第六話<仮面>-5
買い物が一通り終わると、二人は帰路についていた。
目指す場所は琴和の家。
手荷物が多くなったので一度、置きに帰ることにした。
本当は蘭子の家のものばかりだったのだが
鍵がないし、このまま持ち歩いてバイト後の送り届ける時に
渡すのも動きづらいと考えたので、明日また持って行くことにした。
「いっぱい買っちゃったなぁ・・・」
「ごめんなさい、お手伝いしたいけど持てなくって・・・。」
「あはは、じゃあ応援だけお願いします。」
そう会話していると後ろから誰かが近づいてくる気配がした。
「よう、また会ったな。」
その声に振り返ると、そこには甲子郎がいた。
「瀬戸さん?」
偶然の再会に少し驚く琴和だった。
「何だ、買い物か?それにしても大荷物だな。」
手荷物を見て甲子郎が言うと苦笑いで答える琴和。
「ええ、瀬戸さんも買い物ですか?」
「いや、俺は散歩といったところだな。」
「散歩?何かの取材です?」
そう聞くと甲子郎は首を軽く振って答える。
「いや、仕事はもう少し後になってからだな。
しいて言えば、今は晩飯探しだ。」
冗談半分に甲子郎が答えると、琴和はあることを質問しようと思った。
「そういえば、瀬戸さんはこの街に何の取材をしに来ているんですか?」
先日蘭子が言っていた疑問をさりげなく聞いてみた。
すると甲子郎はニヤっとして琴和を見る。
「・・・知りたいか?」
「はい。」
甲子郎の質問に琴和は真面目な表情で答える。
「実はな、この街に犬の化け物が出るらしいんだ。」
その言葉を聞くと、琴和は体中に衝撃が走った。
『やっぱりこの人は怪物のことを知っている!?』
琴和の表情が自分の言葉に敏感に反応している事を確認すると
甲子郎はうっすらと笑みを浮かべて、言葉を放った。
「悪い、嘘だ。」
「え・・・?」
あっけにとられてしまった琴和にお構い無しで
甲子郎は話を続けた。
「いやいや、悪い悪い。化け物なんているわけないもんな。」
「え、いや、でも!」
甲子郎の言葉に思わず反応してしまった琴和。
「・・・でも?」
その言葉を探るように甲子郎が聞き返す。
「あ、いえ・・・瀬戸さんなら化け物とか見たことあるんじゃないかなって
思いまして。そんな中化け物の全否定だったので。」
慌てて切り返す琴和。
流石に自分が遭遇したということは言えずに
苦し紛れにごまかすことにした。
「何やってんだ、オイ!?」
甲子郎と会話の途中に横から黒髪の男が入ってくる。
その表情は甲子郎に疑いを持ちかけるようだった。
「・・・早間、てめぇ!」
その言葉と同時にお互いが胸倉をつかみ合う。
いきなりの事で琴和はどうしていいのか戸惑ってしまった。
甲子郎は相手の名前を呼んでいたことから、
どうやら知り合いではあるらしいのだが、それでも尋常ではない雰囲気だった。
それは、はたから見たらただの喧嘩なので、
他人の目が気になり始めた。
そして周囲を見渡すと、ふとあることに気付く。
櫻子が物凄く驚いた表情をしている。
「あの、多分大丈夫ですよ。友達同士のようですし・・・。」
いきなりこのような場面では驚くのも無理ないと思った琴和は
櫻子を安心させるために、そう言った。
「友達じゃねぇ!」
すると二人が否定のハーモニーをして、同時に手を離す。
「えっと、こちらの方は?」
琴和が甲子郎に質問をすると、腕を組んでそっぽを向く。
「クソ早間、同業者だ。」
「なんだとこらあ!」
またお互いに胸倉をつかみ合う。
「・・・まあまあ。」
「ふん!」
琴和の仲裁に手を離す二人。
『何なんだ、この人たちは・・・。』
頭の中でえらい事が起こっていると思いつつ、
放っておくとまた喧嘩しそうだと思って、こちらから会話を振ることにした。
「同業者ってことは、早間さんもジャーナリストなんですか?」
その言葉を聞くと早間は一瞬甲子郎を横目で見る。
「!?」
琴和がその間に疑問を少し感じると
早間は名刺を差し出した。
「始めまして、私は早間 卓。以後お見知りおきを。」
「あ、小田原です。小田原 琴和。」
軽く自己紹介をすると、渡された名刺を見る。
すると肩書きが特に何もないことに気がついた。
それに少しおかしいなと感じていると甲子郎が話しかける。
「へえ、名前は琴和って言うのか。」
「あ、すみません。そういえば瀬戸さんにもはっきり自己紹介していませんでしたね。」
「いや、いいんだ。そういえばもう一人のお嬢さんはどうした?」
「ああ、蘭子ですか?今バイト中です。」
「そうか、蘭子って名前だったけか。苗字は?」
「楠木ですよ。」
「そんなこと聞いてどうするんだよ!」
二人の会話に早間が割り込んでくる。
「いちいちうるせぇ!!」
また胸倉をつかみ合う二人。
「あ・・・あの。」
「フン!!」
琴和の仲裁でまた手を離す二人。
「あの小田原さん、そろそろ行きませんか?」
櫻子が困った表情で話しかけてきた。
二人の過激ぶりが気に触ったのか、この場から立ち去りたいようだ。
確かに喧嘩腰の場面はいづらいものだと感じた琴和は
それも仕方がないかと思った。
「それじゃあ、僕たちはこれで。」
そう言って場を離れようとすると、早間が止めた。
「ああ、待ってください。」
「すみません、その、ちょっと・・・。」
まさか幽霊が嫌がっているからさようならとは言えずに
固まってしまった琴和。
すると早間は櫻子の表情に気付く。
「あ、ひょっとしたら私はお連れさんに嫌われちゃいました?」
「見えるんですか!?」
「そりゃ、アイツと同業ですから。」
その会話をつまらない表情で見る甲子郎。
「君、幽霊と会話できるんですね。すごいすごい。」
そう言うと櫻子を見つめる早間。
しかし表情が徐々に難しくなっていく。
「どうしたんですか?」
それに気付いた琴和は早間に質問をする。
「あ、いえ・・・始めまして幽霊さん。
・・・始めましてかな?誰かに似ている気がするけど。」
「え?」
その言葉に驚く琴和。すると櫻子は目を逸らして答えた。
「あの・・・多分他人の空似だと思います。」
「ふむ、そうですか。もう一度顔をよく見させてください。」
少しおびえた表情を櫻子がしていることに琴和は気がついた。
「櫻子さん?どうしたんですか?」
心配になった琴和がそう聞くと
彼の不思議そうな視線に気が付く。
すると一言、早間に向かって話しかけた。
「あの、辞めてもらえませんか?
私・・・怖い人はキライです。」
『やっぱりか・・・。』
琴和は予想通りと思っていたら櫻子が話しかけてくる。
「小田原さん、行きましょう。」
「あ、はい。それじゃあすみません、これで。」
そう残して立ち去ろうとする。
「あああ、ごめんなさい。普段はこうじゃないんですよ!!」
早間が大きな声で二人の後姿に話しかけると、
琴和は振り返って軽くお辞儀をする。
そして二人の影は見えなくなった。
「嫌われちまったな。」
甲子郎が呆れた顔をして早間に話しかける。
「お前のせいだろ!」
「俺だってお前のせいで嫌われちまったかもしれないんだぜ?」
「・・・何だ、そうしたら都合悪いのか?」
「お前と話すと、疲れるんだよ。直ぐ何かを探り出そうとする。」
「お前だって同じだろ。あの二人の何を知っているんだ?
国内で村雲に隠し事はしないで欲しいものだ。」
「禦の邪魔もしないで欲しいんだがな。
まあいい、正直何も知らないのが現状だ。
ただ、霊と会話する異能者を見つけたから、
興味本位で近づいているだけだ。」
「何で興味を持つんだ?」
「・・・お前も昨日、遭っただろ?化け物に。
ひょっとしたら異能故に何かその件について
知っているんじゃないかと思っただけだ。
知らなければそれでいい、情報はあらゆるところから
集めないといけないだろ。」
「で、集めた情報は?」
そう早間が聞くと、甲子郎はため息をついてこう言った。
「おいおい、禦の方が情報を聞き出す権利が強いんだがな。
村雲は禦に隠し事は駄目だが、その逆は場合により認められているのは知っているだろ?」
「何だ?隠し事が必要な程の情報があるのか?」
「ねえよ。さっき聞いただろ?俺は今までアイツから
自己紹介すらされていなかったんだぜ?
以前、少し立ち話をしただけだ。
たく、お前に絡まれると、これだから嫌なんだよ。」
「だったら最初から教えればいいんだよ。」
「素直に話しただろ。黙っていたら、どんな手を使ってくるか分からんからな。」
そう言われると急に落ち着いた様子になる早間。
「・・・だいぶ俺たちの犬猿の仲も板についてきたな。
もう回りに誰もいない。しばらくはいいだろう。」
すると甲子郎も大人しくなる。
「初対面の人間に険悪な関係を植え込むのも慣れてきたしな。
でもやっぱり疲れる。
局長室でお前の話が出ても監視されているから下手なことも言えないしな。」
「確かにナギ姉の前でも自由に話せないのはキツイかもしれないな。」
「おいおい、流石にその呼び方は駄目だろう。
局長と呼べ局長と。」
急にやり取りの雰囲気を変えたと思うと周囲を気にしだす早間。
「さて、そろそろ元に戻るか。」
「そうだな。」
ため息の後に目を合わせる二人。そして甲子郎が気だるい素振りで問いかける。
「で、お前は何を知っているんだ?無駄に絡んできたわけじゃないだろう?」
すると早間は紙を甲子郎に手渡した。
「昨日倒した犬の資料だ。
うちで検死したからな。お前が担当なんだろ?」
「めずらしく気が利くじゃねえか。」
「ちゃんと渡したからな。」
そう言うと、早間はその場を去っていく。
その後姿を見て甲子郎は一つため息をつくと、空を見上げた。
「さて、どういう展開になるかな。」
冬の夕空は寒い風の中で、星を散りばめていた。




