神速のお料理教室
激遅! テイワットに潜ったり企画の短編を書いてました!
「レイ! ボクに料理を教えて!」
あいつらが旅に出るということで、張り切って大量の夕飯と渡す分の料理の仕込みを終わらせ、少し休憩をしようとしていたら突然俺に巫女服姿の元同郷の少女、ユズが話しかけて来た。
「どうしたんだユズ、藪から棒に。 急に料理を?」
「うん、今回レイから沢山料理を貰ってボクのインベントリに入れて保存しておくことになってるけど、いつかはそのレイの料理も底が尽きることになるでしょ?」
「そりゃあまあ……食料品だからな。 ……ははぁーん、お前もしかしてハンバーグを食べられなくなるのが怖いんだろ!」
「うぇ!? ば、バレた!!??」
「ユズ、お前の考える事なんてお見通しなんだよ。 伊達に何年料理人やってると思ってるんだ」
こんなにかわいい女の子から自分の作る料理を褒められるのは中々いい気分だが、たったの一夜で俺のレシピを盗めると思っているのだろうか。
なにしろあいつらが旅に出る理由がこの少女にある。 俺としては折角逢えた同郷の仲間を、更には年下の女の子を見送るなんてしたくないのだが……。
「うう…あのね、料理のことでみんなと話したんだけど……」
ユズの話によると、なんとあいつら誰ひとりとしてまともな料理を作れないのだという。 アホか……? 以下はユズが聞いたというバカ4人が吐いたセリフだ。
『え? 料理……? お酒のつまみくらいならつくれるけど…ちゃんとした料理はしたことないわね』
『あ? 料理? 火をかけた鍋に材料ぶち込めばそのうち出来るんじゃないのか?』
『ふむ…料理か。 私は得意とは言えないな。いや待てよたしかこの本に………このページだ。えぇと…【耳長族のヌヌペヌグール】。作り方はオークの腸を水魔法で綺麗にした後、中に香草と薬草などを……ユズくん、何処へ行く。 おおい』
『り、料理かぁ……私、裁縫とかなら出来るけど料理はいくら挑戦しても上手く出来ないんだ…。でも、食べるのは任せて!』
耳長族のヌヌペヌグールはちょっと気になるがこいつら大丈夫か…? 今まで保存食や携帯食で何とかしてきたにしても壊滅的すぎるだろ。
特にキング、あいつの料理の知識どうなってんだ。脳みそにヌヌペヌグールでも詰まってるんじゃないか?
「……絶望的だな。 ユズ、お前はどうなんだ?」
「料理自体は前世でもよくやってたから出来なくはないけど、ハンバーグとかの手間がかかるような料理はお母さんが作ってたから作り方がわからないんだ…」
「それでハンバーグ好きを名乗っていいのかは甚だ疑問だが、少なくともハンバーグを作れるようになりたいと」
「そういうことです!! レイ、いやレイさん! ボクにどうかご教授ください!」
なんてこった、かわいすぎる。 かわいすぎるのだが、ハンバーグを教えたとしてもちょっとした問題にぶち当たってしまう。
いや、俺が教えるのに自信が無いとかではない。 あんな簡単なモン1度覚えたら材料とフライパンでもあれば誰でも作れる。 問題は……
「教えるのはいいんだが、旅しながらでハンバーグなんか作る余裕があるのか…?」
「え…? あ………」
ユズはインベントリで色んなもんを収納出来るそうだから、鍋でもフライパンでも調理器具は夜の料理ごと一式プレゼントしてやろうと思う。
「……まあとりあえず、丁度これからハンバーグ作るとこだったんだ。ついでだから作るの見るか?」
「! うん!!」
俺がさっき捏ねておいたハンバーグのタネが大量に入ったデカいボウルを冷蔵箱───氷の魔石が数個入ってひんやりと冷えている所謂冷蔵庫みたいな箱───から取り出しテーブルに置くと、俺から見て右によだれを垂らした小さな紅白が生えてきた。なんだこのかわいい生き物は。
「んじゃあ、今からタネを形成するところから始めるからよーく見とけよ」
「はい!」
ボウルから丁度いいくらい、自分の掌ほどの肉を取る。こいつを何度か両手の間で軽くキャッチボールをするように空気を抜いていくんだ。これをして置かないと焼く時にひび割れ、肉汁が零れてしまう。
空気抜きが終わったら次は形成、形を整える。薄くするか厚くするかは火加減の通り方にも影響が出てくる。今回は教えるためということでいつも作っているように楕円状に形成しようか。
形成の後は軽く凹ませておく。すると焼く時に形が崩れにくくなる。 これで1つ出来た。
「…とまあ、こんなところだ。 これをタネが作れる分形成して」
「ま、待ってよレイ!?」
「あ、すまねえ早すぎたか? ついいつもの調子でやっちまった。もう1回やるから」
「そうじゃないよレイ! 早すぎるよ! こんなの料理を作る人間の速度じゃない!」
ん? 何を言ってるんだ…?
◆
レイにハンバーグの作り方を教えて貰える。えへへ、これでいつでもあの味を……じゅる…あっ、よだれ出ちゃってた。
「んじゃあ、今からタネを形成するところから始めるからよーく見とけよ」
「はい!」
レイがなんとなく丁度いいくらいの肉を掌に取りました。 この後はお母さんの料理を見てたから何となく知ってる。空気抜きをする為にキャッチボールをするんだっけ……え?
パパパパパパパパッ………グッグッ
あ、え? どういうこと?
「…とまあ、こんなところだ。 これをタネが作れる分形成して」
「ま、待ってよレイ!?」
一瞬で形成が終わってしまった。
「あ、すまねえ早すぎたか? ついいつもの調子でやっちまった。もう1回やるから」
「そうじゃないよレイ! 早すぎるよ! こんなの料理を作る人間の速度じゃない!」
ええと……あ…ありのまま 今 起こった事を話すよ。
『ボクは レイのハンバーグの形成の仕方を見ていると
思ったら いつのまにか形成が終わっていた』
な… 何を言っているのか わからないと思うけど
ボクも 何をしてたのか わからなかった…
何せ瞬きをして目を開けたら異常な速度の音と共にタネがひとつ出来上がっていた。これはいくら何でもおかしい!
◆
「いや、長い時間肉を触っていると指の熱が肉に伝わって少し出来上がりが悪くなるんだよ」
「ボクが瞬きをしてる間に終わったんだよ!? いくら早くやったからって異常だよ!」
「ぐふっ……異常…イジョウ……」
ドウシテ……俺はただいつも通り料理を作ったつもりだったんだが…。
料理を教えて欲しいと頼んできたのき突然俺の料理に対していちゃもんを付けてきたユズに対して1度は軽く叱ったのだが、それでも俺がおかしいと言い張る。 俺はおかしいのだろうか……?
「…もう! そんなに落ち込まないでよ。急に異常だなんて言ってごめん……」
「あ、ああ……俺こそ声を荒らげてすまなかった」
「とにかく……もう1回見せて、今度はゆっくり。ボクもしっかり見る努力をするから」
ユズはそう言って床に膝を突き、両掌を合わせて目を閉じた。
『レイの料理にボクの目が追い付きますように!』
ユズからなにかオレンジ色のオーラ的なものが出ている。それに目もオレンジ色に光っている。これが女神から貰ったという【祈り】か。 よし、俺も本気を出して…じゃなかった。できる限りゆっくりと作って見せようじゃないか。
「それじゃ、行くぞ」
「……うん」
◆
「それじゃ、行くぞ」
「……うん」
実はボク、何となく確信があったから『レイの料理にボクの目が追い付きますように!』とは別にもうひとつ心の中で祈ったものがあるんだ。それは…
「見えた!」
「……よかった。今回はかなり遅くやったんだが見えたのなら良かった」
「違うよ。いや、作り方は見えたから違わないけど……」
「どういうことだ?」
「レイがハンバーグを成形してるとき、本当に一瞬だけだけどレイの体から青色の光が見えたんだ。さっきは早すぎて全然見えなかったけど」
ボクのふたつめの祈りは『レイの能力がボクに理解りますように』。 レイは能力を持っていない……ヴェスタ様と会ったことがないと話していたけど、ヴェスタ様が言っていたようにその時のレイは完全に酔っ払ってたから記憶が無いとすると、やっぱりレイは何らかの能力を受け取っているって考えられる。
……考えられるというか、ヴェスタ様は実際に『【祈り】と似たチカラを与えた』と言っていた。けど『神を信じる心が無ければ例え手に持ったチカラと言えども使うことは叶わない』とも言っていた。
だから今のレイには本当に能力がないんだと思ってたけど……。
ボクはキョトンとしているレイに指を指し、祈りのチカラで理解った真実を伝える。
「ええと、レイの能力は【神速】。『あらゆる行動を速く行うことが出来る』というチカラみたいだよ」
そう、ふたつめの祈りによって強化されたボクの思考回路はひとつの結論を導き出した。
・レイはヴェスタ様からチカラを受け取っていた
・神から受け取ったチカラは信仰を失うと発動できない
・レイは神を信じず、代わりに元の世界に帰りたいという願いと共に7年という年月を生きた
その結果、元々レイが受け取った【祈り】と似たチカラがなんなのかまでは分からなかったけど、使えなかったチカラが強い願いによって変質して【神速】という能力になった。
そしてこのチカラは、レイ自身気付いていなかったし制御出来ていない。 それはボクに指摘されたときに反論してきたところから明らかだ。
つまり、最近なにかの弾みで手に入れたチカラってこと! 説明疲れた!
「む……確かに今日は朝からいつもより素早く料理を提供出来ていた気がするな」
「昼も瞬間移動したみたいにボクたちの部屋に突然現れてチキさんをデコピンしてた。……昨日まではこんなチカラ持ってなかったけど、今朝から様子がおかしいってことは」
「俺が、念願だった地球に帰る願いの架け橋となるかもしれない同郷の……ユズ、お前と出逢えたからって事だな!」
「そうなるんだと、思う…」
「よっしゃああああああ!!!! 本当に……ほんっっとうに俺の7年は無駄じゃなかったんだ!!ウオオオォォォ!!!」
早速神速を発動してるのかってくらいボクの説明で超速理解したレイは、笑顔で大喜びしています。雄叫びも上げてる。 なんかこんな状況も今朝見たような……。
「ところでレイ、時間は大丈夫?もうすぐ夕飯の時間になりそうだけど……」
「何!? やばい、完全に忘れてた!! すまない、料理を教えるのは後からだ、急ぐぞ!」
窓から見える夕日は隣の建物の屋根に沈んでいました。 レイは流石に時間がまずいと思ったのか慌てている。
「大丈夫! こういう時こそ……早速使って見てよ」
「だが……今までなかったチカラを急に使えなんて言われても…」
「大丈夫だって、ボクがいる。 ボクが祈るよ。『レイが【神速】を上手く使えるますように!』ほら!」
ボクから出たオレンジ色の光がレイの体を包む。 この感じは……ボクがヴェスタ様から祝福を受けた時と同じような…。
「……なんとなく使い方がわかったような気がする。いや、理解った!」
「【神速】ッ!」
…
……
「…終わったぜ! ゼェ、ハァ、ハァ……」
「早いよ!」
1分経った? 多分経ってないけどテーブルには超大量の料理がズラッと並んでいる。すごい……。
「あっ……ハンバーグも全部作っちまった。 つい勢いで……すまん」
「いや、大丈夫だよ! 気にしないで! アハハ……」
ちょっと悲しいけど、レイが遂に手に入れたチカラで頑張ったんだもん、ボクも嬉しい。
「……あとでハンバーグ2段重ねにしてやるから。 それと明日の朝早く、今朝と同じ時間に起きれるか?そこで改めてハンバーグの作り方を教えてやるよ」
「2段ハンバーグ!? やったあ! レイ、だいすき!!! 明日早く起きるよ!!」
「だいすk……ゴホンまぁ…とりあえずあいつらの部屋に呼びに行ってくれ。 料理は従業員と一緒に運んでおく」
「わかった! 行ってきまーすっ!」
「……あんな太陽のような笑顔が見れるなんて、この人生も捨てたもんじゃないな。 女神かなんだか知らねぇが、ありがとな。……おいお前ら! 運び出すぞ!」
───このとき彼は、確かにオレンジ色の光を体に纏っていたのだが、そのことに気付いた者は誰も居なかった。
柚流 (ユズ)
ユニークスキル
【祈り】
スキル
【癒し】
【インベントリ】
「ふーんふふーん♪ 2段ハンバーグー♪」
レイ
ユニークスキル
【??】
後天性ユニークスキル
【神速】
パッシブスキル
【料理】
「神速……神なんか信じてなかったんだが神が名前に入ってるのか」
これからも柚流の祈りが読者様に届きますように!
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