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第十三話<敵として>-16

先ほどの場所から矢子の案内を便りに

走って甲子郎の下に向かう琴和たち。

暗い木々に囲まれた道を抜けると、一同は一瞬言葉を失うことになる。

かつては整った道であった場所が面影も無い程、荒れ果てていたからだ。

その様はすさまじく、

矢子と旭が荒らしたものとは比べ物にならない。

周囲の木々は何か大きな刃物で切りきざまれたように倒れ、

地面は巨大な柱が突き上がった跡の様に盛り上がっているところもあれば

大きな鍬でえぐりとられたような部分もあった。

周囲には様々な破片が散らばっており、

この場所だけ竜巻の通った跡のようだった。


「甲子郎さん!?」

荒れ果てた地点の中心に一人の男が

力なく座り込んでいる。甲子郎だ。


「甲子郎さん!!」

名前を呼びながら走り寄る一同。

遠くから見ると、その力ない姿は不安にさせるものだった。


「んぁ?お前等無事だったか。何よりだ。」

近づくなり上を向く甲子郎。どうやら生きてはいるようだ。

「大丈夫ですか?」

心配そうに聞く琴和。すると座ったままため息を一つつくと、

両手を上にあげつつ後ろに寝そべる。


「あー疲れた。本当にダルイやつだ、アイツは。」

本当に面倒くさいかのようにしゃべる様子から、

大した怪我はしていないように見えた。

「嘉島はどうしたんですか?」

矢子が甲子郎の頭の横にしゃがんで質問をすると、彼は空を見ながら答える。

「逃げられた。」

「・・・そうですか。」

勢い良く体を起こす甲子郎。右手の拳を左手でパシッと受けとめると

ぼやき始める。

「クソッ、またも捕り逃がすとは。分かってはいたが、一筋縄じゃいかんな。」


尋常ではない周囲の荒れ様をまるで気にしていないかのように

呑気に頭をかく甲子郎。

琴和はその仕草が気になり、一声かけてみることにする。

「甲子郎さん、この荒れようは一体?」

「んぁ?俺と嘉島でやった。」

「甲子郎さんが?」

「ん?それがどうかしたか?」

平然と答える甲子郎に戸惑う琴和。

常識では測れない世界に足を踏み込んでいるとは

感じていたが、この荒れ様は少し行き過ぎている。


「どうって、どうやったらこんな風になるんですか!?」

「んーそうだな、気合だな。」

「いや、そんな気合って・・・」

あまりにも周囲の状況に対して無関心であり、

適当な答えをする甲子郎に少し呆れる琴和。

すると甲子郎はスッと立ち上がり、琴和の方を向く。


「これが俺たちの世界だ。

・・・とは言ったものの、

確かに派手にやり過ぎたかもしれないな。」

そう言うと、自分のやった結果をようやく見渡す。

「まずいな、これはやり過ぎた。」

携帯を急いで取り出す甲子郎。すると禦に電話を掛け始める。

「悪い、至急人を回してくれ。

派手にやり過ぎた。

・・・そう、一帯を封鎖して欲しい。

・・・え?ああ、そんなの良い。後でどうにかする。」


こそこそと電話を済ませる甲子郎。すると蘭子は周囲を見渡しながら

質問をする。

「櫻子さんは?先に来ていたと思ったんですけど。」

「ああ、櫻子なら慌てて来たと思ったら、

ここで戦っていた人は何処に行ったと聴いてきてな、

逃げた方角を教えてやったらすっ飛んでいったぞ。」

「櫻子さんが?」

意外な行動だったので少し驚く蘭子。

甲子郎の事が心配で急いでいたのだと思っていたが、

肝心の当人を置いて行ってしまったからだ。

「じゃあ櫻子さんは今・・・。」

矢子がボソリと言うと、それを聞いていたかのようなタイミングで

空から櫻子が降りてくる。

「櫻子さん!?」

駆け寄る蘭子。

「何処行っていたの?」

「うん、どんな人がここにいたのか少し気になってね、

追いかけてみたの。」

「どんな人だった?」

なんとなく尋ねると、首を小さく振る櫻子。

「結局見つけられなかったよ。」


失敗を笑顔で誤魔化すような表情で答えると、

蘭子もつられて同じような表情をする。



「よし、今日はここまでだ。」

突然そう言い出す甲子郎。

「まぁ、確かにこれ以上は無さそうですしね。」

腕を組んで琴和が言うと、同意するようにコクコクとうなずく矢子。

「もう少ししたら禦の人間がここに来る。

その時に話をつけておくから、車で送ってもらえ。」

「いいんですか?」

「ああ、構わないさ。それにこの現場処理の為に今夜はまだ

帰れそうにないからな、俺は。要するに俺は今日、送れない。」


そう伝えると大きなあくびをする甲子郎。

「あー眠い。本とダルイな。」

面倒くさそうに背伸びをするとすっと夜空の星を見上げる。

「お前等も見てみろ、随分と平和で綺麗に輝いているぜ。」

その声に答えるように見上げる一同。すると大きな月が輝いて見える。

「気付かなかったんですけど、今日の月は綺麗な満月だったんですね。」

「そうですね。」

琴和の感想に矢子が続くと甲子郎が顔を下げる。

「このくらい毎晩穏やかな景色だったら良いんだけどな。」

皮肉を込めたような台詞を甲子郎がぼやくと、少し固まる琴和。

『確かに最近、穏やかじゃないな。

あの子とは結局どうなるんだろう。』

落ち着いてきたせいもあり、旭の事を次々と考え始めてしまう。

午前中に見せた敵意の無い笑顔、それとは正反対な怒った形相。

裏切られたと思われているのかもしれない。

そして去り際に振り返った時の表情。

思い返すとそれはとても切なそうに感じ取れた。

次々と思い出す表情に自分のマイナスイメージが付加をしていくと気が付き

悪循環と感じる。そこで頭を強く振り思考を止めようとしたが

上手くいかなかった。

今日は何とか大したことなく終わったが、次はどうなるか分からない。

ふとそう思うと、再び不安の心が頭によぎるのであった。


<第十三話 敵として -終->

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