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第九話<夕食>-2

日の出ている15時に蘭子は一人で

出かけている。目指す場所は琴和の家だった。

荷物は小さなバッグを片手に持っているだけで、身軽である。

夜のように警戒して歩いてはおらず、

周りの平和な雰囲気に全てを任せて気軽に歩いていた。


天気は晴れており、白い雲が綺麗に漂っている。

冷たい空気であったが、透き通った味が心地よく感じ

思わず多めに息を吸い込む。



琴和の家の前まで行くと、目の前にある矢子の家を

チラリと見る。家の場所は話で聞いていたので、

「桐島」と書いてある表札を見つけることは容易だった。

しかし、今は家の位置を確認するだけで、

その後は特に何もせずに琴和の家のドアベルを鳴らす。

すると、すぐさま扉を開ける琴和。


「お邪魔するね。」

その返事に「いらっしゃい。」と言われると、玄関に入りブーツを脱ぐ蘭子。


「あれ?櫻子さんは?」

部屋に上がると、櫻子の姿が見えないことに気が付く琴和。

不思議そうに尋ねると、蘭子は畳の上に座りながら答える。

「今スーパーを偵察中だよ。」

「へ?」

「お店によって食材の値段って変わるでしょ?

夕食を作るんだったら、少しでも安い材料を揃えたいじゃない。

だから買い物に行く前に、ここらへんのスーパーの値段を見て回ってもらっているの。」

その話を聞くと、戸惑う琴和。

「いいのか、そんなことして?」

「うん、楽しそうに出かけて行ったよ。

安いお店を探すのが好きなんだって。」

「そう・・・なんだ。」

「何でも生前はそうやって節約してたんだって。」

「何か主婦っぽいな。」


そう言うと琴和は蘭子の目の前に缶紅茶を差し出す。

「好きだろ、これ?」

「あ、ありがとー。」

早速缶を開ける蘭子。

すると琴和はコップのお茶を飲み話しかける。

「そうだ、今日から夜に回るんだったら伝えておくよ。

カザーバの人のことを。」

「カザーバの?」

「そう、俺も昨日甲子郎さんから言われた事なんだけどさ、

角刈りで背が高い男が目の前に現れたら何も考えずに逃げろだって。

嘉島といって、とても危険なんだってさ。

下手したら殺されるかも。」

そう言うと視線を琴和から手元の紅茶に移す蘭子。

「殺されるんだ。」

「うん、そのくらい危険らしいよ。」

「じゃあ、昨日皆が遭ったカザーバもそのくらい危なかったの?」

すると一瞬考える琴和。

「あ、どうだろう。確かに普通じゃなかったから危なかったな・・・。

今思うと、殺されてたかも・・・。」

「どう危なかったの?」

「そうだね、一人は俺より少し年下といった感じの男で

手からビームを出したよ。あれには驚いた。

あともう一人はスポーツ狩りの男で、色つきメガネをかけていたよ。

そいつはとんでもなくって、指差した物が爆発するんだ。」

琴和のとんでもない話に蘭子は少し引きつっている。

「それ、本当なの?」

「本当だよ。矢子ちゃんだって手から何か出したのを見ただろ?

それと同じ感じだと思う。」

すると少しうつむく蘭子。

「ひょっとして、私たちって首突っ込んじゃいけないところに着ているのかな?」

すると琴和は腕をくんで軽くうなずく。

「多分そうだと思う。」

その言葉を聞くと琴和に視線を戻す蘭子。

そして二人の視線が合うと、琴和は話を続けた。

「でもだからといって何もしないのは俺、嫌なんだよね。

それに、ひょっとしたら自分の事が何か分かるかもしれないし。」

そう言うと蘭子はクスッと笑う。

「どうしたの?」

琴和が不思議そうに尋ねると、蘭子は優しい顔で答える。

「変わっているなって思って。」

「え?」

「強いんだか弱いんだか分からないから。」


そう言うと、立ち上がる蘭子。

「調理道具は一式あるんだよね?」

「え?ああ、一応はあるよ。」

「何食べたい?」

「ハンバーグがいい!!」

蘭子が質問をすると、窓から櫻子がニュっと出てきて

すかさず答える。

「・・・ハンバーグ好きにも程がありますよ。」

冷静に返す蘭子。すでに不意打ちで出てきても驚く様子はないようだ。



「それで、価格はどうでした?」

メモを取り出す蘭子。すると櫻子はその横で話し始める。

「えっとね、野菜は何処のお店も同じような感じだったよ。

だから近いところでいいと思う。

ただお肉はね・・・・・・・。」


数分間、櫻子のリサーチの報告が続く。

蘭子はそれの要所をメモにとって分析をする。

琴和はその様子をただ見るだけだった。


「よし、今日は鮭のムニエルにしよう。」

蘭子が価格調査を踏まえた上で、一番良いと思ったのは

本日はそれらしい。

「ハンバーグじゃないんだ。」

琴和が聞くと、蘭子はメモをペンでペシペシと叩いて答える。

「ええ、どうやら肉の鮮度はあまり良くないっぽいし、

そう毎日食べるようなものじゃないし・・・

そして何より矢子ちゃんは栄養偏ってそうだから

ここは魚でしょう!ということでムニエル。」

そう言われると、思わずうなずいてしまう琴和。

「それじゃあ、早速買い物に行こうか?」

琴和が顔を窺うように聞くと、首を縦に振る蘭子。

「じゃあ櫻子さん、鮭の安かった店に案内お願いね。」

蘭子がそう言うと、櫻子はにこやかにドアの方へ向かっていった。

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