護身用の武器? 持ってるよ!
「よかったね、ユズちゃん! まさかギルドマスターが交換条件を私たちにじゃなくてユズちゃんに持ち出してくるとは流石に予想出来なかったし何も準備してなかったけど、何とかなったみたいだし!」
「ああ……あの矢は私があとからユズくんに借りてじっくり調べようとしていたのに………くっ、隻眼の熊…! 殺してでも奪いt」
「やめろバカソル! せっかく穏便に済んだのに厄介事起こすな!」
混沌に満ちた執務室での攻防は終わり、ギルド一階のロビーに戻るとソワソワしていたらしいみんなが一斉にボクとチキさんの元に寄ってきて、結果を聞くと周りの目も気にせず大喜びしていました。
ボクは…いや、ボクたちは一緒に世界を巡る仲間になれた! それが嬉しくてたまらないよ…!
この世界で1番信用出来る仲間と旅ができる、そんな感激と希望に満ち溢れていたボクだったけど、突然リップさんが真面目な顔になってボクに疑問を投げつけてきました。
「そういえば、初めて会った時から気になってたんだけどユズちゃんはなにか護身用の武器とか持ってるの? インベントリってやつに入れてるのかな」
「ふっふっふ……転ばぬ先の杖って言うし、ちゃんと武器は持ってますよ!」
「え? 確かに杖があれば転んだりしないけど…。ちゃんと杖を持ってたんだね」
「ものの例えです!ボクのいた世界で『あるに越したことはない』って感じの意味です!」
「むむ……ことわざみたいなものか、興味深い。確かに事前に杖を用意しておけば転ぶことは無い。 ………あとで他のことわざも教えてくれるか?」
「ソルくんの興味が耳長族から異世界のことわざになっちゃった……」
耳長族のことを一瞬で忘れたソルさんからあとでことわざの聴取を受けることになったことはいいとして、ボクのとっておきの武器を見せてあげよう。
えっ? そんなもの持ってないだろって…? ふふふ……それではご覧くださいっ!
「ジャン!」
「え? ……ユズちゃん、私にはただの棒切れにしか見えないんだけど…?」
「まてまてリップくん、もしかしたらあの変な棒も女神から賜った特別な武器かもしれないぞ」
「えっと……ユズちゃん、それはなんなの?」
ボクが天高く突き上げた立派な武器に対してなんだかとても失礼なことを言われてる。 みんなわからないの? これは……
「おいおい、ユズ! 俺にはわかるぞ…小さい子はみんなこういうのすきだよな、『いい感じの木の棒』!」
「あっ、わかってくれた! そう、これは『いい感じの木の棒』っ! 皆さんと出会う前にたまたま森で拾った棒です!」
「ああ、いいセンスしてるじゃねぇか……この手触り、ちょうどいい長さ! どれを取っても最高だ! 天然モノでこういうのはなかなか手に入らないぜ…いいなぁ!」
「そう、そうです! この棒があれば何にも負ける気がしません!」
「「はっはっはっは!!」」
キングさんの感性はボクに近いみたい! これが分かるなんて……通だね…。
「2人で盛り上がってるところちょっと申し訳ないんだけど……」
「「え?」」
「ちょっと私たちにはわからないわ……」
「うえぇ!? チキさんは分からないの!? …リップさん!」
「………」ふるふる
リップさんは無言で首を横に振っています。
悲しいことにチキさんとリップさんにはこのセンスが理解出来ないみたいだ。 なんで…? こんなにかっこいいのに…! 下校中とかよく拾って振り回してたなぁ…!
「おいソル! お前はわかるだろ!? 男だもんな!」
「……いや、わからなくは無い。 剣術の練習や冒険者の真似事などで、行動が活発で興味が旺盛な子供なら小さな頃は誰でも1度は通る道だろう」
「それじゃあ…」
「しかしだ、これから旅に出ようと言うのにその棒では流石に物足りないんじゃないかな?」
「………あっ」
「キングくん、君ならその棒でもゴブリンたちを数体は軽く葬れるかもしれない。 だがユズくんはどうだ? 非力な彼女ではどうにもならないだろう」
「………」
「仮にだ、魔法を放つ触媒に使用するとしてもこのギルドの中の雑貨屋で買える、安物の駆け出し冒険者用の杖の方が圧倒的に魔力効率がいいはずだ。 違うかな?」
「違わねぇ…」
「まあとにかくだ、たとえどんなに『いい感じの木の棒』だとしてもそんなものだけ持って何かに襲われようものならワイバーンに対して刃こぼれした銅の剣で挑む様なものだ。 リーダー、流石に武器は最低限自分の身を守れる程度のモノをこの町から出る前に揃えてあげようじゃないか」
「り、了解よソル……」
「ソルくんが珍しくまともなこと言ってる……」
ボクのことで真剣に話してくれるソルさんに感動しつつも、キングさんを言い負かしたりチキさんを思わず敬語にさせる彼の本気の言葉責めはとてつもないものだと実感しました。
……というかダメなんだこの『いい感じの木の棒』。 いい感じだと思ったんだけどなぁ。
「ところで武器と言っても色々あるわよね。 ユズはどんな武器が装備したいとかあるの?」
「それはもちろん、「棍棒」です!」
「一旦棒から離れなさい…」
「流石に冗談だよ……。 えっと、片手で持てるような剣が良いです!」
「剣か…。 それなら俺の斧の手入れでいつも世話になってるギルド正面の店に行こうぜ。 あそこのおやっさんならなんかいい感じのを繕ってくれるだろ」
昨日の夕方にキングさんがボクに説明してくれた鍛冶屋さんかな? 昨日もカーン、カーンと音が響いていたのを覚えてるよ。
キングさんがちょっと楽しみな提案をしてくれたその時、まだまだ彼に粘着する男の子がいた!
……そう、ソルさんです。
「キングくん、さっきのこと、忘れたわけじゃないのだよな? 君はひとりの少女の運命を分けるような選択をするところだったんだ。」
「う、うるせぇ! あれは……つい、子供の時のことを思い出しちまって…」
「ふむ…言い分はわかった。 では彼女に対して謝りもせずそのまま自分がいい感じの提案をして水に流そうと……?」
「あの……ソルさん、キングさん、ボクそんなにして貰わなくても…」
「ああああ! わかったよ!! 武器代、俺が払うよ!それでいいんだろ! ユズ…申し訳ねぇ」
「いえいえそんな……元はと言えばボクが木の棒を」
「おおーっ! さっすがキング! 気前いい〜! リップ、この際だからいろいろ勝ってもらいましょうか!」
「いいですねぇ……たまには!」
「おおお??? いいぜ?? たまにゃ金使わねぇと財布が腐っちまうからな????? なんでも買ってやるぜーっ!?」
キングさんがヤケクソの半狂乱になってる気がするけど面白いからいいか……。良くはないけど。
◇
「それで…結局ユズちゃんはそれでいいの?」
「はい、店主さんからの見立てで軽めの片手剣みたいなのを勧めてもらったけど、それでもボクにはちょっと重くて……。 あくまで護身用だしこれくらいでいいかなぁって、いざと言う時はみんなが助けてくれるんですよね!」
「『これくらい』かぁ……はぁ、そのミスリルナイフのおかげでちょっとづつ貯めてた財布がすっからかんだぜ………」
「ごめんなさいキングさん、ボクのせいで…」
「ああいやいいんだ、別に使う予定があった訳じゃないからな…。」
「あはは………」
お店に入って1時間ほど悩んだ結果、ミスリルという緑がかって透き通るような青色の綺麗な素材で造られたナイフを買ってもらいました。 ほんとは剣とかが良かったけど鉄製の剣はともかく、店主さんが羽根のように軽いって言っていたウィングソードですらボクには重くて持てなかったのです。
ミスリルソードとなると流石にキングさんの財布ごと払っても金額が足りなかったみたいだし、これくらいがボクには丁度いいのかもしれない。
そういえば買い物ついでにこの世界の通貨について聞いてみたら、通貨単位は【スル】っていうみたい。
今まで日本に居たのにいきなり貨幣が変わるとすごい混乱してくるのを実感する。海外旅行してる気分だよ。
価値としてはスル銅貨1枚が10円、スル大銅貨が100円、銀貨が1000円、そして金貨が10000円くらいのイメージ。 頭の中で置き換えないとやってられない。
ちなみにこのミスリルナイフは銀貨5枚と大銅貨が5枚でした。 つまりええと5500円くらい…?
まだこの世界の文字が読めないからいちいち聞かないと相場がわからないのは問題点だなぁ……。 早いところソルさんから習わないと!
「あっ、まだ持ってたのその棒きれ」
「『いい感じの木の棒』です! 間違えるのはいくらチキさんと言ってもこれだけは許しません!!」
「そ、そう……。 その『いい感じの木の棒』、いつまで持ってるの…? ナイフも持ったしもう要らないんじゃないかしら?」
「………やっぱりチキさんには良さがわからないんだね…。ぷい!」
「ま、待ってよ、ユズちゃ〜ん!!」
ボクは、ちょっとチキさんにいじわる言いながら『いい感じの木の棒』をインベントリにしっかりと収納して、レイの待ってる昇陽の光亭への帰路につくのだった。




