コメディと思ったでしょう?違わないけど違うんだよ
・・・え~‥え~とデスネ。その・・・すみませんでした!
中々続きが書けなくて。こんな話でも読んで戴けるのならば続けにゃあならんのですが。中々頭がそのモードに入れませんし、あ、3回目のハンコを押した母の脳梗塞入院もようやく退院のめどがついたのでぼちぼち他の話も含めて再会中です。
お楽しみください。良ければでいいので
「現在例の勇者に諮問委員からのお話がされている最中なのですが、彼の言動から不審なものがありましたので、彼の自宅付近に調査員が派遣されました」
行き成り激おこモードから深刻な表情になった上司の話に、反射で片眉が上がる。
勿論今回の件は少なくはない人命を危険に曝したことと、常習的なルール違反が顕著だった。責任者としては胃を痛めているのだが、やけにキナ臭くなった。
警戒して身動く俺に、上司は苦笑すらせず真剣な眼差しで見返してくる。
「俺が戻った後何があったんです?」
恐る恐る問う。
「八割方貴方の攻撃で弱った敵を、彼が瞬殺しました。
その時点で彼の行動への諮問は決定していましたが、後かたずけをするメンバーを手伝うでもなく不貞腐れていたそうです。
耐えかねて詰問した盾役に、全く悪気の無い顔で何事か言い返すと派遣された委員に大人しく捕縛されたそうです」
眉を顰め答えてくれるが、言いたいことは『それ』じゃないのだろう。
「何と言ったんですか?」
「『もう家には帰れないから丁度いいけど、しつこくするんなら辞めようかな?
低能どもとのオママゴトにも飽きたし?誘ってくれてる人もいるしね』だそうです」
『もう家に帰れないから』?どういうことだろう?
未成年の奴はこの世界に常駐するわけにはいかない。俺のように自宅からの通いは未成年組ぐらいで、最初の頃は愚痴を言っていたが・・・何か変化があったか?自分自身の能力の事は聞かれもしないのにぺらぺらと喋るが『家』ことを知っている人間がいるだろうか?各自来し方や事情もありプライベートについて知りたがりは敬遠される。それでも匂わせるくらいは誰でもしていた。
だが、奴は全く、身内の悪態ひとつ言わなかった。まるで何の価値も無い物を語る人間がいるのかと言わんばかりではなかったか?
「嫌な予感がするんですけど」
「言わないで!その先は駄目!!この国は『日本』以上に言霊の国なんだから!!!」
瞬間湯沸かし器のようにいきり立つ上司だったが、肩で息を吐きながらも頭痛訴え鎮静化する。
色々な最悪のパターンをシュミレーションするが、俺の場合はバカの考え休むに似たりだ無駄なことは数秒で断念する。言い訳になるが最高学府とは言えないがそこそこ自慢できる大学を出、就職先も悪くはなかった。頭が悪いとは言いたくないが、賢く立ち回れていたらエリートの片隅に位は生息出来ていただろう俺なのだ。それが今現在ココという現状へのプロセスは・・・押して然るべき。やっちゃいけないこと言っちゃいけないことには蓋をする。それだけは学んでいる。
「・・・・・・・・・やっぱり聞いてください」
「嫌です」
だが断る!だ。本当に心の底から厄介事の匂いしかしない。
職種はアレだが俺は中間管理職のまま平穏無事に生きていくのだ。
「ヒドイデスネ・・・私が何をしたというのです?この世界の為にこんなに尽くしているというのに。
同じ地球人である貴方が協力してくれないなんて、仲間でしょう?」
ああ、同じ地球人なのだから責任取って尻拭いしろデスカ。そんなことを言い〼カ。
「・・・こちらの世界の都合の為に、異世界から人を騙して連れて来て生命の危機に脅かせられる。騙されても日夜奮闘するお人好しに掛けるありがたいお言葉ですね。実に」
俺が言い終わると、上司は愕然とした表情を作りよよよと蹲るが、見ていたぞ?顔を隠した掌の下で舌打ちしただろう。
「そんな風に思っていたのですか?嘆かわしい。わ「職を探していた私にはありがたく飛び付いてしまいましたが、旨い話なんてないですよね。
世界を救う!なんて絵空事、本気でやろうとするのは現実と非現実が曖昧な人間だけですよ。妄想の世界の人間、狂信者の素養がある人間。
私はどれでもない。現実に負けて逃げ出した男です。『言葉』に夢なんて持てない、ね?」
喰い気味に口を封じてやったぜ。黙って俺を見下ろしていた上司が深く息を吐き出し、苦笑する。食えないお人だよ。太刀打ちできるのはまだまだ先だなこれは。
「貴方はそういう人でしたか」
「俺は、こういう人間でしたよ?ずっと」
隠したり騙したりはしていない。仕事を始めて彼等の指示通りに働き、指示通りに仲間を動かした。
効率や連携を提案し、曖昧だった組織図を組みなおしシフトや班組みも新たに導入させた。いつの間にか創立当初からの古株で幹部としては唯一のパート社員だ。同期は離職か正社員で幹部になってる。
後続を『育てる』ことも含めて俺は上司たちの共犯者ではあるが、同郷の者達を守るためにやっていることなのだ。そんなこと、とっくに知っていただろう?
「そういうところが貴方の甘さではありますが、私は嫌いではありませんよ?」
おお、おおおおこれがおたくたちをざわつかせる『悩殺!落としスマイル』か!どんなネーミングだよ全く。まあ、効果は絶大らしいんだけど、俺には胡散臭さ200%なので効果がありませんよ?
「!くうっ効きませんか?」
「効きませんねえ。魅了ですか?」
珍しく悔しそうな感情がその美貌に浮かんだが、淡々と返すと再び苦笑する。そういう彼女の方が妙に人間臭くて付き合いやすいんだが、「様式美です!!」・・・だそうです。
「貴方との掛け合いも嫌いではないので楽しみたいところですが、時間がありません。
彼は今のところ大人しくしていますが、彼の言っていた『誘ってくれる人』という存在も気になります」
それは俺も気になっていたので頷いておく。奴は時間制限のある通いの勇者だ。時間いっぱい働いて、後片付けもせず帰っていく。そんな環境で、こちら側の世界でつなぎを取れる部外者が居ただろうか?
内部の内通者という線も捨てられないが、あの性格ゆえに奴に親しく寄る人間に心当たりがない。
上司と二人して首を捻っていると、急を告げる凶報が飛び込んできた。
「調査班からの報告が入りました!
勇者の家で勇者の親族が全員死体で発見されました。初見からは勇者本人の犯行と見做されるとのこと。急ぎ緊急対策会議が開かれます!課長クラス以上の幹部が招集されました!」
正しく凶報だった。
主人公は正義の味方ではありません。ひょんな才能を見出してしまった典型的な日本の一般人です。
楽しんでいただけましたでしょうか?読んで戴き感謝感激。