流れる。のを辞める⑭
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「良し、こいつで最後だな。――おいアメト、揃ったぞ」
「お、ありがとう」
「全部でいくらだい?」
とは言っても、金貨二枚しか持ち合わせてないんだけど。
多分、足りるだろう。
「金貨一枚、銀貨五枚ってとこだな」
あれ。
思ったよりも高いな……。
「どれが一番高いの?」
「そりゃあ、こいつだな」
ドニクはカウンターの上、銀色の丸い物体を指差す。
「銀貨五枚はこれの分だな」
時計か。いやまぁ、そうだとは思ってたが。
「そっか。仕方無い、よな……。分かった、じゃあこれで支払い頼む」
金貨二枚を置く。
「……?アメト。なんか他に入り用でもあんのか?」
「いや、特に?どうして?」
「どうにも渋い顔してる様に見えたんでな」
「あ……あぁ、いや。何でもないんだ。大丈夫」
「……そうか?」
金貨を一枚くらい残しておきたかった気持ちが表情にまで出てたみたいだ。
カーンさんから譲って貰ったものだから……なんて、流石にそんなのは値引き交渉の材料にはならないよなぁ。
「本当に何でもないよ。精算お願い」
気持ちは、これからの活躍で返そう。
それがきっと、恩返しになると信じて。
「じゃ、これが注文の品。全てバックパックに詰めておいたから後で確認してくれ。柄だけはこのまま、んでこっちが釣りの銀貨五枚だ」
「あぁ。色々ありがとう、ドニク」
「お前さんが良い客になるのを祈っとくぜ。アメト」
「――あ、済みましたか?アメトさん」
「うん。ごめん、待たせたね」
「いえいえ、全然大丈夫ですっ」
ダンジョンについての情報はかなり集まった。
道具類の準備も万端。
戦闘への覚悟も……いや、これはまだ分かんないけど。
……でも、やってみなきゃ始まらないよな!
「――よっしゃ!行こうか、アクア!」
「はいっ、アメトさん!」
遂に、俺の初冒険だ!
――――【ゴブリン洞窟】――――
【アマヨ】……あの街を出て街道を歩く事、三十分程度。
特に障害なども無いまま歩き続けて、今、俺は目的地の目の前に立っている。
ここが……。
「ゴブリン洞窟、か」
おかしいな。
急に身体中から冷や汗が……。なんか、震えてもいるような……
「アメトさん……大丈夫ですか?お顔が……」
あ……。
駄目だろこれは。ダサ過ぎるって、俺。
こんな状況で、女の子に心配されるなんてよ。
あらん限りの勢いで、己の両頬を叩く。
「きゃっ!?あ、アメトさん!?」
ジンジンとする頬が教えてくれる。
そうだよ、これは俺が選んだ道だ。初めて、自分で選び取った未来だ。
理解っていて、踏み込んだ世界だぞ……!
再び、両頬を叩く。
――気合を、入れ直せっ!!
「……いっ……つう〜……!」
でもちょっとだけ、強くし過ぎたかも知れない……
「だ、大丈夫ですか!?」
「大丈夫、大丈夫……!!この期に及んでビビってる自分をぶっ飛ばしただけだから……!」
「…………分かります」
「えっ?」
「あたしもそれ、やりましたから」
アクアは、にこっと笑う。
本当……良い子だなぁ……
「……よし、行こうか!出発だ!」
「はいっ!」
この子に見られているんなら、俺は普段以上に頑張れるかも知れない。
……それに、男なんてそもそもそんなモンだよな!
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かなり臭う、湿った空気。
時折、洞窟の奥から聞こえる不気味な鳴き声と、金属同士がぶつかる様な甲高い音。
……それに、この薄暗さ。
ゴブリン達が自らの為に設置したのか、所々に松明が掛けられているものの……暗い。
辛うじて、十メートル先が薄っすら視えるくらいだ。
「……緊張してますか?アメトさん」
「流石にね……。でも、丁度良い緊張だと思う」
「丁度良い?」
「うん。昔にどこかで聞いた気がする。こういう時は適度な緊張が大切なんだ、って」
「へぇ〜……どうしてですか?」
えっと、確か……
「何事にも『慣れ』ってのは大敵なんだってさ。……ここは恐らくこうだろう。この場合の対応は多分こうだ。……そういう、所謂『油断』を生むからだって」
「確かにそうかも知れません……」
「『緊張』と『慣れ』ってのはある意味対極だから。だから、良い緊張感は大切……って話だったと思う。それに、俺もそう思うしね。勿論、緊張のし過ぎも良くはないけど」
……ま、正直……。この身体の震えには恐れも多分に含まれているだろうけど。
「この洞窟の攻略中、決して気は抜かない様にいこうと思う。アクア、俺がウィンドウの事を聞いたらよろしく頼む」
「任せて下さいっ」
……あれ?そういえば……
「それ以外の一切。手助けとかも禁止……だったよね?」
「そう聞きました!」
「それってさ、例えば不意に……アクアがモンスターに襲われた場合はどうなるんだろう」
「クエスト条件には、明確な生命の危機を感じた時以外の戦闘を固く禁ずるってありました」
……マジか!?
「え、それってつまり……」
「あたしの事、守って下さいね!アメトさん」
異世界ってやっぱり厳しいなぁ……。
「や、やるだけ……やれるだけ頑張ってみるよ!……うん、しっかり、うん。……よし。……進もうか」
「はいっ!試験スタートですね、頑張って下さい!」
意気揚々と(心持ちだけは)進んだ先。
時間にすれば一分も経ってはいないだろう。
ソレは不意に目の前に現れた。
「ギギ……」
イメージ通りの小さな体躯。
不潔そうな腰蓑だけを身に着け、手には棍棒を持ってこちらを威嚇している。
これが……
「……ゴブリンか」
現れたのは一匹。
さて、どうするか……
逡巡していると、棍棒が目の前を縦に掠めていった。
「――うわッ!?」
危なっ!?躱した……いや、外したのか!
「ギギ……!」
思わず尻餅をついた俺を見下ろして……なんだ?
こいつ、もしかして……!
「笑いやがったな、コノヤロ……!」
「ギ?……ギギ!」
「舐めんな、よ!!」
素早く周囲を見渡し、手頃な大きさの石を見つける。
――動け!!
「馬鹿みてぇなその面に、風穴開けてやる!」
石は俺の意思に従い、ゴブリンの顔……そのド真ん中目掛けて高速で飛ぶ。
「ギ!?――ギヒャッ」
狙い通りに事は運んだ……一安心だ、な。
安心すると同時に、全身から汗がドバっと噴き出すのが分かる。
これが、……これが、戦闘か……!
「つうか、うわ……グロ」
即死したゴブリンの体がビクンビクンと脈打ち、ドロドロとした血を流している。
「……ま、とにかく……!初戦闘、俺の勝ちだ!!」
尻餅をついたままのカッコ悪い姿勢だけど、右腕を高く掲げる。
「アメトさん凄いです!」
少し離れた所で見ていたアクアが駆け寄ってくる。
「今の、土魔法かなんかですか?あんな速度で飛ぶ石をあの精度で操るなんて相当な腕ですね!」
「ありがとう……正確に言うと土魔法じゃ無いんだけどさ」
「……?そうなんですか?」
「うん。……いや、これは後で説明するね。今は……」
そうだ。
俺は戦える。
戦えるんだ……!それが今、確認出来た。
「……よーし!どんどん進もう!」
自信がついた……震えも無くなった!
こんなトコ、さっさとクリアしてやるぜ……!




