流れる。のを辞める⑬
――――――――
「あたし、外で待ってますね!」
「ん?うん。分かった」
教えて貰った冒険者用の総合店【虎の尻尾】……ここで合ってるよな?
然程、距離が離れていないのは幸いだった。
文字が分からないってのは不安になるもんだなぁ。
こういうのもアクアに聞いて良いのか判断つかないし……ま、でも多分聞かないほうが無難だよな。
「ごめんくださーい」
「おう、いるぜ。……【虎の尻尾】にようこそ。で、何の用だ。新顔だよな」
カウンターの下からヌッと出てきたのは、小柄な割に大分ゴツい体格の男。
それに立派な髭……。なんて言うんだっけこういう人、えーと確か……
「……ドワーフ?」
「いかにもそうだが。ドワーフは嫌いか?」
あ、やべ。声に出てたか?
流石に不躾だった。
「あぁいや、そうじゃないんだ。実は田舎から出てきたばかりで……何か失礼をしたんなら申し訳ない」
頭を下げる。
「……。……はん、気にしちゃねーよ。確かに数は少ない種族だからな。多少の珍しい目で見られる事にも慣れてる……まぁしかし、謝罪は受け取っとくぜ」
良かった、機嫌を損ねた様子は無いみたいだ。
多分、この店とおっさんにはこれから何度も世話になる筈だし……最初は肝心だ。
「この店の主『ドニク』だ」
「あぁ、よろしくドニク。俺はアメトだ」
「するってぇとお前さん、新人冒険者かなんかか」
「いや、まだ新人ですら無いんだ。試験に向かう途中で……この店で色々と揃えられるって聞いたもんで。先ずは防具が欲しいんだが……」
「なるほどな。……お前さん、得物はなんだ?戦闘スタイルは?」
「魔法……に、なるのかな?武器とかの心得は全く無い」
「拳闘は?」
「さっぱりだ」
「……ふうむ。つまり完全に遠距離砲台型、って訳か」
厳密に言えば、それすら怪しいけど……。
「なら、装備は防御力を重視したもので良いな。機動力はそれ程要らないだろう」
「実は自分でもそう考えてた。素早く動ける足も持ってないし……防御に振り切って良いんじゃないか、ってね」
「防御魔法の類は?」
「それも使えないな……」
「なら、こういうのはどうだ」
ドニクは多くの衣服が掛けてある場所に移動する。
そこから、一着の青い上着を取り出した。
「少々値は張るが……こいつは、さる高名な魔法士が作った特注品でな。魔石が縫い込んである【魔法服】だ」
「魔法……服?」
「そうだ。敵からの攻撃……つまり、強い衝撃を受けたりなんかすると自動で防御魔法が発動する。回数制限は五回だが、魔石に魔力を充填する事で再使用も可能だ」
何それ凄い。防弾チョッキみたいなものか?
「それに加えて、使われてる素材には魔法耐性も有る。流石に全属性って訳にはいかないが、火と雷あたりには強いぞ」
凄いっていうかもう伝説級みたいな性能だな。
「おまけに軽い。近接戦闘が不得手な、貧弱な魔法士でも容易に扱える代物だ」
貧弱って。いや貧弱で間違い無いけどね……
「……ちなみにお値段は……」
「まけにまけても金貨二十枚。どうだ?」
二十枚か……。
カーンさんに貰った金貨は残り二十二枚。
――うん。買おう。
これを買っても、金貨二枚は残る。それで、他のアイテムなんかは揃えられるだろうし。
心の中で今一度、カーンさんに深い感謝の意を示しておく。
「良し、買った」
「毎度あり。お前さん、間違い無く良い買い物をしたぜ」
「ドニク。あと、回復ポーションや解毒剤なんかが欲しい」
「回復ポーションならそっちの棚だ。解毒剤は……ゴブリンが使う毒用の奴で良いんだよな?待ってろ、奥から取ってくる」
「えーっと……?」
勿論、瓶のラベルは読めない。
それっぽい奴はあるけど……ここら辺りか?
ひとまず、何本か纏めてカウンターに持っていく。
「おう、待たせたな。よっ……と。――ん?」
ドニクがカウンターの上を見て、少し驚いたような顔をする。
……あれ。やっぱポーションじゃない奴も混ざってたかな。
「……これが解毒剤だ。あと必要なモンはあるか?見たとこ、バックパックすら持ってねぇみたいだが」
ん?全部ポーションだったのか。それにしては反応が妙だった気がしたけど……。まぁ、良いや。
「そうだった。バックパックにナイフ、縄や火起こしの道具、寝袋……それと、三日分の食糧と水が欲しい」
ドニクは俺が言ったそれらを紙に書き込んでいるみたいだ。
「――水……と。他には?」
うーん。
「あー……。……あ、動きやすくて丈夫な靴が欲しい。後、軍手……えっと、作業用の手袋も頼む」
あと、あとは……うーんと。
…………そうだ!
「時計!頑丈な物ほど良い。日付が表示されれば尚良しだ」
大切なものを忘れるところだった。
これが無いと期限が分からなくなるからな。
「時計か、上等な奴が有るぜ。――良し、こんなもんか」
ドニクは紙をつまみ上げると、店中から商品を集めにかかる。
「全部揃えるのには、そうだな……小一時間くらいか」
「それまで店内を見て回ってても良いかい?」
「あぁ。好きにしてくれて良いぜ」
店主の許可を得たので、店内をブラブラと歩く。
店の広さは、ちょっとした商店くらいは有りそうだな。結構広い。
ここら辺に置いてあるのは武器か。俺にも使えそうな武器とか無いのかな?
試しに、樽に何本も入った片手剣の一本を持ち上げてみる。
「――重っ……!」
想像以上に重たい。これを片手に持って振ったりしながら逆の手に盾とか持つの?……それで走り回るって?長時間?
…………うん、無理だな。無理無理。軍隊とか警察の人ならまだしも、俺は普通の一般市民だ。
「お」
弓か。これならどうだ……?
壁に掛かった弓を手に取り、試しに引いてみる。
「思ったよりは軽いけど……」
これ、矢を番えた状態で引き絞って、狙いを定めるんだよな。
もう今の時点で、腕がプルプルしてるんだが。
無理……とまでは言わないけれど、鍛錬と修練は絶対必要だ。とりあえず、止めておこう。
「暫くは無手で良いか……」
うん。
というか、筋トレも満足にしてない俺如きに、扱える武器なんてそうそう有るわけないか。
「――ん……?」
なんだ?
身体がゾワゾワする……呼ばれてる……?何に?
……これ、か?
「剣……の、柄……?」
それは剣が何本も入った樽、その奥に隠れるようにして有った。
え、つうか柄だけ?刀身が無いんだけど。
「なぁドニク。これって……」
「ん?……あぁ、それはな」
脚立の上で作業していたドニクはわざわざ降りて来てくれた。
「実は俺にも良く分からねぇんだ。……いつの間にかこの店に有って、捨ててもまた戻って来やがる」
「え。何それ怖い話?」
「ガッハッハ、ある意味そうかも知れねぇな!お前さん、こいつが気になったのか?なんでまた」
「いや、俺にも良く分かんないんだけど。なんか……呼ばれた気がした」
「呼ばれた?……コレにか?」
「いちおう。変な事を言ってる自覚は有るからね」
ドニクは俺と柄を交互に見て、不思議そうな顔をしている。
「ふぅむ……?……それ、持っていくか?」
「……へ?」
「金は要らねぇからよ。ウチとしても厄介払いにゃあなるしなぁ」
う、うーん。
……柄だけ持ってても意味無い気しかしないけど。
…………何故だろう。
何故か、俺が持ってなきゃならない感じがする。
「じゃあ……ひとまず貰っていくよ」
「あぁ、そうしろ」
(――――……ね)
「んっ?」
「どうした?」
「いや、今なんか声がしなかったか?」
「何も聞こえなかったが」
「……?そっか……」
気の所為、か。




