第十一話<調(しらべ)>-14
「今日は何もいませんでしたね。」
夜道を歩く琴和たちは、警戒せずに帰路についていた。
彼の発言の通り、今日も見回りをしていたのだがカザーバや怪物に
遭遇することは無く、ただ夜道の散歩をしたような感じであった。
今はいつも通り蘭子をまず家に送り届けてから、三人は琴和と矢子の家に向かっている最中である。
「でも、蘭子さんが元気な様子で良かったです。」
ぼそりと言う矢子。その健気な様子に頭をポンポンと軽く叩く琴和。
「そうだね、いつも通りだった。」
本当は自分自身について悩んでいるのだとは思っていたが、
矢子に心配を掛けたくはないし、蘭子自身も周りに心配を掛けたがらないと思い、
そう返した。
「さっきから何をやっているんですか?」
矢子が甲子郎に近づき手元を覗き込む。どうやら携帯をいじっていたようだ。
「見回りに出ている局員との連絡だ。」
そう言うと携帯をたたみ、ポケットにしまう。
「なあ矢子、村雲の所員はどのくらい巡回しているか分かるか?」
唐突に聴く甲子郎。すると矢子は首を振って答える。
「巡回はしていると思いますけど・・・私には情報が入ってこないので・・・。」
「そうか。
実はな、今夜は俺たちだけじゃなく、うちの局員全員が怪物に遭遇していないらしい。」
「え?!」
驚く二人。甲子郎は頭をかく。
「だから村雲の連中が遭遇しているのではないかと思ったのだが
やっぱ分からないか。」
「早間さんに聞きましょうか?」
何か出来ることをと思い、矢子がそう提案すると甲子郎は苦笑いをする。
「いや、それはいい。面倒くさいだろ。」
「いえ、そんなことは・・・。」
「俺が面倒くさいんだ。ほら、家に着いたぞ。」
そうこうしている間に二人の家のそばまで着た三人。
すると矢子の家の前に人影が二つあることに気が付く。
「げ・・・早間。」
嫌そうな顔で甲子郎がぼやく。目の前には早間と赤毛の女性が門の前で話をしていた。
「何でここにいるのだろう?ひょっとして矢子ちゃんを待っていたのかな?」
琴和が矢子に向かって聞くと、彼女は突然小走りで5歩ほど近づく。
「・・・叔母さん?」
「へ?」
確認するように矢子が女性に話しかけた言葉を聞くと、琴和は少し驚く。
話に聞いていた、全然家に帰らない村雲所属の叔母が目の前に現れたからだ。
「帰っていたの?」
矢子が近づきながら聞くと少し呆れた表情で赤毛の女性は言葉を返す。
「帰っていたのじゃないわよ。まったく朝からこの時間まで
帰ってこないのだもの。とんだ不良娘ね。」
「あはは・・・。」
笑って誤魔化そうとする矢子を確認すると、じっと見つめる女性。
「アナタ、その年で香水付けているの?
保護者の目が届かないと思って、本当に好き勝手やっているわね。」
「う・・・。」
返す言葉が無く固まる矢子。すると隣で早間が会話に入る。
「あ、それ私のチョイスですよ。いい匂いだと思いませんか?」
「あら?そうなの?」
視線を早間に移す女性。
「そう、それであっちの白いのに買わせたんですよ。」
そう言って甲子郎に指を指す早間。
「そうだったんですか・・・?」
琴和が甲子郎に聞くと頭をかいて「そうだ。」と返してくる。
その様子を見ると女性は二人に近づいて頭を下げた。
「始めまして。矢子の叔母で桐島 夏美です。
矢子から話を伺っております。毎日お世話になっているようで。」
「あ、いえ、こちらこそお世話になっています。」
突然挨拶をされて慌てて返す琴和。それを横目に甲子郎は話しかける。
「はじめまして。瀬戸 甲子郎、禦の者です。
村雲の研究員とのことですよね?」
少し硬い口調で尋ねると目を合わせてくる夏美。
「ええ、貴方が禦の方ですか。相当なお手並みだそうで。」
「いえ、それほどでは。
ところで・・・。」
「はい?」
「何でお前が居るんだよ?」
ズカズカと早間に近づいて因縁をつける甲子郎。
「俺が何をしていようと勝手だろ!」
負けない早間。
するとその時である。
「あら、早間君と仲が良いのね。」
腕を組んでさりげなく夏美が喋ると
早間はスッと力を抜いて小さくため息をつく。
「んぁ?何だ、張り合いがねぇな。」
「いや、お前と張り合うほど暇じゃないんだよ。」
またどうせ夏美に見抜かれると思うと、やる気がうせた早間。
一方甲子郎は挑発じみたことを力なく言うので食いつくに食いつけなかった。
「ところでなんで早間さんが家に?」
今度は矢子が近づいて夏美に同じような質問をする。
すると夏美は笑顔で返答をした。
「こら、大人の野暮に口を出しちゃダメでしょ。」
顔を真っ赤にする矢子。その場で固まり動けなくなっていた。
一方甲子郎は信じられないといった表情を早間に向けている。
「ちょっと!私は仕事でここに来ているだけですよ!
変な冗談は止めてくださいよ博士!!」
慌てて弁解をする早間。
「博士?」
早間の漏らした博士という表現に気が付く琴和。
その言葉に反応すると夏美は琴和に近づいてくる。
「そう、私はこう見えても博士と呼ばれるくらいの研究者なんですよ。」
「そうだったのですか。」
「・・・体の調子が悪い所はない?」
突然ジッと見つめ、質問をする夏美
あまりにも急だったために、何て答えて良いか戸惑ってしまった琴和。
「え・・・ええ、健康・・・です。」
「そう、それなら良かった。」
軽く微笑むと、離れて門の前に戻る夏美。
「ほら、まだ冷える時期だから早く家に入りなさい。
皆さんも本当に有難うございました。」
矢子の手を引いて甲子郎と琴和に頭を下げる夏美。
「あ、いえ。」
釣られるように琴和も頭を下げると「失礼します。」と残して
家に入っていった二人。
「驚きました。あの人が矢子ちゃんの叔母さんだったなんて。」
二人の姿が見えなくなると、琴和は甲子郎と早間に話しかける。
「意外と若いな。」
甲子郎が反応するように答えると早間は腕を組んで二人に話をする。
「年は28。矢子ちゃんのお母さんの7歳下の妹でね。
13歳の時に矢子ちゃんが生まれたらしいですよ。」
「・・・母方の妹か?それでも苗字は矢子と一緒なんだな。」
「ああ、叔母さんとは呼んでいるけど戸籍上では養子になっているからね。
実は矢子ちゃんの旧姓は日向なんだよ。」
「随分と詳しいんだな。」
「ああ、今は桐島博士のそばで仕事をしているからな。
それなりには知っているさ。」
「・・・ふーん。」
甲子郎が何かを思ったかのような返事すると、路上に停めていた
早間の車に近づく。
「おら、鍵よこせ。」
「あ?なんでだよ。」
「お前酒臭えぞ。」
「平気だ、このくらい。」
「ダメだ、俺が帰るのだるいだろ。」
「そっちかよ。」
呆れた顔をする早間だったが、鍵を甲子郎に向かって投げると
助手席の方に向かっていった。
「それじゃあお疲れ様。また今度、機会があったらお話しましょう。」
振り向いて琴和に挨拶をする早間。
「はい、また。」
軽く頭を下げる琴和を確認すると車に乗り込む早間。
「明日は日曜だから、見回りは無しだな。
でも何かあったら連絡をくれ。」
甲子郎がそう言うと「はい。」と返事をする琴和。
「それじゃあおやすみなさい。」
二人に挨拶をすると琴和は家に向かい、二人は車で走り去っていくのであった。
<第十一話 調 -終->




