ゼロとイチのソラ
「陸ー! なんかすごいことになってる! 世界がすごいことに! 世界が!」
アウェイクして、最初に聞こえてきたのは支離滅裂な詩織の悲鳴だった。これが最後のアウェイクになるのかと思うと、もう少しこの感覚に浸っていたかったのだが、そうさせてはもらえないらしい。忙しい世の中だ。
「ソラちゃんからメッセージが届いて、人類を救うために仮想を消して、もう二度とダイブできなくて……とにかくなんか大変なの!」
「やかましい女だな。詳細は知ってる。ソラから直々に教えてもらったよ」
「じゃ、じゃあ、仮想が消失したって、冗談じゃないんだ……」
「ソラがそんな悪質な冗談言うわけないだろ。しかも全人類に対して」
「そっか……そうだよね……あはは……」
さすがの詩織も驚いてるようで、焦点の合っていない瞳のまま苦笑いをしていた。
「仮想が……消えた……消えた……?」
「アホ面を晒してないで帰ってこい詩織」
全世界で、こんな状態の人が多発しているのだろう。俺は人間型接続子からDケーブルを抜き、コンソールから抜け出す。電源は付いているが、ダイブ機能が完全に沈黙していた。もはやコンソールは、データを入れておくことしかできない大きな箱だ。
ソラのデータを俺の電脳に移動させれば、また話すこともできるかもしれないが――やめておこう。ソラは大仕事のあとで疲れているだろうし、少しくらい眠らせてやらないとな。
「さあ、これから色々と忙しくなるぞ。現実にもツテのある便利屋としては稼ぎ時になる。いやぁ、仮想での依頼しか受けないライバルたちがどうなるのか見物だな」
「たくましいね陸……わたしはさすがに驚きすぎて疲れたよ」
「へばっている暇はないぞ詩織」
大きく背筋を伸ばし、少し淀んだ空気を肺いっぱいに吸い込む。
「これから先の未来は、俺たちが作っていくんだからな」
俺はとある少女を想いながら、コンソールへと語りかけた。




