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【コミカライズ開始!】宿屋の看板娘、公爵令嬢と入れかわる ※Web版  作者: 優木凛々
おまけ

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シャーロット、市場に魚を買いに行く

 宿屋の看板娘マリアと、公爵令嬢シャーロットが入れ替わって約1カ月。

 2人が環境や生活に慣れてきた頃の話です。


 今回は、海辺の街タナトスにある、宿「ふくろう亭」(マリアの実家)で暮らすシャーロット側の話です。



 青い海がキラキラと光る天気の良い朝。

 マリアの中に入っているシャーロットが、覚悟を決めた顔で宿屋の入口に立っていた。



「あんた、本当に大丈夫かい?」

「無理しなくていいんだぞ」



 宿屋のおかみさんサラと、その亭主のディックが心配そうな顔で声を掛ける。

 シャーロットはにっこり笑うと、出来る限り明るく言った。



「大丈夫ですわ、行ってまいります」



 *



 マリアと体が入れ替わってから約1カ月。

 親切にしてくれる宿屋の人たちの役に立とうと、シャーロットは、マリアの記憶を頼りに、宿屋の仕事をがんばっていた。


 部屋の掃除や洗濯、食事の仕込みの手伝い。

 まだ慣れていないため、接客などは出来ないが、裏方の仕事は難なくこなせるようになった。


 しかし、たった1つ。

 裏方の仕事でありながら手をつけられていない仕事があった。

 それは「市場への魚の買い出し」。


 タナトスの街は海に面しており、魚料理は宿の看板メニューの1つだ。

 シャーロットとマリアが入れ替わる前は、マリアが毎日市場に魚を買いに行っていた。


 本来であれば、シャーロットがその後を継いで買いに行くべきなのだが、



「……生のお魚ってこういう感じですのね……」



 調理前の魚を見たことがなかったシャーロットが、生魚を見て怯えたため、

 ディックが魚を買いに行く役割を担っていた。


 毎日調理の手を止めて市場に出掛けるディックを見て、シャーロットは申し訳ない気持ちになった。



(わたくしのせいで、ディックさんの負担が増えてしまっているわ)



 彼女は決心した。

 わたくし、市場に魚を買いに行くわ、と。


 そして今日。

 サラとディックに見送られて、市場へ初の買出しに行くことになった、という次第だ。



 *



 心配そうな2人に見送られ、シャーロットは(かご)を持って外に出た。


 マリアの記憶によると、市場には月契約をしている魚屋があり、そこでお勧めの魚をもらってくればいいらしい。


 シャーロットは籠を抱えて歩きながら胸に手を当てた。心の中は不安でいっぱいだ。



(でも、魚が苦手だからって、甘えてはいられませんわ)



 彼女はマリアの記憶を頼りに、道を曲がった。

 緑の蔦とピンク色のブーゲンビリアに囲まれた狭い路地を抜け、青い海に続く坂道を下っていく。


 そして、坂を下り切り、彼女は港の近くで開かれているにぎやかな市場に到着した。

 道の両側には屋台が所狭しと並んでおり、買い物客でごったがえしている。


 彼女は、ごくりと唾を飲み込んだ。



(こんな人混み、初めてですわ)



 人にぶつからないように籠を抱えて身を小さくしながら進み、何とかいつもの店に辿り着くと、体格の良いスキンヘッドの男性店主が大きな声で言った。



「よう、マリア! しばらく振りだな!」

「ご、ご無沙汰しております!」



 何とかマリアっぽく見せようと大きな声で返事をすると、店主が妙な顔をする。

 そして、「(妙にお上品な気もするが)まあいいか」とつぶやくと、屋台の下からバケツをひょいと持ち上げた。



「今日はこれだ、油がのっててうまいぞ!」



 バケツの中を見て、シャーロットは思わず「ひっ」と叫びそうになった。


 中には、手くらいの銀色の魚が十匹以上入っており、ピクピクと動いている。



「あ、あの、これ、生きて……」

「おうよ! 捕りたて新鮮、ぴちぴちよ! 籠を寄越しな!」



 戸惑いながらも籠を差し出すと、店主が笑顔でバケツに入っていた魚をざばっと空けた。



「ほらよ、オヤジさんによろしくな!」



 シャーロットは籠の中を恐る恐るのぞき込んだ。


 籠の底で、魚がうにょうにょと動いている。


 見ていたら気が遠くなってしまいそうな気がして、彼女は視線を逸らした。

 そして、なるべく見えないようにお腹のあたりで籠を抱えると、丁寧にお辞儀をした。



「お魚、ありがとうございます。ごきげんよう」

「お、おう……」



 目をぱちくりさせる店主を残し、彼女は来た道を帰り始めた。

 途中で魚が落ちそうになるというハプニングがあるものの、何とか無事に宿屋に戻る。


 籠を抱えて厨房に入ると、マリアの妹である4歳のコレットと、おかみさんが出て来た。



「おねえちゃんおかえり!」

「ありがとう、助かったよ。疲れてないかい?」

「はい、大丈夫です。店主さんもとても親切な方でしたわ」



 そうかいそうかい、とサラが笑顔でうなずいた。



「じゃあ、おやつにしようかね。今日は蜂蜜トーストにしようか」

「わあい、あたし、蜂蜜大好き!」



 コレットが大喜びで跳ねまわる。


 その後、シャーロットは2人と共にカリッと焼いたトーストに蜂蜜をたっぷりつけたものを楽しく食べた。


 片付けた後、いつも通り細々した仕事をこなし、夕方から夕食の仕込みを手伝う。


 そして、夜になって部屋に戻り、彼女は



「今日はがんばったわ」



 とつぶやくと、未だかつてない穏やかな気持ちで眠りについた。


 

ガンガンオンラインにてコミカライズ連載中!

お読み頂けると嬉しいです(,,ᴗ ᴗ,,)ペコリ


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