第2話 魔法少女と俺
変身に憧れる時期は男の子も女の子あります。
少女の目から涙が溢れ落ち、震える手でゆっくりとスカートのチャックを下ろす様は、ここにいる誰もが釘付けになっていた。
我慢に我慢を重ねたけどさすがにもう見てられない。
今犯人が少女に注視しているこの時がチャンスだ。
俺は犯人に向かって魔法を唱える。
「【空気失魔法】」
「がっ⋯⋯な⋯⋯なんだ⋯⋯これ⋯⋯」
犯人は何が起きたのか訳がわからず、苦しそうな表情を浮かべ、首を抑え始める。
「今よ! 法則」
そしてその隙を逃さまいと、少女が逸早く地面に落ちたロッドを拾うと、少女を中心に辺りが急に光始めた。
「な、なんだこれは⁉️」
全員あまりの眩しさに目を閉じているが、俺は何が起きたのかこの目でハッキリと見た。
これはそう⋯⋯前の世界の言葉で言うと【変身】だ。薄いブルーの制服姿が一瞬でピンクのヒラヒラした服に変わり、まるで魔法少女に変身したかのように見える。
「悪いことをする人は許せません」
そして少女のロッドに魔力が集まり始める。
「これは⁉️ さっきとは桁違いの魔力だぞ」
まさか変身することにより能力がアップしたとでもいうのか!
「光ある太陽そして闇ある月⋯⋯相容れない2つの力よ⋯⋯我が手に集いて力となれ【光と闇の洗礼】」
2系統の魔法⋯⋯だと⋯⋯。
「ぐはっ!」
白と黒の光が頭上より現れ、犯人は重いものに押し潰されたように地面に這いつくばる。
無属性の魔法は魔力があれば誰でも放つことができるが、光と闇⋯⋯2つの属性を使うことができる人を初めて見た。
加護は1人につき1つ⋯⋯少女がなんの加護を持っているか俄然興味が沸いてきた。
少女は魔法を放った後瞬時に走りだし、犯人の手から逃れた男の子を抱きかかえ、見事救出に成功する。
「と、捕らえろ!」
男の子が助かったことにより周りの時間が動き始め、周囲の者達が犯人を取り押さえると共に、犯人確保に活躍した少女に対して歓声が巻き起こる。
「あ、ありがとうお姉ちゃん」
「無事で良かったわ⋯⋯」
少女は改めて男の子を抱きしめると安堵のため息をつく。
「あぁ! タクマ!」
「お母さん!」
母親らしき女性が、駆け寄ると涙を流しながら男の子を自分の胸へと導いた。
「どなたか存じませんが本当にありがとうございました!」
「い、いえ⋯⋯誰かが犯人の動きを止めてくれたから⋯⋯私も助かりました」
そう言って辺りを見渡すが、誰も名乗り上げる者はいない。
実際最初に動いて犯人を倒したのは彼女だ。わざわざ俺が手を上げる必要はないだろう。
空気でいることに慣れてしまったので、必要無いところでは目立ちたくない。
少女は変身を解いて左右を見渡し、真剣な表情で俺の方をじっと見てくる。
まさか俺がやったことに気づいているのか⁉️
ボーカーフェイスで少女の瞳をかわそうとした時に気づいたが、この娘メチャクチャ可愛いな。
ロングの黒髪に優しそうな瞳⋯⋯元の世界なら清純派アイドルとして売り出せるかもしれん。
それと何かスカートを抑えてモジモジしてる姿がそそる。
先程脱がされそうになったことを気にしているのかもしれない。
「あの⁉️」
俺は踵を返し、この場を去ろうとするが、少女に呼び止められる。
「何?」
「あなたのいる所から高い魔力を感じたの⋯⋯さっきの犯人の隙を作ってくれたのは⋯⋯」
「いえ、俺じゃありませんよ」
俺は否定の言葉を発するが、少女はどこか確信めいた表情で俺を見つめる。
ひょっとしたら俺と同じ今年の新入生か? それだったらダントとの戦いで【空気失魔法】を見ているから、犯人の苦しみ方でバレているかもしれない。
新入生かどうか入学試験の戦いをしっかり見ていれば⋯⋯。
これもあの時ダーカス学園長が、俺にプレッシャーをかけてきたせいだ。
とにかく今さら名乗り出る気はないので、俺は後ろを振り向きもせずフェザー学園へと向かった。
まずい。
学園に着くと既に人の気配はなく、学園初日から遅刻をやらかしてしまったようだ。
おそらく入学式はそれなりの人数が集まるため、大きな建物で行うから講堂や実技場が考えられる。
ちくしょう! これもひったくり犯の事件に巻き込まれたせいだ。
俺は走りながら大きな建物を探すと、校舎と比べて一際大きい建物が見えたので、さらに加速して急ぎ向かう。
しかし上を向きながら、全力で走っていたのが良くなかったのか、俺は建物の曲がり角から来る気配に気づくことができなかった。
ドンッ!
「きゃっ!」
「おわっ!」
周りをよく見ていなかったから女の子とぶつかってしまい、地面に倒してしまった。
「ご、ごめん! ちょっといそ⋯⋯い⋯⋯で⋯⋯て⁉️」
女の子は尻餅をついてしまい、足をM字に広げているため、スカートの中身がもろに見えてしまっている。
しかし普通ならそこに神の法衣とも言えるパンツがあるはずだが⋯⋯そこには何もなかった。
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