隻眼の、熊……?
遅れて申し訳ありません!!
お詫びになるかは分かりませんが初めて5000文字超えたので、じっくりお読みください!
山のようなスパゲティを何とか食べきった後…いや、山のほとんどを崩したのはリップさんだったけど……。
それにしてもあの細い体のどこに大量の麺が入っていったんだろう。 食べ進める様は某メーカーの掃除機の如くとてつもないスピードだった。
他の人の反応も別に驚いたりしていなくて、ボクの目がおかしいのかと思ったくらいだもん。
日持ちのする携帯食や保存食を少ししか食べられない依頼中はいつもお腹を好かせているみたいだし、お金の問題があると言ってもこれからはボクの【インベントリ】を利用すればちょっとはこのパーティの食事事情は改善するかな…?
……話が逸れまくってる。 とにかく食べきったあとの話だっけ?
今パーティリーダーのチキさんとボクは、左の眉から頬にかけて三本の爪痕のような傷があって眼帯を付けているコワモテのおじさんの前にふたりで立って居ます。
言わずもがなこの人がティエルの町の冒険者ギルドマスター『隻眼の熊』こと…
「…ワーナルド・ベルセルクだ。 嬢ちゃんは初めて見る顔だな、この町のモンじゃねぇだろ?」
「は、はひ! 琴音 柚流 と申します! みんな……皆さんからはユズって呼ばれてまふ!」
緊張して声が裏返っちゃったし噛んじゃった…。
たしかに歴戦の戦士って見た目のかっこいいおじさまって感じがするけど、これは想像以上だ。 こんなに貫禄があって胸にびりびり響くような低音ボイスで話しかけられたのなんて初めてだよ。
「ガッハハハッ! そんなに緊張するんじゃねぇよ。 ユズ、それとチキンクソリプのリーダーのチキか。今日は何の用だ? 俺ァ忙しいんだが……ングッングッ、プハァ…!」
「ベルさん…忙しいって言いながらお酒を呑まないで下さいよ」
「ああ? 良いだろうがよ少しくらい、もう午後だぜ? 午後って事はもう時期日が暮れる、つまり夜だ。 夜は酒呑むだろ? じゃあ良いだろうがよ」
ヒョイッ
「ダメです。とにかく彼女らの話を聞いてあげて下さい、お酒はそれからです」
「おぉ? 返せ、ロビン!」
超理論を唱えるベルセルクさんから高そうな酒瓶を取り上げたのは、緊急で直接ギルドマスターに伝えたい事があると言ったらすぐにボクたちをこの部屋まで案内してくれた受付嬢のロビンクスさん。
一見警備が薄すぎるような感じがするけど、ベルセルクさんの 「いくら老いたと言っても俺に害をなせるような者は居ねぇよ」 という発言からこの冒険者ギルドの者に面会を頼むと簡単に会うことができるらしいです。
あっ、なんの魔法か知らないけど宙に浮かせて奥にある棚の1番上に置かれちゃった。
これは後からロビンクスさんから聞いた話だけど、 執務室の巨大な棚の整理は少し珍しい【浮遊魔法】を使えるロビンクスさんが指示されるままに動かしているんだそうです。だから高いところに置かれたモノは魔法の使えないベルセルクさんだけでは太刀打ちできない……うわぁ、見た目より鬼畜。
棚をよく見ると同じように高そうな酒瓶やなんだかよく分からない弓とかの模型が飾られてるみたい。……なんとなく見覚えのあるような…?
「わぁったよ! そんじゃあロビン、一応緊急の話だってんだからお前は受付の仕事に戻れ」
「了解です。…それでは失礼致しました」
あっ、頭の中で紹介してるうちに追い払われちゃった。
今からする話はどちらもボクたちにとって大切な話だ。 部外者の受付嬢はいる必要が無いのだろう。
「そんでチビ」
「…チキです」
「チキ、チビ…似たようなもんだな ガッハハ」
「本題に入っても宜しいですか?」
「お? おお…」
流石のベルセルクさんでもチキさんの食い気味の圧に押し通されるんだ…。
「お伝えしたいことが2つあります。 この少女、ユズは太古に失われた【空間魔法】と同等のチカラを使うことができるということについてです」
「へぇそうか。 ………なんだって、空間魔法!?」
「…順を追って説明させて頂きます。 彼女と私たちが出会ったのは2日前の夕方のことでした……」
ここからはチキさんたちから見た出来事をギルドマスターに報告していました。
えっ!? 初日の夜、ボクが飲んだお水に眠り薬が入ってたって言うのは初耳だよ!? ……でも身元もわからない女の子が急に現れたら警戒するのも当たり前なのかも。
……というか眠り薬の事を含めても、ここまで毎回ボクの方が早く眠りについてるのはボクが無警戒すぎるのかな?
それにしても初めはおちゃらけた態度をとっていたベルセルクさんだけど、本当に緊急の用件と知ると一瞬で真面目な顔になっていました。
「…彼女は空間魔法ではなくモノを収納するチカラだと否定していますが、それでもこれが周りに知られれば彼女の身に危険が及ぶと思われます」
「ふむ、確かに。商業ギルドの奴らが知れば流通が、犯罪ギルドなんかに捕まれば……。若い嬢ちゃんだ、物運び以外にどんな目に遭うか想像に難くないな」
…想像したくない。 今のボクの体は女の子だし、ある程度の身体能力はある ってヴェスタ様から伝えられてるけどボクは攻撃手段どころか自衛の武器すら持っていない。
きっと大人の男の人に組み敷かれたらそのままなすがまま……。うわぁ……想像しちゃった!!
「ということで、…………なに顔赤くしちゃってんのよ…」
「わわっ! な、なんでもないです!!」
「ガッハハ! ユズは純情な乙女なんだな! ……おかしな話してすまねぇな」
「い、いえ……気にしないで下さい…。 ボクが勝手に変な想像しちゃっただけなので…」
チキさんはいつの間にか普段通りの口調に戻ってたし、重い感じだった空気が少し軽くなったような気がする。 ベルセルクさんは謝ってたけどそれを狙ってあえてこの雰囲気にしたのだったとしたら気遣いが上手いと思う…。
「失礼しました、それでこの娘の処遇なのですがもう1つお話しておきたいことがあります」
「あ?そういや2つとか言ってたな。いいぜ、言ってみろ。もう驚かんぞ」
「この少女、ユズは転生者です。 ……それも女神から天命を受けています」
「………」
「彼女の受けた天命とは、世界を巡って不安定な聖域のほつれを戻す…だそうです」
「…………本当かそれ、驚きすぎて声も出なかったぞ」
「もう少し詳しく説明させて頂きます。ユズちゃん、お願い」
「は、はい!」
ボクはベルセルクさんが無言の一瞬、とんでもない驚き顔になったのを見逃さなかった。 大人気海賊漫画の雷神が驚いた時の顔になってた。
…この世界に来てから知り合う人、初めと印象が違う人多くない? 気のせいかな?
なんてアホな事を考えつつ説明をしていく。 今、この世界と神界を繋ぐ世界中あらゆる箇所の聖域がおかしなことになっていること。 この町の聖域は既に修復が済んでいること、それと次の目的地はサーブリア……などボクが今わかることをほぼ全て話しました。
ベルセルクさんはボクの話を聞いている間ずっと表情を変えませんでした。 いや、驚き顔のままだった訳じゃなくて、なんとも言えない神妙な顔つきでした。
「ふう、 説明は以上です」
「ユズちゃん、お疲れ様。 あとは私が」
「それでチキ、どうするつもりなんだ? ……なんて言わなくてもおめぇらのパーティならどうするかわかるぜ。どうせ『今日限りでこの町のギルド専属パーティの座を降りて、この娘の旅に私たちを同行させて下さい!』なんて言うつもりだったんだろ?」
「…流石ギルドマスター、お見通しって訳ですか」
「おめぇらが考えることなんかすぐ分かる。伊達に長年色んな人間の話聞いてねぇぜ」
「ちょ、ちょっと待って下さい! …ギルド専属パーティ ってなんですか!?」
「あん? そんなことも知らなかったのか…。勘弁してくれよチキ、何も知らねぇやつにウチの高稼ぎのパーティを受け流すとこだったぜ……」
「……これは完全にこちら側の説明不足でした。 …ユズちゃん、キングからギルドの入口にある依頼が張り出された掲示板のことは聞いてるんだったわよね?」
「はい、それは昨日の夕方に聞いてました」
今日になってから色々な事があって記憶の片隅に残ってるくらいだけど、確かにキングさんと町を歩いてる時に聞いた気がする。
「普通の冒険者っていうのはほとんどがあの掲示板から依頼を受けて、終わったら受付から報酬を受け取る……っていう流れなんだけど、専属パーティっていうのは依頼主から直接指名で依頼を受けたりギルドマスターからの緊急の依頼なんかを受けることが出来るの」
「じゃあ、一昨日のオーク討伐って言うのは…」
「そうよ。ニェアヴァの森へのオーク討伐もこのギルドマスターからの依頼。…肝心のオークは耳長が倒してユズちゃんのインベントリに入ってるけど」
「そういやオーク討伐なんて依頼もしてたっけな、…耳長? ユズは耳長族に会ったのか!? ………今はその話じゃなかった。要はこいつらはこの町でも有名なパーティって事なんだよ。それをお前さんは何も知らずに引っこ抜こうとした」
「それは違うわ。 むしろ私たちからこの娘に着いて行こうとしてるのよ……しています」
「言い直さなくてもいいんだが…とにかく、そういう訳だ。 ユズ、ウチの高稼ぎを引き抜くってんだから相応の交換条件は持ってるんだろうな?」
「え! うぅ……ボク何も持ってないけど…」
「それじゃあ、こいつらを連れて行かせることはできんな」
「えぇ!? それは……うぅ、何かあったかな…?」
虚空に手を伸ばし、インベントリを漁る。 何か…無かったかな………。
今ボクのインベントリに入っているのは
・シャツとズボン(この世界に来て初めに着てた服装)
・エイプの実(リンゴみたいな果実)
・キノコ(食べれるか分からない)
・いい感じの木の棒(森で拾ったいい感じの棒)
・オークの死体
……あっ!
「…ボクが今出せるモノは、これです!」
「ユズちゃん!! そ、それは!………なに?」
「矢か、 ただの矢じゃ………ん? ちょっと見せてみろ!」
あ、強引に取られちゃった。
「これは……この独特な矢尻の文様、シャフトに使われた木の材質、そしてこの矢羽根のうねり方は…間違いなく耳長族の矢じゃねぇか! ユズ、おめぇこれをどこで!」
「い、痛いです!」
ボクの両肩にベルセルクさんの巨大な掌がのしかかり、ものすごい勢いで揺さぶられました。
「あぁ……すまねぇ。これをどこで…ああそうか、耳長族がオークを仕留めたって言っていたな」
「はい、名前は聞くことが出来なかったのですがボクはたしかにエルフ……耳長族に命を助けられました。 ベルセルクさんって耳長族がすきなんですか?」
「わかるか、わかるよな!? あの整った容姿、あのドワーフとはまた違ったツンとした耳! それに緑の似合う健康的な白い肌!ブツブツ…」
なんかスイッチを押してしまったのか、ベルセルクさんがエルフ…じゃなくて耳長族について語り始めるモードに入っちゃった。
ちなみに前世ではゲームや創作でエルフと言われるような存在は、この世界では【耳長族】って言うらしいです。少なくともこの頃のボクが知っている種族は他にチキさんの【ドワーフ】くらいだったのですが、なぜエルフだけがそう呼ばれないのか……というのはこのボクの旅の記録でそのうち書かれる事になるはず…。
それはそれとしてベルセルクさんがエルフスキーもといミミナガスキーなのは疑いようもない事実、延々と語り続ける彼に声をかけてそろそろ交渉の続きをしよう。
「ブツブツ…しかしパイク……彼女は元気だろうか…。あの旅からもう30年は経つ……ああ、会いたい」
「ギルドマスターさん、それで、交渉なのですが……」
「おぉ!? ……ハッ、取り乱して済まねぇ…。いいぜ、これだけ綺麗な矢なら中々他のコレクターも持っていねぇことだろう。 そんじゃあ、この矢とチキンクソリプは交換条件として認める!」
「え、マジで!? どうなる事か見守ってたけど私たちあの矢と同等かそれ以下の価値なの!?」
「アホ! 天と地ほどの差がある! 勿論お前らが地だ」
「なにおぅ!? これまで私たちのパーティのこと散々こき使ってきたのにその言い草は何よぉ! こっちから出て行かせてもらうわ!」
コンコン、ガチャッ
「そろそろ面会の時間は終わり……なんですかこの騒ぎ」
「アハハ……」
今この場は、手の上に矢を持って苦笑いしか出来ない巫女服の少女、耳長族について熱弁するおじさん、素の口調になってそのおじさんと喧嘩するドワーフの少女、戻って来て早々困惑する眼鏡の受付嬢…。
今日もティエルの町冒険者ギルドの執務室は混沌を極めていた。
柚流 (ユズ)
「はちゃめちゃな感じだけど、この後は何だかんだしっかり交渉成立して難なく (…?) ギルドを出ることが出来ました」
ワーナルド・ベルセルク [ギルドマスター]
「ああ、パイク……もう会えないものだろうか…」
これからも柚流の祈りが読者様に届きますように!
評価、感想、ブクマお待ちしています!
誤字報告も大歓迎です!
いいと思ったなら いいね もよろしくお願い致します!作者のモチベが上がって更新が早くなるかも…?
作者Twitterをフォローするとたまに没カットや裏設定などをツイートするかもしれません
https://twitter.com/Yokoyuno1210




