第十一話<調(しらべ)>-2
「悪いわね、仕事中なのに送らせちゃって。」
地下の駐車場から車を出して、施設の外に出た時点で
助手席に座った女性が話しかける。
「いえ、いいんですよ。これからどうせ当てのない捜索です。時間はいっぱいありますから。」
「やる気が感じられないわね。」
「そんなこと無いですよ。」
「あらあら、車の中でも否定するってことは研究所内と同様に
監視カメラが車内にもあるのかしら?」
一瞬疑うような目を見せる女性。それには気付かず笑って受け流す早間。
「そんなものあるわけ無いじゃないですか。これは私がプライベートを充実させるために買った車ですよ?」
「そう、じゃあ君がいくつものセキュリティを破って、私の研究内容を閲覧しているって言っても平気かしら?」
笑顔を消す早間。しかし焦りは決して見せることは無かった。
「趣味が悪いですよ博士、気付いていたのに知らん振りですか?」
「趣味が悪いのは君の方よ。研究内容だけではなく、村雲のメインコンピューターにも
何度かアクセスしているわね?どういうつもりかしら?」
丁度信号待ちになり、横目で女性を見る早間。そして視線を戻すと話し始める。
「絶対に気付かれないようにやったつもりでしたが・・・何で分かったんです?」
同様に横目で見る女性。
「私は毎日情報の漏洩が無いように自分の研究施設の
ネットワーク関連はチェックしているのよ。
ごめんなさいね、普通なら分からないくらい巧みなやり方だったけど、
私に対しては詰めが甘かったわ。」
「参りましたね、次からは博士に教えを請ってからにした方が良さそうです。」
「随分冷静ね。追い詰められている自覚がないのかしら?」
信号が変わり、アクセルを踏む早間。
「ええ、ありませんね。このまま貴女の家ではなく、禦に行くという手がありますから。」
小さく笑う女性、彼女もまた平常心で話を続ける。
「確かに私の研究を禦に伝えれば大変なことになるわね。
禦に対して隠し事をしているわけだから大問題だわ。」
ここで一息はさむ女性。そして早間の方に顔を向ける。
「良いの?私の研究は禦が暴走した時に対抗するための力なのよ?」
すると早間は少し間を空けた後に答える。
「逆に村雲が暴走して、不当な力を蓄えているだけかもしれません。」
数秒間流れる沈黙。その間に女性は前を向くと、うつむきながら小さく笑い始める。
「なるほど、君は村雲に不信感を抱いているのかな?」
「・・・そう捉えますか?」
「ええ、だから村雲で行われている様々な研究を調べていたのね。」
「・・・おかしいですね、ログは全て残っていないはずですが。」
「私を舐めてもらっちゃ困るわ。メインコンピューターに入ったけど、
結局は何もつかめなかった事も知っている。
あれ以上は潜ると危険だったから引き返した、といったところかしら?」
そこまで言われるとため息をつく早間。
「流石ですね。それで私をどうするつもりです?」
その質問を受けると女性は軽く目を閉じる。
「どうもしないわ。もし上に報告するって言ったらこのまま禦行きでしょう?」
「そんなことはしませんよ。
私はただ不安だっただけです、村雲の不明瞭さが。
悪事には加担したくないだけです。」
「・・・それで、君から見た村雲は?」
「まだ分かりません。得た情報は少ないですから。
それに正義と悪は紙一重です。
捉え方によってどちらにも傾く。
・・・そういうものですよね?」
すると突然笑い出す女性。
「アハハ、そうね、その通り。
私の研究だって日本を守るための力とすれば正義だけど
人道的には悪だもんね。
実際のところ、私も自分の研究が正しいのかは常に悩んでいるのよ。」
「・・・そうだったんですか。」
女性は落ち着くとハンドバッグに手を入れる。
「ごめん、車を少しの間止めてくれる?」
ハザードを点けて車を停車する早間。すると女性はバッグからCDを取り出す。
「これには君の不正事項を記したログが入っているわ。
そしてこのCD以外には記録を残していない。全て消させてもらった。」
スッと差し出す女性。
「・・・どういうつもりです?」
「今後メインコンピューターにアクセスしないこと、
そして私の研究を悪用しないことを約束するなら、今回のことは黙っておいてあげる。
・・・私もね、村雲の全体が見えなくて少し不安だということは同意見だしね。」
CDを受け取る早間。そして車を再発進させる。
「・・・外川博士について知りたい?」
車を少し走らせた後に女性が唐突に質問をする。
「どうしたんですか?急に。」
「ここなら監視カメラはないんでしょう?」
「はい。」
その一言を聞くと女性は口を開く。
「外川博士の表向きは呪術研の一研究者だけど、
実態は呪術研のトップよ。彼に逆らえる人はあの研究所にはいない。
そして彼より勝る呪術研究者もいない。」
「・・・どういうことですか?」
「彼は理才よ。魔法という理を理解した天才の更に上を行く存在。」
「・・・博士と同じですね。」
「同じではないわね。彼は自分の研究が楽しいだけ。
例えそれが悪用されても気にも留めないといった感じだわ。」
「それは性質が悪いですね。」
「最低よ。」
「随分と言いますね。
・・・それにしても、理才ですか。確かにそうなると、存在を公表しないかもしれませんね。
禦からも監視が厳しくなるでしょうし。」
その直後に自分の言ったことにハッとする早間。
「ひょっとして、その外川博士も禦に対抗するための研究を?」
答えにうなずく女性。
「そう、詳しくは分からないけど色々と研究を続けているようよ。
彼だけじゃない、他にも理才が同じように研究をしている可能性だってあるわ。
だからもうメインコンピューターには入っちゃ駄目。
理才ともなると私同様アクセスに気が付く人がいてもおかしくないわ。」
「・・・ひょっとしたらもう手遅れかもしれませんね。」
「それは平気よ。探られた形跡は無いし、
仮にばれても、君がアクセスした部分は特に問題ない部分だから
私が閲覧したと言えば何も起こらないわ。」
「かばっていただけるんですか?」
「今回だけよ。これは昨夜頑張ってくれたお礼ね。」
「見回りもしてみるものですね。」
少し顔が緩む早間。しかし、すぐさま顔は引き締まる。
「ですが今のお話で一つ分かりました。
何で特別体勢で捜索なのかという事が。
行方不明の人は外川博士の助手的な人だったのですよね?」
「そう、そして外川博士は秘密裏に呪術の研究をしていた。」
「だから下手をすると、研究のことが外部に漏れかねない。
これは一大事ですね。」
「それでどうするの?」
「そうですね、博士を送った後に、とりあえず呪術研に行ってみますよ。」
「それがいいわ。でも深入りは禁物よ。」
「肝に銘じておきます。」
アクセルを強く踏む早間。車はスピードを上げて女性の家までの距離を縮めていった。




