深夜の反復横飛び
私の部屋は1階ですが、幸いなことに隣の区画は会社が所有する広い駐車場で、空が大きく開けて日当たりもよいのです。
町中なので夜は満天の星空、とはいかないけど、ポピュラーな星座も見えるし、天頂から降りてくる月もよく見えます。
ひどい乱視なので、眼鏡をかけてても三日月が四つくらいに見えちゃうのが残念ですが。
人より生活時間が6時間ほどずれている私は、夜中の一時二時までパソコンの前で作業していることも多いのです。
どれだけ集中していても、三時間四時間も座り続けていると集中力より先に背中や腰がつらくなる。
で、気分転換と背伸びをしに、天気のよい日はベランダに出て外を眺めます。
よく晴れた日の満月なんか、青白い光にエネルギーをもらえるような、というか奪い取るつもりで一心に月光を浴びたり。
海沿いの工場の煙突の光が、雲や煙に反射して赤く揺らぐのを楽しんだり。
その日は、秋口の、少し肌寒い夜でした。
月は沈んでしまったのかまだ出ていないのか。
代わりに、ちょっと明るめの星がよく見えて、よい夜でした。
で、しばらく空を眺めていたら、なんだか視界の中に動くものが見えます。
隣の広大な駐車場の、道路を一本隔てた更に隣の区画に立っている建物の上で、何かが飛び跳ねています。
夜だから鳥でもないし、風船でも引っかかってるのかな、と思ってよく見ると、どうも人間のよう。
上下のジャージを着た若い男の人でした。
しかも彼、ただ飛び跳ねてるわけじゃない。
とても綺麗なフォームで、反復横跳びをしている。
あらあら、酔ってるのかな、落ちなきゃいいけど。でも楽しそうだな、としばらく眺めていましたが、秋の風が肌寒くて、正味5分ほどで私は部屋へ戻りました。
ちょうど自分の中で締め切りを抱えていた時期で、連日の同じように夜更かしし、だいたい同じ時間にベランダにでては息抜きしていましたが、三日に一・二回は反復横跳びの影を見ました。
きっと、毎日のジョギングとか腹筋的な、あの人の日課なんだろうと、私は疑問にも思わず、少し眺めては部屋にひっこむを繰り返していました。
別のジャンルだけど何かに頑張ってる人が、この同じ時間に起きて頑張ってるって思うと、なんか励まされません? されない? 私だけ?
そのうち自分の中の締め切りに一段落ついて、ベランダで一息つくのを忘れてた、一ヶ月後くらいでしょうか。
たまたま例の反復横跳びする屋根のある方向に歩いて行く機会がありました。
車で生活してると、決まったルートしか通らないもので、近所に住んでてもほとんど歩くことのない場所ってあるんですよ。その建物のある区画の道路は、車でも徒歩でも普段は利用するひつようがない場所だったので。
歩いてて、あー、あのひと、あんな高いところで反復横跳びなんかやってたんだ。しかも夜中に。
変なところに感心しながらよく見てみたら、そこ、アパ-トでも一軒家でもなく、会社の倉庫みたいなんですね。
うちから見ると建物の横から見る形になるので気がつかなかったけど、塀に囲まれていて、門は施錠してあって、某有名警備会社のシールも貼ってありました。
敷地がわりと広くて、隣の建物から飛び移れるような距離ではなく。
昼間ならまだしも、夜中に忍び込んで屋上まで上がるって大丈夫なのか?
そういえば、乱視がきつくて眼鏡をしていても月が四つに見えるような私が、
光源の乏しい夜中に、こんな遠くの場所で飛び跳ねている人の性別やジャージの模様まで見えてたって、おかしいよなぁ。
最近私、ちょっと早寝なので、彼がいまだに反復横跳びしてるかどうかは定かではないです。
ていうか、なんのこだわりで反復横跳びなんだろう。