初夜
この章は現在執筆中です。完結していないが、締めくくりだけ先に書いてたりします。この章の後もまだ完成していないので、読まないでください。
【第十四章】 初夜
飲み屋に着いた。チューハイと刺身と焼き鳥等を注文して、話題といえばもちろん今までのことになった。
こんな事あったよね
よっくんよくこう言ってたよね〜
なつみの寝落ちはもう慣れてたよー
最初は嫌やったけど(笑)
こんなたわいもない話を、こと俺は俺らではない他の人のことを話すように遠い目で語っていた。
どうしても、今目の前にいるなつみと今恋人になるなんて想像はできなかった。なつみは本当に可愛かった。背が低くて、大人っぽくもあり子供っぽくもある顔つきをしていて、声も受話器越しの声と変わらず愛らしくて、俺にとっては完璧な女性だった。でも、そんなすぐには、、もっと時間がかかると思っていた。
だからあの頃愛し合っていた俺たちを、どうしても今この場にいる俺たちと重ねることはできなかった。して良いものだと思えなかった。
なつみの方も、別にぐいぐい寄って来たりはしなかった。
別に辛かったとかではないよ。
普通に幸せな空間だった。
お互い3杯ほど飲んだところで、お開きということになった。
会計は男が済ませる
これは俺の中では鉄則だった。
なつみは「後で返すね」と言ってくれたが、要らねーよ。
そこは格好つけさせてくれ(笑)
店を出ると、なつみは別れが惜しいそぶりを見せた。
「駅に行く前に、ちょっと歩こうよ」
「うん、いいよ」
横断歩道を渡って、二人は駅の反対側に歩を進めた。
何を話して良いかわからない。いつものようになつみが話題を振ってくれた。
住宅街のそばを通った。
「良い街やな。東京って夜でも騒がしいイメージあったけど、こんな静かな街もあるんやな」
「ね、良い街だよね
うちも初めて来た」
「ねぇ、この後どうする?」
嬉しい。まだなつみと一緒にいられる。
「んーー、どうする?」
「よっくん決めていいよ」
「もう一軒行く?」
「えーでも結構お腹いっぱい」
「そうだよね」
「うんー」
この会話を3,4回繰り返した。
駆け引きって、もどかしいけど、楽しい。
毎回ベストな選択肢を選べている自信は全く無いけど、それでもどこか心地が良い。
「よっくんて優柔不断だね。」
貶す訳でもなく、失望した訳でもなく、来て良いんだよ。って合図をくれたのかな。
「二軒目でも良いし〜、お店で買って部屋でも良いよ」
「え〜部屋ー?俺んちはだめ」
「じゃあ二軒目行く?」
「えーお腹いっぱい」
「じゃあー、、ホテル?」
「えーホテルー?」
「よっくんちどの辺?」
「○○商店街の横」
「え!知ってる!高校の時バイトしてた!」
「え、そうなん?」
「行こうよー」
「俺んち汚いからだめー」
俺の家が汚いというのは事実だった。
なつみと一夜過ごすことは可能性としてはあったと思うが、まさかなって思ってて、本当に準備してなかった。
見られたくない物も片付けていなかった。
「タクシー乗ろ!」
タ、タクシー?
東京の女子って平気でタクシー乗るんだ。
結局タクシーに乗って○○商店街に向かうことになった。
泊まることはほぼ確定したが、俺はまだ諦めていなく、自宅付近のホテルでいいやって気持ちだった。
部屋が本当に見られたくない有様だったからだ。
それでも粘るなつみだった。
ホテルはあからさま過ぎる。まだ駆け引きを楽しみたい。
そう思っていたのかも知れない。
「○○商店街まで、お願いします」
なつみがタクシーの運転手に行き先や何やら伝えて、それを隣で見ている俺。
(何か、慣れてるな。なつみって。)
ちょっと格好悪かった。
タクシーで降りたのは、俺の家から見て商店街の正反対の入り口だった。
「え〜反対側だったのー?向こうまで言って貰えば良かったね」
「ごめんごめん、俺もこっち側の道知らんくて(笑)」
なつみと夜中の静まり返った商店街を二人で歩いた。
「よっくん歩くの速いよ〜」
「大阪人って世界一歩き速いからな(笑)」
酒を3杯飲んだだけだが、時々クラクラしながら、
でもなつみと歩いた夜の商店街は、確かに覚えている。
商店街の出口に近付いてきた。
(ホテルが近所にあったはず。俺の部屋は見せたくない)
「ホテルなんか無いよ〜」
なつみは俺の部屋が良いようだった。
(まあ、片付けたら何とかなるか)
遂に俺は折れた。
「じゃあ、ここで10分待っててもらえる?」
俺の住んでるマンションの真下に来た時にそう言った。
「10分?長いよ〜怖いよお。」
こんな暗い所に女の子を待たせるの?
そう言いたげだった。
確かにそうだ。
「じゃあ、そこにコンビニあるから、お酒買っててくれない?その間に片付ける」
「一緒に行こうよー」
その通りだ。俺が間違っていた。
二人でコンビニで酒を選んで、玄関の前まで来た。
「じゃあ、廊下で待っててくれない?
まず玄関片付ける!3分!」
「わかった...」
「ごめんね」
俺は大急ぎで部屋を片付けた。
「入って良いよ」
なつみを部屋に入れ、映画を見ることになった。
「どれが良い〜?」
「何でも良いよ〜」
「んー悩むな〜」
「これにしよっか」
選んだのは、SF恋愛邦画だった。
俺は観たことがあって、なつみも遠い昔に観たと言ったことを覚えていて、先日話したのだが、ほとんど記憶が無いらしい。
俺は基本洋画しか観ないが、女子は恋愛映画が好きだろうとか、普通に良い作品だしちゃんと内容を知ってほしいとか、俺との恋愛も意識してほしいとか、色々な条件を考えた上での選択だった。
俺は東京で一人暮らしを始めた時、女を家に招き入れる予定は無かった。
何故なら二十歳の時点で結婚しないで生きていこうと考えてしまったからだ。
でも今なつみと思いがけず会ってしまった。
この時ほど、俺がシングルベッドを選択したことを公開した日は無い。
まあでも、シングルベッドって意外と二人でも寝れなくはないことを知った。距離も自然と近くなるし、たまに寝るくらいなら全然悪くはなかった。
俺たちは薄明るいダウンライトの部屋でベッドに二人並んで横たわり、缶チューハイを飲みながら映画を観始めた。
その後駆け引きと呼んで良いか、肩を抱くことも、手を繋ぐこともなく、ただ静かに映画を観ている俺たちだった。
主人公の男がナンパをしたシーンで、なつみが訊いてきた。
「よっくんナンパしたことある?」
「あるよ」
「え、いつ?」
「大学の頃」
「へ〜何人かで?」
「いや、一人で」
「一人ー?そうなんだぁ」
これは嘘だった。
俺はなつみの経験の多さを予想していたし、会ってからの数時間で伝わってきた。
俺が度胸無しとか、女の扱いが下手だとかいうイメージを持たれてしまうと、相手にしてくれなくなるのでは無いかと危惧していたのだ。
それでこんな無意味な、見栄を張った嘘をサラッとついてしまった。
後々知ったが、ナンパは普通複数人でやる物らしい(笑)
映画がちょうど半分の時間まで進んだ時、俺は眠気を感じ始めていた。
夕方に起きた俺だったが、缶チューハイ含め4本飲んだだけで眠気を感じてしまうほど酒には強くない。
対するなつみはどうかというと、全然平気そうだった。顔も赤くなっていない。
俺は一杯目から全身が赤くなっていたというのに(笑)
「ちょっと眠いね」
「また今度観よっか」
「そうだね」
そうして俺はノートパソコンを畳み、夜行バスで手に入れた来客用の歯ブラシ(新品)を貸してあげた。
お互い歯磨きが終わると、またベッドに戻り、昔の二人の話などをしながら、眠りにつこうとした。
「不思議だなー。隣によっくんがいるの」
「まだ信じられんよな」
「だよね」
話題が尽きて静かになってから、なつみが口を開いた。
「もう寝るの?」
「ん?うんー」
なつみは普段俺とLINEするときは80%くらいの確率で寝落ちするくせに、いざ会うと眠気なんかは全く無さそうだった。
(今までの寝落ちを嘘だと疑っている訳ではない。10年連絡を取ってきた俺には、わかる。)
「ねぇ、よっくん。寝るの?」
「寝るよ〜」
目を瞑りながら答えた。
「寂しいなぁ」
「え?何が(笑)」
不意に目を開けて、見つめ合って笑う二人。
この辺りでようやくなつみの肩を抱いたような気がする。
なつみは真顔になって俺を真っ直ぐ見つめている。
もう10cmの距離にいるが、あと一歩踏み切れない。
肩を抱いて距離を詰めては、何事もなかったかのように目を瞑って眠ろうとする。
それを3回ほど繰り返し、遂に静かに唇を合わせた。
「これで寝れる?」
ちょっとこのセリフはクサかったが、俺はなつみをそういう目で見てないよ、この先はしなくても良いよ、という意味だった。
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一度過去の話に戻ろう。
なつみはエロい。
俺は知っている。そう、エロいことの証拠ならいくらでも挙げられるのだが、相手のことを気遣い、詳しく書くことはやめておこうか。
言える範囲で言うなら良いだろう。
「初めてはよっくんが良い〜」
「初めて会った日にしたいね」
「お泊まりして、朝もする」
「結婚したとして、30,40歳になってもしたい。してくれるパートナーが良い」
これは全てなつみが言ったことだ。
特に二つ目は議論の余地があるトピックだ。
俺はなつみをそんな目で見ていないし、そのことの証明として、初めて会えた日には付き合っている・付き合っていないは関係なく、「しない」とハッキリ言ったことがある。
なつみはそれに対し、よっくんなら良いよとか、信頼してるから大丈夫だよと言ってくれたりした。
まあ、10年もの間連絡を取ってきて、体目当てな訳が無い。
それは当たり前のことだが、当たり前のことでも、証明すべきこともあると思う。
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※大切に思っている人なので、情事の詳細は省くこととするが、
俺は結局イけなかった。フィニッシュせずに二人は眠った。
いけなかった理由は禁欲をしていなかったからだ。
それを説明したらなつみは分かってくれたし、そもそも怒ってもないしガッカリを表にに出すことも無かったが、
一人の女性として、少なからず屈辱を受けたことは想像に難くない。
朝になって、なつみはその気だった。俺は昨晩酒をたくさん飲んだから尿意でいけなかったとも説明したから、シラフの今、いかないと辻褄が合わない。
朝はいけた。
それから二人でシャワーを浴びて、狭い一人用の湯船に浸かった。
なつみは10時半から犬の散歩を家族から依頼されているから、そうゆっくりもできなかった。
だけど、時間ギリギリまで別れを惜しんでくれた。
また会いたいねって、なつみも言ってくれていたから、俺は寂しくはなかった。
だって、すぐまた会えるんだから、むしろワクワクしている。
「さみしい」
「うん」
ベッドの上で抱きしめ合う
「よっくんも寂しい?」
「んーいや?次会えるし」
「さみしいよ〜」
「また会えるやん(笑)」
俺は本当にセンスがなかった。
今女の子が求めているのは、励ましなどではなく、一緒になって別れを惜しむことだったろう。
これに気付くのは、なつみを駅まで送った後の帰り道だった。日曜の晴れた朝の人混みの商店街を、
さっきまで一緒に歩いたなつみが今、隣にいない。独りで歩く。
家に着いた。
電気がついていない薄暗い部屋の中で、昨晩点けたキャンバスポスターの写真の中の街灯が静かに灯りを灯している。
幸せな夜を思い出し、俺は急に寂しくなった。