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ヒトならざる者が住まう世界へようこそ!  作者: 鈴
終章第一節 終わる為の長い戦い
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18話 ゆめかうつつか、それとも─


◇◇◇◇◇◇◇



「おや、美波ちゃん?どうしたんだい?」


何も考えずぼうっとしていると、『シロさん』が声を掛けてくる。


「…少し……何だか疲労感が…」


慢性的な疲労、だろうか。肉体的、というよりも精神的なもののように思える。


くらくらと脳が揺れていて、今にでも落ちてしまいそうだ。眠気にも似た、何か別の、未知の感覚に支配されてしまう。

眠気、とは違うが、眠気が一番近い気がする。


その他にも閉塞感を感じる。店はそこまで狭くないし、窓だって開けている。それなのに、どうして閉じ込められているような感覚がするのだろうか。



「はぁ……はぁっ……っ…」



酸素は充分にある。それでも息苦しい。


前が見えなくなって、その場に倒れ込んでしまう。



ああ、この感覚を、覚えている。




私が、私が初めて、人を殺した時に感じた感覚だ。




「…っ!美波ちゃん!落ち着いて!」




声が聞こえる。これも昔と同じだ。




『人殺し』



『役立たず』



『忌み子』



『疫病神』



『死んでしまえ』



『お前のせいで皆死んだ』



『お前が殺した』



『償え』



『贖え』



『贖え』



『死ね』



『殺せ!!』




「っ!?だめ!美波!」



──こえがきこえる。



覚えているあの時の記憶をあの時の情景をあの時の血の海をあの時の死体の山ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ



暗闇

ひとり


襲ってくる



戦わなきゃ

斬らなきゃ



殺さなきゃ



刀を抜いて、目の前の『影』を斬る。こいつはシロさんじゃない。



敵は斬る。斬って斬って罪を重ねて殺して罪を償って罪を重ねる。



「美波!美波ぃ!!」



──こえがきこえる。



幼い声が聞こえる。おそらくまた幻聴だ。幼い頃から聞こえる声。


私は人を守ってきた。人を守れると思っていた。でも人に裏切られた。封印された。

封印されたのは暗闇だった。暗闇に封印された。影が襲ってくる。顔もないひと型の影だ。

殺されても死ぬことはなかった。死んでもすぐに『私』の体は再生する。そして闇は私に言うんだ。


『敵を殺せ』


だから殺す死んでも殺す何度も死んで沢山殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して死んで死んで死んで死んで死んで叫んでも届かないから殺して殺して殺しまくって。その度に声は強くなっていく。


でも当然だ私は罪を犯したのだから罪を償わなければ死んでしまわなければいやそれでは逃げたことになってしまう生きて殺して少しでも罪を贖わなければ全部私のせいだ私が生まれたからこんなことになった私が生きているからこんなことになっている疫病神疫病神死んでしまえ死ね死ね死ね死ね役立たずのくせに何もできないくせに死んでしまえ誰もお前を望まないのだからさっさと消えてしまえお前のせいで何人死んだ何人殺したお前は許されちゃいけない求めちゃいけない求められちゃいけないいい加減わかれよお前自身がそれを望んでいるはずだろ戻りたいなんて思うな。



「ひゅーっ…!ひゅー……っ!」



無情であれ、非情であれ、『完璧』であれ、戦いは自分の正しさを他人に押し付けるものだ。私の正しさではなく、皆が思う正しさで戦え!!



「そうだ!お前()に意思は必要ない!!剥き身の刀であれ!何も考えるな!!お前()のせいで皆死んだんだから!!お前()が殺して償えぇ!!!」



お前()のせいで沢山死んだ!師匠も死んだ!泉石(みいし)さんも日炎(ひえん)さんも死んだ!!お前()のせいで()()()が裏切った!!お前()が仲間を殺した!!」



「忌み子!災いの子!本当にその通りだなあ!お前()が生まれなければ『この世界』はもう少しまともだっただろうなあ!?お前()()()()で死んでいればよかったんだ!」



「それなのに何故今ものうのうと生きている!?死ねよ!死ねよっ!死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇ!!」


刀を振る。師匠に教わった剣術は、最小の動作で敵を確実に仕留める、戦いのための剣術。



私が自分が大嫌いだ。憎んでいるし、恨んでいる。




「美波!ごめん!謝る!謝るから!だからもうやめてぇ!!」



──こえがきこえる。



こんな矛盾している自分が嫌いだ。自分を殺したいくせに楽になって(死んで)はいけないと思っている。

人を殺したくないくせに、大切な人のために人を殺さなければと思っている。

仲間は足枷だとか言っているくせに、自分から仲間を求めてしまう。



ずっと後悔している。泣けなかったことを後悔している。

師匠が死んだ時も泣けなかった。初めて仲間が死んだ時も泣けなかった。()()()が裏切った時も泣けなかった。文字通り自分以外の全てを失った時も泣けなかった。仲間がどんどん死んでいく様を見ても泣けなかった。最初の副官が死んだ時も泣けなかった。人に裏切られても泣けなかった。


アカネさんは私が感情を抑え込んでいたからだと言っていたけれど、それなら感情を抑えていなかった時まで泣けなかったことの説明がつかない。



駄目だ、いつまで経っても堂々巡りだ。ずっと矛盾して、ぐるぐる回って、吐きそうだ。




もう、いっそのこと、何も考えずにぜんぶ壊してしまおうか。




そんなことを考えて、全てが暗転した。

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