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錬金術師さんと白熱病治癒ポーション

…………………


 ──錬金術師さんと白熱病治癒ポーション



 ヒビキさんたちが戻って来た!


「お帰りなさい、ヒビキさん!」


「ああ。ただいまだ、リーゼ君。これがミノタウロスの肝臓になる」


「うわっ! 大きいですね……」


 ヒビキさんは両手いっぱいにミノタウロスの肝臓を抱えていた。その大きさにボクは圧倒される。これだけ大きな肝臓を持ったミノタウロスなのだから、倒すのにも苦労しただろうな……。


「ヒビキさん。とりあえず肝臓をエステル師匠のところまで持って行きましょう。ボクは皆さんのために温かいお茶を淹れますから」


「分かった。エステルに届けてくる」


 ヒビキさんは家に上がるとエステル師匠のところに肝臓を運んでいった。


「リーゼさん。これが角デスよー」


「それもエステル師匠のところにお願いします!」


 角も大きくて立派だ。これだけあれば、白熱病治癒ポーションも完璧にできるだろう。フィーネさんも元気になるに違いない。


「さてと。ボクは温かいお茶を淹れようっと」


 今日も体の芯から冷えるような寒さなので、外で頑張って来たヒビキさんたちのために暖かなお茶を淹れるのだ。ちょうど、アカタマゴ草が残っていたので、それを使ってリラックスできるお茶を淹れるのだ。


 それにしても今日は本当に寒い。背筋がゾクゾクする。なんだか頭も痛いし、これはちょっと寒すぎだよ。


「皆さん。お茶を──」


 レーズィさんたちにお茶を持って行こうとした時、ボクの足がもつれて転んだ。


「リーゼさん! 大丈夫ですかっ!?」


「リーゼの姉ちゃん、どうしたんだ!?」


 う、うーん。頭が痛い……。体が寒い……。


「リーゼ君!?」


 ヒビキさんの声がする。


「酷い熱だ。一体いつから……」


「お、俺、エステルさんに伝えてくる!」


 ヒビキさんがボクのことを抱えておでこを合わせる。ヒビキさんがとても心配そうな顔をして、ボクのことを見下ろしている。


「馬鹿弟子っ! どうしたんだい!」


 エステル師匠も慌ててやってきた。エステル師匠は早く白熱病治癒ポーションを作らないといけないのに。


 白熱病治癒ポーションは煎じたミノタウロスの角と乾燥させたミノタウロスの肝臓を治癒用混合液に浸して……。あれ? そこからどうするんだったけ? 必死に覚えたはずなのに忘れちゃったよ。


 これじゃフィーネさんが助けられない。早く思い出さないと。


 白熱病治癒ポーションはミノタウロスの角、ミノタウロスの肝臓、そして──。


…………………


…………………


「う、うーん……」


 ボクはなんだか酷く頭が重くて目が覚めた。


「リーゼ君。目が覚めたか」


「ヒビキさん? あれ? なんでボク、ベッドにいるんです?」


 ボクは気付いた時にはベッドの上にいた。


 おかしいな。ヒビキさんたちが帰ってきて、ボクはお茶を淹れにいって……。


「覚えてないのか? リーゼ君。君は白熱病に感染したのだよ」


「ボクが白熱病にっ!?」


 ヒビキさんが告げるのにボクは目を丸くする。


「そうだ! フィーネさんのための白熱病治癒ポーションは!?」


「それなら無事にエステルが届けた。心配することはない」


 ほっ。エステル師匠がちゃんとやってくれたのか。


「フィーネ嬢の方も容体は回復に向かっているらしい。リーゼ君はもうしばらく寝ておいた方がいいだろう。君は倒れたばかりだ」


「すみません……」


「謝ることはない。君はあれだけ熱があったのに、錬金釜を整備しておいて、そのおかげでスムーズに白熱病治癒ポーションができたとエステルが褒めていたぞ」


「エステル師匠が?」


 エステル師匠はボクが体調管理を怠ったって怒りそうだけど、そうでもなかったのかな。エステル師匠が褒めてくれるなんて、嬉しいな。


「俺もリーゼ君が回復して安心した。何か飲むかい?」


「あっ。なら、お水を。喉が渇いて……」


「そうだな。かなり汗をかいたからしっかりと水分補給しておいた方がいい」


 ボクが頼むのにヒビキさんが立ち上がって部屋から出ていった。


「そういえば夢を見たなあ……」


 それはボクが子供の頃の夢で、エステル師匠に怒られながら錬金術の勉強をしている夢だった。エステル師匠がボクを叱るのにボクは必死に錬金術の勉強をしていた。


 そこに何故かヒビキさんがいた。


 ヒビキさんは前からそこにいたようで、エステル師匠と仲良く喋りつつ、ボクに怒られてもしょげることはないとアドバイスしてくれていた。


 そう、まるでお父さんみたいに。


 お父さんみたいにって言ってもボクには実のお父さんの記憶がないのだ。生まれてから今まで実の両親に関する情報を聞いたことがない。ボクのお母さんがどんな人だったのか、ボクのお父さんがどんな人だったのか、ボクは知らない。


 ボクにとってはエステル師匠がお母さんみたいなものだ。エステル師匠はたまに意地悪するけれど、それでもボクの大事なお師匠様だ。エステル師匠のおかげで、錬金術を身につけることができたわけであることだし。


 でも、お父さんはいない。エステル師匠は未婚だから、ボクのお父さんになってくれる人はいないのだ。


 ただ、ヒビキさんがそうなってくれたら嬉しいなと思う。


 ヒビキさんは優しいし、紳士だし、頼もしい。ヒビキさんがエステル師匠と結婚してくれて、ボクのお父さんになってくれたら嬉しいんだけどな。


「リーゼ君、水を持って来た。それから疲労回復ポーションも」


「起きたんだね、馬鹿弟子」


 そんなことを考えていたらヒビキさんが戻ってきて、エステル師匠もやってきた。


「ボク、どれぐらい寝てました?」


「丸一日だ。全く、錬金術師が病気になってどうする。信用落ちるだろうが」


「す、すみません……」


 やっぱり怒られた。とほほ。


「まあ、なんにせよ無事でよかったよ。顎で使える貴重な弟子がいないと困るからね」


「エステル師匠ってば酷いー」


 エステル師匠ってば心配してくれたと思ったのにー。


「早く、体調を整えるんだよ。これからまだ寒くなる。白熱病は治ったけれど、体力がないと他の病気にかかることもあるんだからね」


「はーい」


 エステル師匠がそう告げるのに、ボクはヒビキさん持ってきてくれた水を飲む。


「疲労回復ポーションも飲んでおくんだ。エステルが甘いものにしてくれたから、飲みやすいと思うぞ。エステルはなんだかんだで君のことを心配しているからな」


「それなら素直に言葉で言ってくれればいいのにー」


 ヒビキさんが笑って疲労回復ポーションを差し出すのに、ボクはポーションを飲み干した。確かに甘めの味付けにしてある飲みやすいポーションだ。エステル師匠もちゃんとボクのこと心配してくれたんだな。


「ヒビキさん、ヒビキさん。エステル師匠のことどう思います?」


「ん。そうだな。強い女性だと思うぞ。彼女は芯の通ったものがある。流石は女手一つでリーゼ君を育ててきただけはあるものだ」


「ええっと。だとすると、恋愛対象としてはどうです?」


「恋愛対象か……」


 ボクがヒビキさんに尋ねるのにヒビキさんが渋い表情を浮かべる。


「リーゼ君。俺は帰還の方法が見つかったら元の世界に帰るつもりだ。確かにここでの暮らしは楽しいものだが、ここは俺が永住する場所じゃない。あくまで一時的に滞在するだけの場所だ。君たちに恩を返せば、それで戻ろうと思っている」


「そんな……」


 ヒビキさん、ずっと村にいてくれると思ったのに、帰っちゃうの……?


「すまない。リーゼ君。だが、俺はどうしても地球に戻らなければならない。俺が軍人だ。祖国への忠誠と軍人としての義務がある。それを果たすためには元の世界に戻るしかないんだ」


「どうしてもですか……?」


「どうしても、だろう」


 そう告げるヒビキさんの顔は少しだけ寂しそうだった。


 そんなに寂しそうな顔をするなら、ここにいてくれればいいのに。


 でも、ボクはそうは言い出せず、ヒビキさんと黙って向かい合っていた。


 冬はやがて去り、春が訪れようとしている。


 ヒビキさんが来てから、もうすぐ1年だ。


…………………

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