第六話<仮面>-11
今までの経緯を全て話す二人。
時には櫻子に確認を取りながら進めていった。
甲子郎の話を聞く姿勢はとても真剣で
一語一句聞き漏らさないといった感じだった。
「なるほどねえ。」
話が終わったと思うと、甲子郎が一言漏らした。
「何か判りましたか?」
琴和が反応すると、甲子郎は顔を逸らす。
「判るわけないだろ、これだけじゃ!」
「あはは・・・。」
突っ込みのような発言に、思わず力が抜けてしまった。
「要するにお前たちは、わけも判らずに襲われて、
ただ思うがままに抵抗していたってだけか。」
「ええ、そんな感じです。」
「櫻子さんだっけか、アンタは本当に何も関与していないんだな?」
甲子郎が不意に櫻子に問いかける。
すると静かに首を縦に振った櫻子。
「はい、私は何も。」
すると空を見上げる甲子郎。
「だろうな。そんな雰囲気ないもんなあ。」
少し考えた後、甲子郎が口を開く。
「ある日、突然幽霊が見えるようになったと思ったら、
化け物に襲われた。だけど、訓練していないのに
普通に戦えている。
さらに、たまに意識が飛んだと思ったら
無意識のうちに頭に思考が焼きついていたり、
感情の変化があったと。
・・・駄目だ、これだけじゃさっぱり判らない。」
「やっぱりそうですか・・・。」
琴和が残念そうに言うと、甲子郎は頭をかいた。
「とりあえずあれだ、ひょっとしたら
お前たち二人は潜在的な何かがあるのかもしれない。
それが一体何か判らないが、ここ数日間に
刺激が多いことばかりだったから、
心身ともに変な影響があるのかもな。
しばらくは様子見だな。」
「様子見・・・ですか?」
不安そうに蘭子が尋ねる。
「ああ、たまにいるんだよ、本能で化け物と戦う能力を
持っている奴が。」
「は?」
甲子郎のとんでもない話に驚き続きの二人。
「ああ、そうだな・・・何かスーパーヒーローみたいな言い方だけど
そんなんじゃないぜ。
自然の治癒能力の一環って考えてくれればいい。
例えば汚水を川に流しても、自然の治癒能力で
浄化されるだろ?それは微生物や動植物、光や空気などもあるだろうな。
とにかくそれらの力を利用して行っているんだ。
それと同じように、もし化け物が現れて地上を荒らすとするだろ?
そうしたら、この星は同様に化け物を浄化しようとする。
そのために、人に限らずあらゆる生物に対抗する力を本能に刷り込んで
誕生させる時があるんだ。」
「・・・。」
さらにとんでもない話で言葉を失ってしまう二人。
それを見て甲子郎が参ったという表情になる。
「ああ・・・参ったな。とにかくお前たちが、そんな本能を持っているか
判らないが、そういう話があるくらいで覚えておいてくれ。
本当はもっとこの話は深いんだが、まあ知る必要もないだろう。」
そう言うと蘭子が食いつく。
「えー教えてくれてもいいじゃないですか!」
すると何食わぬ顔で甲子郎が返す。
「お前たちは一般市民なんだよな?」
「ええ、もちろんです。」
「じゃああまり深くは知ろうとするな。危険な目に遭うぞ。」
「う、脅しですか・・・。」
たじろぐ蘭子を見て、困ったと感じた甲子郎は頭をかく。
「あ、いやそういうわけじゃないんだ。
知りすぎると、どうしても俺たちと関わることになって
危ない目に遭うかもしれないからな。」
すると、櫻子が蘭子の前に出てきて話をする。
「蘭子ちゃん、瀬戸さんもそうおっしゃっているし、
気にしちゃ駄目だよ。それより、私も気になることがあるから
質問していいかな?」
すると、甲子郎が話しかける。
「なんでもどうぞ、幽霊に質問されるのは初めてだな、そういえば。」
にこやかな甲子郎に難しい表情で答える櫻子。そして質問が始まる。
「あの怪物たちは何なんですか?さっき、カザーバと言っていましたけど。」
すると、甲子郎は立ち上がり三人の方に体を向けた。
「ああ、それは次に説明しようとしていたんだ。
いいタイミングではあるな。」
腰に手をあて話を続ける甲子郎。
「まずカザーバから説明するとだ、
あいつらは、簡単に言えば悪い集団だ。」
「・・・悪い集団?」
櫻子が目を丸くする。
「だが、正直なところ人によっては正義の集団なんだろうな。」
「??」
甲子郎の矛盾とも言える発言に戸惑う琴和。
すると甲子郎は再びベンチに座った。
「やっぱり話が長くなりそうだから座らせてもらうぜ。
ここで考えてくれ、もし魔法の力が世界中で使えるようになったらどうなると思う?
いろんな物語で使われている分、魔法という表現が一番想像しやすいんじゃねぇかな?」
「・・・とんでもない質問ですね。」
琴和は想像も付かないような質問に戸惑い、そう一言出てしまった。
「何言っているんだ、さっきからとんでもない話ばかりだろ?」
甲子郎がサラリと言うと、答えを待たずに話を続ける。
「魔法というのはどんなのでもいい、
そうだな、例えば漫画みたいに手からビームが出るとしよう。
それが全世界の人が使えてみろ、全員が
銃を持つようなものだろ?
あるいは空をすばやく飛べるようになるとしよう。
そうしたら、交通機関の利用者が減って
経済に大打撃だ。
人間が出来ないことは、文化や文明の力で今まで補ってきたんだ。
しかし魔法の力は、いとも容易く文明を凌駕する。
今の世の中は、今現在の文化と文明をベースにして
積み重ねられた結果だ。そこに魔法の力は存在しない。
その中で、根底から覆す力をもつ魔法が広まったらどうなる?
世界のバランスは崩れて、無茶苦茶になる可能性があるだろう?」
「それでな、カザーバはその魔法の力を全世界に広めようとしているんだ。
人類の革新という名分でな。」
「・・・すると、世界の仕組みを壊して無茶苦茶にするのがカザーバ?」
櫻子が震えながらつぶやく。すると甲子郎は首を横に振った。
「いや、確かにやつらはこの世界の仕組みが壊れると自覚している。
だが、混沌は望んでいないんだ。
ただ、魔法を世の中に広めるのなんて、メディアを使えば一瞬だ。
だがそれはしない。理由はさっきも言ったが、
全世界に銃をばら撒くようなものだし、
何より、心が腐っている奴に力を使われたくはないからな。
カザーバは、魔法の力を有効利用したいと考えているんだ。
例えば、飢餓に苦しむ地に魔法の力で素早く、そして多くの作物を
収穫させたり、自然災害の阻止を行ったり。
また病気の治療など、人々に、特に弱者に幸福をもたらすような世界にするために
魔法を広めようとしている。」
「・・・それって悪なんでしょうか?」
蘭子がポツリと言う。すると甲子郎は頭をかく。
「そう、だから始めにも言ったが、人によっては正義なんだ。
だが、現代社会にとっては、根底から覆し崩壊させる悪なんだ。」
「難しいところですね・・・。」
琴和がそういうと甲子郎は反応をする。
「ああ、実はこれもまだ奥が深い話があるんだが、そこは別にいいだろう。
カザーバの一般的な名分はそこだからな。
確かにお前が言うように難しいところかも知れないが、
俺たち禦はカザーバがやろうとしていることは許せないんだ。
理由は人が長い歳月をかけて培ってきたものを
台無しにするからな。それは人を人で無くす行為。
自然に反する行為なんだ。魔法の力、怪物の存在は
自然では存在してはいけないものなんだ。」
「つまり、禦とカザーバは敵対しているということですか?」
櫻子が聞くと甲子郎はうなずく。
「ああ、そうだ。」
「すると、村雲もカザーバと敵対しているのですか?」
「そうなるな。」
「ところで、村雲の正義って何ですか?」
「?」
続けて質問をする櫻子。その最後の質問に甲子郎は少し戸惑った。
「そりゃ、俺たちと一緒だろうな。
あいつらも、性質は俺たちと一緒だから。
それより何でそんなことを聞くんだ?」
そう聞くと、首をゆっくりと振る櫻子。
「いえ、少し気になっただけです。
それより、その力を良いことに使おうとするカザーバが
何んで一般市民を巻き込むような怪物と関わりがあるんですか?」
「それはな、どうやらあの怪物はカザーバが
犬や鳥に魔法をかけて作っているもののようなんだ。」
「何でそんなことを!?」
琴和が聞く。
「それが謎なんだよ。それを今、禦では調べているんだ。」
「なるほど、瀬戸さんはその調査で
この街に来たんですね?」
蘭子が手をポンと叩いて話すと、甲子郎は首を横に振った。
「いや、実はもともとは違うんだ。」
そういうと三人をじっと見る。
「お前たち、他に仲間はいないか?」
「へ?」
「いなさそうだな・・・。
実はな、お前たちとは別に、禦でも村雲でもない奴が
怪物を倒しまくっているんだ。
それが誰かを突き止めるのが俺の本来の任務だ。」
「他にいるんですか!?」
驚く琴和。
「ああ、そいつは刀を武器に暴れているようでな、
俺はお武家様と呼んでいる。
ひょっとしたら何か知っているかと思ったが、
どうやら知らなさそうだな。」
肩を落として甲子郎が言う。
「力に慣れなくてすみません。」
申し訳なさそうに蘭子が言う。
「いや、別にいいさ。今日、謎の一組の実態が掴めただけでも収穫有だ。
「そうだ、もし今後そのお武家様に会ったら
連絡しましょうか?」
蘭子が思いついたように提案すると。
甲子郎は腕を組んで答えを返す。
「・・・お前たち、まだ戦い続けるつもりか?」
「え?・・・いえ、そのつもりはありませんけど。」
「じゃあ夜は出歩くな。
特に22時付近だ。この時間に怪物が出現しているようだ。」
「え!本当ですか?」
甲子郎の話に驚く三人。
「そうだ、確かに22時の間に怪物に遭っている。
21時や23時には遭っていない・・・。」
琴和がそのことに気がつき、口に出すと、甲子郎が反応する。
「ほう、やっぱりそうか。
こっちは検死の結果から、死亡時刻を割り出して
予想を立てていたのだが、確かな証言も得られたってわけだ。」
そう言うと、甲子郎は懐から携帯電話を取り出した。
「悪いが、二人の番号を教えてくれないか?
俺のも教える。もし、今後カザーバがらみで
事が起きたら全て報告して欲しい。
その代わり、二人の窮地は禦で対応しよう。
あまり、俺たちの世界には関わらせたくはないが、
もしもの時は頼れる機関があったほうがいいだろう?」
「・・・そうですね。」
すると琴和は携帯を取り出した。
それを見て蘭子も番号とメールアドレスを伝える。
「よし、じゃあ今日はもういいぜ、帰るとするか。」
「え?いいんですか?」
「ああ、特にもう話すことも無いだろう?俺は意外と忙しい身でね。
もし、何かあったら連絡をしてくれ。」
「あ、はい。」
「まあ、今日は送ることにする。途中で怪物に襲われたら
厄介だろう?」
「は、はあ。」
「遠慮するな、行くぞ。」
甲子郎に半ば強引に送ってもらうことになった三人は、
公園を後にして暗い帰路につくことになった。
<第六話 仮面 -終->




