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エピローグ

「まさか、こんな日が来るなんてねえ」


 あたしは自分でも皮肉っぽく感じる声でフライヤーを眺める。フライヤーには「東京ドーム公演 We are still alive !!」の文言がおどっている。メンバーたちの写真。レイスにヴェイル、ルクスにノクスも変わらない。ただ、そこにあたしの姿が映り込んでいる以外は。


 ――キールを失ったクリムゾン・エクリプスは、奇跡の武道館ライブ後、しばらく活動休止になっていた。


 だけど、死んだはずのヴォーカルがホログラムも何も使わずに観客の前に姿を現したという奇跡はあまりにも大きな反響を世界規模で起こした。


 加えて、なんとあのラストソング、音響の不調でキールの声が出力できていなかったらしい。そうなると会場に流れていた歌声は……ということになり、レコード会社も半ば確信犯的に会場で起こった超現象を前面に出して「奇跡の歌」を売り込んだ。


 日本どころか世界中でキールは伝説のヴォーカリストとなり、それに伴って「クリムゾン・エクリプス」の火を止めてはいけないという動きが世界規模で広がった。


 そこでなぜか白羽の矢が立ったのがあたしだった。キールの曲で仮歌を入れていたのを、頑固職人のレイスが目ざとく見つけていた。


 そんなわけで、あたしは訳も分からずスタジオに呼び出され、いきなりクリエクの曲を何曲も歌わされた。ファン的な視点ではこれ以上ないご褒美なんだけど、あたし的には素のレイスがどんな人か知っているし、いきなりこんなことをやりだしたことに戸惑い気味だった。


 だけど、クリエクの歌は好きだったし、彼らの曲を歌っているとキールがいつもそばにいてくれる気がする。そんな想いを胸に秘めながら、夜空に消えていったキールのことを想って全力で歌い上げていった。


 キールが大好きで、キールの歌い方をマネしてきたあたしの声は、思った以上にクリエクの曲にフィットした。だけど、所詮はアマチュアというか、そもそもあたしはただのバンギャだった。


 歌い終わった時にスタジオが静まり返っていたので、よっぽどあたしの歌がひどかったんだなって思った。だけど、時間差でメンバーたちが顔を見合わせてニヤっと笑った。


「よし、決めた」


 レイスが決然とした顔で言った。何か嫌な予感がした。


「決まったって、何が?」

「お前が、キールの後を継ぐ」

「……は?」


 時が止まった。何が起こったのか分からなかった。


「え? ちょっと待って。どゆこと?」

「お前が、キールの後を継いでクリエクのヴォーカルになるんだ」

「……は? ……はああああ!?」


 レイスの言葉で、あたしは一気に混乱へと突き落とされた。キールと事故現場で会った時も驚いたけど、それと同等かそれよりも驚いた出来事だったかもしれない。いずれにしても、人生には不可思議なことばかりが起こる。


 レイス曰く、というかクリエクの関係者曰く、素人のあたしは誰が見ても分かるレベルの天才だったらしい。だからこそライブで「愛してる」って言葉が他の歓声をかき分けて届いたり、キールの仮歌を入れるなんていう無茶もできていたわけだ。自分ではまったく自覚がなかったけど。


 そんなわけで、あたしはほぼ強制的にクリエクの二代目ヴォーカルとなり、しかもバンギャの中では有名人でもあったので特にクリエクのファンたちの中では大騒ぎになった。


 おバンギャさんもDMで「あれってさすがにデマでしょ?」って訊いてきて、「それが本当なんです」って答えたら既読だけついて声を失っていた。今は普通にやり取りしてるけど。


 おそらく当のあたしが一番訳の分かっていない状態で新生クリムゾン・エクリプスが始動すると、ちょっと大きめのライブハウスからライブが始まり、すぐに大ホールを持つ会場に変わっていった。というのも、海外からのファンが激増したせいで、一般的なライブハウスだとチケットが足りなくなったせいだ。


 そして瞬く間に時は過ぎていき、本日の東京ドーム公演が決まったというわけ。V系っていうジャンルそのものがマイノリティーに追いやられ気味だったことを考えると、まるで夢でも見ているんじゃないかって気分になってくる。


 だけど、この嘘みたいな話は現実で、すでに会場では待ちきれないファンたちが手拍子やら足踏みをして盛り上がっているという。


 キール、あたしはとうとうここまで来たよ。


 スタッフに呼ばれて、メンバー全員で集まる。全員がいつも以上にメイクをバッチリとキメていて、あたしの地雷系女子の衣装もいつもよりゴージャスだ。


 円陣を組むと、レイスが口を開く。


「とうとうこの日がやって来た。いいか、ダラダラと難しいことを言うつもりはない。俺たちのすべてをぶつけて、全力で最後までやり切るぞ」

「「「おう!!」」」


 声を張り上げると、あたし達は会場に向かって歩いていく。会場を盛り上げるSEが流れていて、あたし達の姿を認めるとファンたちが大歓声を上げる。


 ――キール、見てる?


 これが、あなたの見るはずだった景色だよ。


 どこを見ても人、人、人。だけど、一人として同じ人間はいなくて、熱狂する彼らは最高に愛おしい存在だった。


 キールもきっと一緒に歌ってくれるって信じている。あの時のように。


 ――今度は、あたしがみんなを救う番。


 それぞれの定位置に着くと、時間を置いてSEが終わるのを待つ。目の前には無数のメロウィックサイン。それを見たあたしは、ロックスターのスイッチが入る。


 ドームにノクスの激しいドラムが響く。あたしは全力で咆哮を上げた。


   【了】

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