動き始めるものたち
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──動き始めるものたち
トールベルクの街周辺の村々で起きている奇妙な現象。
村が他所からやってきた奇妙な集団に乗っ取られるということ。
“エデンの民”を名乗る武装集団がトールベルクの街周辺の村々を乗っ取り、そこで違法ポーション“ネッビア”を製造していた。ネッビアの原材料となる薬草が栽培され、村の家々の地下にある錬金釜でネッビアが生成される。
その謎の集団に動きがあった。
それはヴァルトハウゼン村で“大図書館”と呼ばれる遺跡が発見されてからだった。
村を占拠していた武装集団は移動を始めた。ヴァルトハウゼン村に向けて。
「信仰者諸君」
ヴァルトハウゼン村にほど近い村で、あの老人──ボニファティウスが集まった武装集団を前にして預言者のように言葉を発していた。
信仰者たちは全員が死んだ魚のように生気のない目をしている。ネッビア中毒者の目だ。彼らはネッビアに心身を汚染され、その上でこのボニファティウスの語る言葉を神の言葉のように真剣に聞いていた。
「今や理想郷への道は開かれた。間もなく我々は救済される。この世界からあらゆる争いがなくなり、人々は皆平等になる。貴族や農奴という違いもなくなり、皆が全て生と尊厳ある人として扱われるのだ」
ボニファティウスが力を込めて語る。
「我々は目指そう。理想郷を。大いなる神の支配する理想郷を。我々は神の名において団結し、神の名において統治される。偽りの神ではない。本物の神によってだ。それこそが我々の幸せのときである」
本当の神。ボニファティウスはそう告げた。
「理想郷は近づいた。今こそ理想郷を手にするとき。さあ、諸君。手を取り合って団結しよう。神の名において団結しようではないか。それこそが我々を破滅から救ってくれる」
ボニファティウスは続ける。
「北を見よ。戦争の火の手が上がりつつある。これからも人類は血によって統治され続けるのか? それとも神の名において平和に繁栄するのか?」
「神の名において!」
戦争。バヴェアリア帝国とドナウ王国は小規模な衝突を繰り返していた。
いずれは戦争になるだろう。そのためにトールベルクでまでポーションが買い占められていたのだから。
「神の名において。我々に平和を。平等を」
ボニファティウスが静かにそう告げて、信仰者たちは祈るように手を合わせた。
そして、ひとり、ひとりとボニファティウスが座する村の集会場から出ていく。
「ペルガモン。ついに我々の目指す理想郷が手に入るのだな?」
「その通りです。ついにアレクサンドリアのメインフレームの位置が明らかになりました。そこさえ押さえてしまえば、残りは神を“作る”だけです。あそこには必要なものが残っているはずです。必要なものが」
ボニファティウスが尋ねるのに、ペルガモンがいつもの薄気味の悪い笑みでそう返す。生きているような死んでいるような。そんな笑みで。
「その前に確認が必要ではないだろうか」
「そうですね。我々の手で確かめましょう。あそこに本当にアレクサンドリアのメインフレームが存在するかどうかを」
ボニファティウスの問いにペルガモンがそう返す。
「では、向かうとしよう。神の降臨する地へ」
「ええ。行きましょう。神の降臨する地へ」
ボニファティウスとペルガモンはそう言葉を交わすと、立ち上がった。
トールベルクの街の周囲に淀んでいた闇がヴァルトハウゼン村に迫っている。
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