはは。そうだね本当に勝ててよかったよ。シルフも喜んでた……んーそうだねシルフがいる場所は確かにボクは知ってるよ」

「教えてくれませんか?」

「ヒントだけね。煌くんがちゃんと自分で見つけてあげないと意味がないから」

「……わかりました」

 納得しきれない煌だったが、ニンフにそう言われてしまっては返す言葉もなくただただ聞き入れる。

「あんまり言っちゃうと簡単になっちゃうから……そうだね、ボクたち三人で行ったことある場所かな」

「三人で?」

「うん。三人で。これ以上は言わないからね」

「ありがとうございます」

 煌はそれだけを言い残すとその場を後にし、ニンフからもらったヒントを頼りにシルフィを探しに向かった。

 三人で行ったことある場所は、大会の会場・海・カラオケ店・ホテルだ。そして会場とホテルは除けるため、残りは海かカラオケ店だ。

 そう思い至った煌はまず海へと向かう。煌には確信に近い謎の自身があったのだ。シルフィは海にいると。

 すれ違う人の数も少なくなってきた道を一人走っていくと、海が近づいてきたこともあり磯のにおいがしてくる。やがて砂浜が見えてくると、そこに一つの人影が見えた。煌は少し気後れしながらもしっかりと歩いていき、シルフィの元へとたどり着く。静かな砂浜に打ち付ける波音しか聞こえない海岸なので、足音が聞こえないはずもなく背後に誰か来たことは分からないはずがないのだが、それでもシルフィは後ろを向かない。そのため、ライトは話しかける。

「よう、シルフ」

 そう呼ぶ声にシルフィも反応して煌と視線を合わせた。

「煌」

「見てくれてたんだろ? 勝ったぞ。これで俺も晴れてプロゲーマーだ」

「うん。見てたよ」

 勝ったと報告する煌に、ちゃんと見ていたと告げる。

「……応援してくれてたんだろ? 声聞こえてきたよ」

「ほんとに? あの防音ブース結構音遮ると思うけど」

 自身が中に入ってプレイしてた時のことを思い出したシルフィは言った。

「ほんとだって。そもそもシルフィの声が聞こえてなかったら負けてた」

「そうなの? それなら応援した甲斐があったよ」

「本当にありがとうな、シルフィ」

 そう礼を言う煌にシルフィは嬉しく思う。そしてそれと同時に罪悪感が湧き上がる。

「……ごめんね。あのとき、逃げちゃって。負けたのが悔しくてあの場にいるのが辛くて……ね」

 煌に負けたあと逃げ出してしまったことを後悔しているのだ。あのときは辛かったと、どうしても勝ちたい理由があったのだとシルフィが煌に吐露する。

「負けられない理由?」

 その中に気になった言葉があったため、煌はシルフィに尋ねた。

「……なんでもない、忘れて。負けちゃった今となってはもう関係ないことだから」

 一瞬言ってしまおうかという思いがシルフィの中に湧き上がるが、それはできないと伝えることをあきらめる。

 自身で優勝したらと決めたことを曲げることはできない。優勝してしっかりと自信を持ってから、自分の中で気持ちの整理を付けてからでないと、もし煌と付き合うことになっても、どこかひいき目に見てしまうと。ちゃんと、等身大の煌を見れないと。それがシルフィには耐えられないのだ。

「そうか。俺はプロゲーマーになっちゃったけど、それでもこれからもよろしくな」

 改めて挨拶をする煌。プロゲーマーになったところで、何も変わりはないと。

「勿論だよ。たとえプロゲーマーになったって煌は煌なんだから」

「ああ、そうだな」

「これから寂しくなるな」

「え?」

「この約一週間、シルフィやニンフとずっと一緒にいて賑やかだったから家に帰るのが寂しいなって」

 二人と一緒に遊んだことや、大会で何人もの人と関わりあって密度の高い楽しい時間を過ごしてきたので、また日常生活に戻るのが寂しく感じるのだ。

「でも、別に私や師匠とはいつでも会えるでしょ。ゲームの中でも現実世界でも。家が近いってことが分かったんだから」

「そういや、そうだな。いつでも会えるんだよな、俺たち。シルフィたちと会えるってなら、まあいいかな」

 そう言って、年相応のあどけない笑顔を浮かべる。

「私でよかったらいつでも会ってあげるからね」

「上から目線……。でも、会って話し相手になってくれるだけで嬉しいよ」

 冗談めかして言ったシルフィに、そんな他愛のないことが嬉しいのだと返す。

「そういえばシルフィの本名知らないな。これからこっちでも会うなら本名も知ってる方がいいと思うけど」

「本名が由来なんだよね」

「へえ。俺も同じだ」

 かがやくが由来となってライトと名付けたと、シルフィに説明する。

「やっぱりそうだったんだ。なんとなくだけどそんな気はしてたよ」

 シルフィはそれに予想はしていたと答える。特別難しいひねり方をしているわけでもないため、煌も特に不思議がることはなかった。

「それで、私の名前なんだけどね――――」

 シルフィは煌に本名を教えることをためらうことがなかった。むしろ、これがきっかけとなってさらに親睦を深められればいいなとさえ思っていた。

 ここからだ。プロゲーマーとアマチュア。お互いに道は分かれたが、それでもその道が同じ方向を向いていることに変わりはない。

 お互いに本名を知ったこともあり心機一転、新たな付き合いが始まっていく――。

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