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第4話 遅刻の代償と俺

遅刻の代償は高く付くようです。

「失礼します」


 俺達は後ろのドアから、自分達の教室であるAクラスに身体を小さくして入り込む。


「入学初日に遅れてくるとはいい度胸だな」

「「申し訳ありません」」


 ひったくり犯に会おうが痴女を見ようがそれはこちらの都合なので、俺達は素直に謝罪する。


「おい、あいつシルヴィアさんと一緒に入ってきたぞ」

「まさか彼氏とか?」

「2人とも美男美女だし、ただならぬ関係ってことは間違いなさそうね」


 御推察通り、さっき殺されそうになった者と殺そうとした者です。


「首席様になると授業など受けなくていいって思ってるのか?」

「い、いえ、そんなことはありません」


 この先生、見た目は美人だが口が悪いなあ。まさか俺達の担任じゃないだろうな。


「私はこのクラスの担任のセリカ・ブランドだ」


 げっ! まじかよ。


「リクト・シェフィールド⋯⋯それにシルヴィア・セレストか⋯⋯今日の授業は自己紹介の意味も込めてレクリエーションをすることにしよう」


 レクリエーション? 何だか楽しそうな言葉だがこの先生が言うと楽しそうに聞こえて来ない。


「よし、お前ら! 闘技場に移動するぞ!」


 セリカ先生の一声で俺達は、教室の外へと向かう。


 レクリエーションで闘技場ですか! もう嫌な予感しかしてこない。



 闘技場か⋯⋯なんだか懐かしいな。

 ここでダンドを倒したのが、えらく昔のように感じる。


「さて⋯⋯ここで何をやるか」


 わざわざここまで移動させて何も決めてなかったのかよ! この先生、言葉遣い通り、かなり大雑把なようだ。


「先生! もしやることが決まってないのでしたら僕をそこの遅刻してきた奴と戦わせて下さい!」

「いや俺が戦いたいです! 試験の時、何かよく分からない力で勝って首席なんて納得できません!」

「俺はあのシルヴィアさんと一緒に教室にきたことが許せねえ!」


 シルヴィアさんのことに関しては男全員が頷く。

 こ、こいつら本当はただシルヴィアさんと一緒にいた俺をぶちのめしたいだけなんじゃないか。


「シ、シルヴィアさん⋯⋯なぜ今日は2人で遅刻してきたのですか?」

「そ、それは⋯⋯」


 1人の男子がシルヴィアさんに遅れてきた理由を尋ねるが、言えるはずがない。ノーパンでいるところを見られ、殺そうとしましたなんて。


「なぜ答えてくれないのですか⋯⋯2人はどういう関係ですか⁉️」


 尚も男は食らいついてシルヴィアさんに理由を聞く。


「ひ、秘密を共用する仲です」

「「「「「ひ、秘密を共用⋯⋯だと⋯⋯」」」」」

「そ、そうです⁉️ リ、リクトさん⋯⋯学園が終わったらお話がありますから⋯⋯誰もいない所で」

「「「「「だ、誰もいない所で⋯⋯だと⋯⋯」」」」」


 俺はシルヴィアさんの答えを聞いて頭を抱える。


 そんな言い方をしたらまるで恋人同士だと言ってるようなものじゃないか! この娘は自分がどれだけ人気があるかわかってないようだ。益々男達の視線が憎悪のものとなり、俺を叩きのめそうと怒りに燃えているのがよくわかる。

 まさか男子達を使って俺を亡き者にするつもりか! そうすればノーパンの秘密は守られる。


 シルヴィア⋯⋯恐ろしい娘!


「ねえシルヴィアさん⋯⋯本当の所はどうなの? 彼氏?」

「ち、違います!」


 シルヴィアさんは女子の問いに顔を真っ赤にして否定する。

 そんな表情をすれば、誰もが恋人と勘違いしてもおかしくないぞ。


「でもそんな顔を赤くして秘密を共用? 誰もいない所で話? もう付き合ってるとしか思えないよ」


 女子達は黄色い声で恋愛話で盛り上がっている。

 シルヴィアさんは必死に否定しているが、もう何を言っても誤解は解けないよ。


 そんな中、セリカ先生が背後から俺の肩をポンっと叩く。


「くっくっく⋯⋯お前、嫌われてるなあ」


 くそ、セリカ先生は笑いながらこの状況を楽しんでいる。

 本当はその笑い顔に一発食らわせてやりたかったが、一応先生なので自重する。


「そうだなあ⋯⋯皆からの意見もあったので今日のレクリエーションは模擬戦をしよう。一流の魔法士なら戦うことで相手のことがわかるからな」


 確かにその通りだ。始めてこの人は先生らしいこと言った気がする。

 模擬戦か⋯⋯まあ1対1の戦いなら酷い目に合うことはないか。


「模擬戦だからと言って気を抜くなよ。日頃の訓練を真剣にできない者は、実戦で力を出すことなど到底できない。相手を殺す気で殺れ!」


 殺れって物騒だな⋯⋯だがセリカ先生の言うことは一理ある。


「まずは首席の力を見せてもらおう⋯⋯リクト! お前からだ」

「はい!」


 1番手か⋯⋯まあ予想していたことだから心構えは出来ている。


「リクトの相手は⋯⋯カシム!」

「待ってたぜ! 首席を⋯⋯シルヴィアさんを奪ったお前を倒せる機会を!」


 倒せる機会って⋯⋯お前今日会ったばっかだろ。

 だが相手にとって不足はない。他の同学年の魔法士がどんな戦いをするか楽しみだ。


 しかしセリカ先生の声は止まらなかった。


「アイン! エージ! オルク! シオン! スイ! ソルト! ニルギ !ムジカ!」


 えっ? えっ? 何? 男子が全員呼ばれてしまったけど⋯⋯。


「先生、これはバトル・ロワイアルですよね?」


 確かに一人一人模擬戦をやっていたら時間がかかるから仕方ないか。


「いや⋯⋯リクト対男子全員」

「ちょっと待てぇぃ!」

「どうした? そんな大きな声を出して」

「いやいやないでしょ! 1対9なんてありえないだろ!」


 俺は闘技場を降りてセリカ先生の元へと詰め寄る。


「あなたは俺に恨みでもあるんですか⁉️」

「まああるといえばあるな。今日遅刻してきたから私の教師としての査定が下がった」


 ぐっ! 確かにそれは申し訳ないけどここまでされなきゃいけないのか。


「しかし確かにリクトの言うことも一理あるな⋯⋯よしわかった!」


 どうやらセリカ先生は俺の言うことを聞いてくれるようだ。

 破天荒に見えて意外と話せばわかってくれるのかもしれない。


「みんな聞いてくれ! リクトから提案があった! 1対9じゃ無理だと⋯⋯」


 そうそう。


「その程度の人数でこの俺に勝てると思ってるのか! この身の程しらず共が! 戦うなら女子も含めて全員で来いと言ってる」

「おいぃぃぃ!」


 このアマ! 勝手に捏造して、みんなを挑発するようなことを言いやがった!


「てめえリクト! シルヴィアさんと付き合ってるからと言って調子に乗ってんじゃねえ!」

「ちがっ!」

「みんなで取り囲んでリンチにしてやろうぜ!」


 女子はともかく男子のやる気が殺気に変わって、今に襲いかかってきそうだ。


「さあ時間もない! とっとと始めろ!」

「えっ? ちょっと待って!」


 うぉぉぉぉぉ!


 俺の声などお構いなしに、怒号を上げてクラスメート達が俺に迫ってきた。

ここまで読んで頂きありがとうございます。もし少しでも気にいって頂けたらブックマークや評価をして頂けると更新の励みになります。

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