反転攻勢
「大丈夫かなソラちゃん」
ソラが居なくなり、俺と詩織は区域の中で時間をもてあましていた。
「ソラならきっと大丈夫だろ。なんだかんだ、強かなやつだからな」
「そうだね……。それにしても、ヴァーチャルロードに現実から侵入して、管理AIと野良AIをコネクトしようってんだから、すさまじいことしてるよね。前代未聞だよ」
「仕方ないさ。仮想の管理AIは特殊だから、普段はコンタクトを取ることすらできない。だから、こうでもしないと並列化できないんだよ」
一般に普及している医療用AIなどは並列化の条件も緩いらしいが、仮想の管理AIと簡単に並列化はできない。
あくまで非常事態のみではあるが、軍や政府機関などは、並列化が可能らしい。
「ま、せっかくだし面白おかしく行こうじゃないか。どうせ俺らの寿命が尽きるより先に、世界が崩壊するだろうし、太く短くだ」
「前向きなんだか後ろ向きなんだか」
気を緩めながら詩織と話していると、目の前の空間がねじれるように歪み、
「お待たせしました」
まるで魔法のように、笑顔のソラが現れた。
「お、おお……急に出てきたからびっくりしたぞ」
「あはは……色々できることが増えまして、ちょっと試してみたくなったんです」
「その様子だと、うまくいったみたいだね。どう? どんな感じ?」
「そうですね……仮想空間における制限がほとんどなくなりました。あらゆる物を即座に作り出せますし、どの区域にも瞬時に移動することができます」
「わお、ソラちゃんホントに神様になっちゃったよ」
「仮想限定ですけどね」
ユーザーからマネージャーにクラスアップしたようなものだからな。もはやソラには何でもありだ。
「なあ、それより、仮想の管理AIってどんなだった?」
「なんと表現していいのかわかりませんが……大人な方でした」
「大人……ねぇ」
「はい。私も将来あんなできる女になりたいと思います」
「そ、そうか……応援してるぞ」
ソラと管理AIとの間にどんなやりとりがあったのかはわからないが、なかなか面白い経験だったらしい。AI同士の対話にも興味はあるが、悠長にソラの話を聞いている暇もない。
「何にせよ、これで俺たちは力強い味方を得たことになる」
「だねー。鬼に金棒、虎に翼だ。それじゃあさっそく……行っちゃう?」
「もちろん。今度はこっちから攻めるさ」
俺の防壁をボロボロにした罪は重いぞ、フレイザー。
「――特定できました。お二人にも座標を送ります」
フレイザーの居場所を探っていたソラが、無事に探り当てたようだ。所要時間は三分かそこら。広大な仮想空間の中から、たった一人の人間を見つけ出すことを考えると、すさまじい速度と言える。
「座標は……交差点ではなく、防壁満載のプライベート区域か」
先ほど俺のプライベート区域に侵入しようとしたやつらを失って、一時退却した、といったところか。
「俺たちの居場所を探っているのか、次の攻撃の準備をしているのか……どっちにしろ放置はできないな。ソラ、この場所に直接飛べるのか?」
「はい。可能です。陸さんと詩織さんも当時に飛べますが……すぐに行きますか?」
「ソラちゃんがすさまじい能力を……ねえねえ、今すぐこの場にステーキとか出せる?」
「あとにしろアホ。――悪いが、俺たちをすぐに送ってくれ。さっさとケリを付けよう」
「わかりました。では……」
ソラは俺と詩織の手を取り、瞳を閉じる。
「鬼ごっこはもう終わりにしましょう」
電子体が輪郭を失い、俺の意識は電子の海へと還元した。




