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考え、試し、受け止め、また‥‥。 成功するまで繰り返せば必ず成功する。

 質素な自室の木の机の上で、僕はヌルテリア伯爵から受け取った銀の指輪を指先でそっと転がしていた。ひんやりとした金属の感触が、僕の思考をより深く、まるで迷宮へと誘い込もうとしているかのようだった。

 窓から差し込む夕陽の光を、指輪は鈍く、しかし確かに反射し、その輝きは僕の眉間に深い皺を刻む。一体、あの老獪な伯爵の意図はどこにあるのだろうか、と僕は思考の海を彷徨う。波間に漂う小舟のように、答えの見えない問いが次々と押し寄せた。

 伯爵は、この指輪に属性を付与できるとは考えていないはずだと、僕は確信していた。僕自身の持つ魔法具に関する知識、特に指輪の魔法具を作るための補助具や薬剤についての知識からすれば、こんなにも立派で精巧な指輪を属性魔法具へと変えることは、今の僕には到底不可能だとわかる。少なくとも、あの場で即座に成し遂げられるような芸当ではないことは、伯爵も重々承知しているはずなのだ。ならば、何を僕から引き出したかったのか? その疑問が、胸の奥で渦を巻く。

 領地まではここから馬車で七日はかかる。伯爵の元に報せが届いたのは、どれだけ早く見積もっても三週間前だろうし、ここ一週間の僕の行動は移動中だったため、伯爵が知り得るはずがない。つまるところ、僕の魔法の秘密が伯爵にばれたわけではないだろう。そう結論付けても、胸の奥には一抹の不安が、まるで小さな棘のように残り続けていた。


 指輪に一体なんの裏があるのか。様々な可能性が頭の中を駆け巡っては、どれも確信には至らず、ただ時間だけが砂時計の砂のように静かに、サラサラと流れ落ちていく。やがて、階下からソランの、少し高めの明るい声が聞こえ、「アレク、夕食よ!」と僕を呼んだ。その声に、張り詰めていた僕の思考がふっと緩む。

 家族四人、父と母、そして兄と僕。皆が揃って食卓を囲めるのは、あと数日のことだ。僕が出立してしまえば、少なくとも一ヶ月は、このような温かい時間は持てないだろう。そう思うと、胸にじんわりと寂しさが広がり、温かい灯火が消えるような切なさを覚えた。

 豪華とは言えないまでも、決して貧相ではない、湯気を立てる温かいシチューと、こんがりと焼かれたパンが並ぶ食卓。皆で静かに、しかし穏やかに食事を味わい終えると、父であるアイザックが、いつものように一家の主として話を切り出した。その声には、少しばかりの緊張と、何かを決意したような固い響きが滲んでいた。

「皆、昨日と今日で私なりに考えたことだが、改めてお前たちの意見が聞きたい。事態は変わったが、依然としてアレクの魔法を赤裸々に公にするわけにはいかん。」


 それは、僕も全く同感だ。しかし、属性指輪を伯爵に渡してしまうという選択肢は、遅かれ早かれ僕の秘密が露見することになると、僕は内心で深く危惧していた。冷たい汗が背筋を伝うような、そんな予感に苛まれる。

 父の言葉に、僕は小さく頷きながら、その後の展開を静かに待つ。父の次の言葉を、固唾を飲んで見守った。

 アイザックは、僕の不安を見透かしたかのように、真っ直ぐな視線を僕に向けた。その瞳は、まるで僕の心の内を見抜いているかのようで、少しの間を置いてから、問いかける。

「アレク、属性指輪には、格があることを知っているか?」

 僕は、父の問いかけに、これまでの魔法の知識を頭の中から引っ張り出して答えた。言葉を選びながら、ゆっくりと紡ぎ出す。

「はい、父上。素材や込められた魔力、そして作り手の意図によって、その性質や能力が大きく変わると認識しております。」


 アイザックは、食卓の脇に置いてあった小さな木箱に手を伸ばした。年季の入った、しかし丁寧に手入れされたその箱を、ゆっくりとした動きで開く。蓋が開くと、そこには柔らかな紺色の布の台座が敷かれ、その中央に、黄色い宝石が煌めく銀色の指輪が鎮座していた。蝋燭の揺れる光を浴びて、宝石はまるで生きているかのようにチカチカと、神秘的な輝きを放つ。父は、その指輪をそっと取り上げ、僕に見せるように掲げた。

「これは属性指輪、雷の属性指輪だ。東部閥に加入した折にヌルテリア伯爵からいただいたもので、これを使えば魔法を行使することができる。」


 雷。その言葉を聞いた瞬間、僕の脳裏に衝撃が走った。稲妻が閃くような鮮烈なイメージが広がる。これほどまでに戦にお誂え向きの属性も、そうそうないだろう。どのように使っても、その威力は絶大であるはずだ、と直感的に理解した。

「しかし、この指輪は使える魔法が限られていてな。近くの対象に弱い電撃を放つことか、あるいは雷の属性を付与して、一時的に速く動くことくらいしかできん。」


 アイザックの言葉に、僕は思わず目を見開いた。弱い電撃、と言ったが、それでも十分すぎるほどに強いのではないか。それに、属性の付与といったが、人体にも属性を付与できるというのか。僕の魔法に対する認識が、また一つ書き換えられるような感覚だった。

「限られている、ということは、本来はそんなものではない、ということでしょうか?」


 僕の問いに、アイザックは深く頷いた。その表情は、どこか遠い記憶を辿り、微かに険しく、過去を回想しているようだった。

「その通りだ。雷の魔法は、雷公と呼ばれる王国東部でもっとも広大な領地と国境線を有する、公爵家の魔法なのだ。私はこの指輪を、ヌルテリア伯爵を経由して、一時的に貸与されているに過ぎない。かつて、戦場で公爵が魔法を振るったのを見たことがあるが、それはまさに圧巻だった。百人もの敵兵を一撃で撃破するほどの、恐ろしい使い手であったよ。」

 公爵家の魔法。百人を一撃。その言葉の重みに、僕はゴクリと唾を飲み込んだ。僕の持つ魔法とは、まるで次元が違う。想像を絶するような力に、ただただ圧倒されるばかりだった。

「意図的に制御することで、指輪に込められる魔法を操作できると、そう仰っているのですか?」


 僕の問いかけに、アイザックは何も答えず、ただ静かに指輪の入った木箱をパタンと閉じた。その音は、まるで一つの話題の終止符を打つかのようだった。そして、その木箱を脇に置くと、今度は僕の目の前に、ずっしりとした布の袋をそっと置いた。袋の口が緩められ、中身が覗くと、金属の鈍い光が目に飛び込んできた。キラキラと輝くわけではないが、そこには確かに価値のあるものが詰まっていることを示していた。

「今朝、町に出てな。少量だが銀や鉄、それから富裕層向けの商店から魔法具をいくつか仕入れてきた。どれも単純な造りのものだが、お前が指輪の魔法を理解する上での参考になるかもしれんと思ってな。魔石も、そこそこの品質のものをいくつか用意した。これで十分だとは思わないが、まずはこれで練習してほしい。何としてでも、お前の魔法の秘密は隠さねばならんのだ。頼むぞ、アレク。」

 父の言葉は、切実な願いと、僕への深い信頼に満ちていた。その重みが、僕の肩にずしりと乗しかかる。僕は、目の前の袋の中身を見つめながら、その重い使命に足がすくむ思いだ。指輪の秘密、そして僕自身の秘密を守るためにも僕は成果を挙げなければならない。その決意が、胸の奥で静かに燃え上がった。


 その日から出立まで数日、僕は寝る間も惜しんで指輪の魔法具の解析に精を出した。夜は更け、窓の外は漆黒の闇に包まれても、机の上の蝋燭の火だけが、僕の探求心を照らし続けていた。

 最初に調べたのは当然、アイザックの指輪とカームの指輪だ。この二つを比較したり、実際に指輪を使ってもらったりしてその違いを調べることにした。

「兄上、やはりものは変形できても動かすことは難しいですか?」

 僕の問いに、カームは腕を組み、唸るように答えた。

「言葉にするのが難しいんだが、使おうとすると何ができるかっていうのがわかるんだよ。でもこの指輪だとこれ以上の魔法は使える気がしない」

 カームの言葉に、僕はさらに疑問を重ねる。

「兄上も人形以外にすることはできるのですか?」

「ん?そうだな試してみようか」


 カームが机に広げた土の塊に魔法を行使すると、それは一切の淀みもなく、まるで水が流れるように滑らかにいつもの土人形に変形した。その手際の良さは、さすが兄だと感心させられる。

「なんというか、いわゆる人の形なら少しは幅を持たせれそうなのだが、自由自在とは出来そうにないな。 これが指輪の格ということか?」

 カームの独り言のような問いかけに、僕は自分の作った指輪の限界を思い知らされる。

「つくったとき、僕がそれ想定してなかったからかもしれませんね。同じ素材で作って実験したいです。」


 唸っているとカームが僕にいった。

「別に私は構わないが魔力は足りるのか?以前作ったときはかなりしんどそうだったが」

 その言葉に、僕は少しばかり胸を張って答えた。

「あのときは魔法を使ったあとでしたから、それにいまはあの頃よりは魔法も使いやすくなってますし、少しなら大丈夫かと」


 あのときと同じように、転がっている木の欠片を持ってくる。それを魔法で指輪の形にしていると、カームがふと疑問を口にした。

「私にはわからないが、他の指輪は高価な素材を使って作っているのに、木でも指輪なら効果があるというのは違和感を感じるのだが、アレクはどう思っているんだ?」


 確かにそれは道理だ、と僕も内心で頷いた。そもそもこの指輪は、指輪の魔法具の要件を満たしていない。指輪の魔法具には、魔力を円滑に流すためのリング、そして魔法を付与するための石部分が必要なはずだった。勢いで作ったとは言え、これではよく言っても魔力を通せるだけの指輪でしかないはずなのだが、なぜか効果がある。その矛盾が、僕の頭の中でグルグルと回っていた。

「できました、あのときと同じように作ったはずです」

 僕は完成した木の指輪をカームに差し出した。

「試させてもらう」


 再びカームが土に魔法を行使する。結果は変わらなかった。土は滑らかに形を変え、いつもの土人形になった。

「この指輪ではこれが限界のように感じるな。魔法のような事象は起こせるがあと一歩足りない」


 カームの言葉に、僕は新たな可能性を模索する。

「一度、鉄と魔石を使った指輪を作ってみますか。試したらわかることもあるでしょうし」


 僕は父からもらった袋から鉄の塊と魔石を取り出し、一旦、鉄と魔石を組み合わせようとしてみるが、並べて気付いた。その瞬間、思わず「あっ」と声が出た。

「これは、サイズがあいませんね。もっとも小さい魔石でも、僕の拳ほどはありますし」

 これでは指輪にはとても使えない。どうしたものか、と頭を悩ませる。

 試しに魔石に魔法を行使すると、魔石も魔法の対象ということがわかった。しかし、鉄以上に魔力の消費が激しくて、これはあまり弄りたくない素材だと思った。急いで、リングにのせる分の魔石だけを幾つか取り分け、鉄にくっつけるような感覚で指輪に成形する。ゴツゴツとした、いかにも手作り感のある指輪が出来上がった。

 それを魔法具にしようとすると、不思議と木だけで作ったときとそれほど変わらない感覚で指輪を作ることができた。魔力の流れが、以前よりもスムーズになったような気がする。

「これならなにか違うでしょうか?」

 僕は期待を込めてカームに尋ねた。

「試すぞ」


 カームが指輪を嵌めて、再び土に魔法を行使すると、今度も土の人形が形成された。しかし、それだけではない。人形はゆっくりと、まるで意思を持ったかのように動き始めたのだ。その光景に、僕の顔には思わず笑みがこぼれた。

「なるほど、指輪の格は間違いなく上がっていますが、自由に成形は難しそうですね。」


 それから数日、鉄や銀をベースに魔石を飾った指輪を何度も試作した。試行錯誤を繰り返すうちに、僕も色々と感覚がつかめてきた。この魔石の指輪だと、僕が魔法の行使をするときより多めの魔力を使うのと、込められる魔法に制限があることがわかった。

 簡単に言うと、二つのステップの魔法までは詰め込めるような感覚だった。まず人形を生成して動かすときは、人形生成から人形操作までが2ステップ。人形以外の形に変形させる場合は、人形生成を改変して剣なら剣生成までしかできない。操作までは詰め込めなかった。魔法の改変にもステップ、つまり容量を使うのだろう。これがわかると段々楽しくなってきて、素材と時間のあるかぎり属性指輪の作成をしていた。例えば、魔石をそのままリングにしたり、魔石と鉄を混ぜ合わせたリングにしたりと、様々な組み合わせを試した。、寝る間を惜しむほど思考に明け暮れていたがその探求心は尽きることがなかった。

 そんなこんなをしていると時は流れて、あっという間に一週間の馬車の旅が始まった。

ゲームにはまって、やばい!書かなきゃ!と思いながら執筆した話です。

いやあ頑張りましたよ?

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