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ゆたかの怪奇列島第8章「口裂け女」  作者: こうた


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第6話「本体戦」

静寂。

路地裏の奥。

逃げ場のない空間。

空気は重く、濁っている。

目の前——

本体。

ゆっくりと、首を傾ける。

「……ほんまにやるん?」

笑う。

裂けた口が、さらに広がる。

人面犬が前に出る。

「やるに決まってんだろ」

一歩。

地面を蹴る。

“ダンッ!!”

一瞬で距離を詰める。

爪を振るう。

“ギィンッ!!”

弾かれる。

本体の腕。

ありえない硬さ。

人面犬が舌打ち。

「チッ……硬ぇな」

本体が笑う。

「見られてるからなぁ」

一拍。

「強くなるねん」

ゆたかが言う。

「視線が力か」

神父の言葉が頭をよぎる。

“見られている認識そのものが干渉する”

桃太郎が前に出る。

「なら——」

一歩。

踏み込む。

拳を振るう。

“ドンッ!!”

直撃。

だが——

浅い。

本体が滑るように後退する。

「甘いわ」

消える。

次の瞬間——

“横”

蹴り。

“バキッ!!”

桃太郎が受ける。

腕で。

だが——

押される。

壁に叩きつけられる。

「っ……!」

ゆたかが割り込む。

「こっちや」

蹴り。

低く。

速い。

本体の足を払う。

一瞬、体勢が崩れる。

人面犬が飛び込む。

「もらった!!」

爪が閃く。

“ザシュッ!!”

浅く切れる。

血。

だが——

本体が笑う。

「それだけ?」

傷が——

塞がる。

ゆたかが眉をひそめる。

「再生か」

人面犬が吐き捨てる。

「クソゲーかよ」

桃太郎が立ち上がる。

呼吸を整える。

目は——冷静。

「違う」

一拍。

「見られているから“維持されている”」

ゆたかがニヤリと笑う。

「なるほどな」

本体が一瞬だけ止まる。

「……何言うてんの」

ゆたかが肩を回す。

「簡単や」

一歩前に出る。

「見なけりゃええ」

沈黙。

人面犬が笑い出す。

「ははっ、雑だなぁおい」

だが——

本質。

桃太郎が頷く。

「理にかなっている」

本体の顔が歪む。

「……ふざけんな」

怒り。

純粋な怒り。

「見ろや!!」

叫び。

圧が増す。

視線。

無数の視線。

押し付けてくる。

だが——

ゆたかが目を細める。

そして——

“逸らす”

本体を見ない。

完全に。

無視。

桃太郎も同じように。

視線を切る。

人面犬が鼻を鳴らす。

「付き合うか」

同じく視線を外す。

その瞬間——

“ザワッ”

本体の体が揺れる。

明らかに。

不安定になる。

「……なんでや」

声が揺れる。

「なんで見んのや!!」

ゆたかが言う。

「興味ないからや」

一拍。

「お前の価値に」

沈黙。

空気が止まる。

本体の呼吸が乱れる。

「……嘘や」

一歩。

近づく。

「気になるやろ?」

必死。

「誰かに決めてもらわな」

震える声。

桃太郎が言う。

「違う」

静かに。

だが強く。

「自分で決める」

本体が崩れかける。

「……無理や」

一拍。

「そんなの……」

ゆたかが一歩前に出る。

今度は——

見る。

真正面から。

だが。

“評価しない目”

ただの視線。

「出来る出来んちゃう」

一拍。

「やるかやらんかや」

その言葉。

重く、静かに刺さる。

本体の体が揺れる。

大きく。

崩れる。

だが——

その瞬間。

“ドンッ!!”

圧が爆発する。

三人が吹き飛ぶ。

地面に叩きつけられる。

人面犬が吐く。

「っ……!」

ゆたかが顔を上げる。

「まだおるな……」

空。

見えない。

だが——

確実に干渉している。

“黒幕”

声はない。

だが——

圧だけが増す。

本体が笑う。

狂気に近い笑み。

「ほらなぁ」

一拍。

「終わらへんねん」

完全に。

“支えられている”

桃太郎が立ち上がる。

ゆっくりと。

そして言う。

「なら——」

一歩。

踏み出す。

「切り離す」

ゆたかがニヤリと笑う。

「それやな」

人面犬が牙を見せる。

「ようやく分かってきたじゃねぇか」

本体を見る。

そして——

その“奥”を見る。

見えない何か。

そこへ。

狙いを定める。

■ 第8章 第6話 終

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