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EP 5

逃亡と、森の義母

「ハァッ……ハァッ……ハァッ……!!」

ポポロ村の郊外、鬱蒼と茂る森の中を、銀河は文字通り『死に物狂い』で駆け抜けていた。

(臓器売買! 無限再生! コンプライアンス違反!! ……あいつはダメだ! ダイヤさんやリーザちゃんのような『人間の歪み』じゃない! 倫理観のタガが最初から存在しない、正真正銘のバケモノだ!!)

S級魔獣ケルベロスと対峙した時ですら、銀河はこれほどの恐怖を感じなかった。

魔獣は殺せば終わる。だが、あの無垢な笑顔でメス(に変形した杖)を突き立ててくるエルフは、殺すどころか説得すら不可能だ。

銀河は【自動展開シールド】をブルドーザーのように前方に張り、邪魔な木々を強引になぎ倒しながら、森の出口を目指してマッハの速度で爆走する。

(もう心理学もクソもない! とにかくあの『善意のテロリスト』の射程圏外まで逃げるんだ!!)

「うふふっ。銀河様、そんなに急いでどちらへ?」

「ヒエッ!?」

突然、銀河の目の前にある巨大なオークの木の幹から、スゥッと純白のドレス姿のルナが『透過』して現れた。

エルフの王族特有の『植物と同化して転移する』という、森のフィールドにおいて絶対的なチート移動術である。

「な、なんで先回りしてるのさ!?」

「だって、森の植物さんたちが『銀河様がこっちに走っていったよ』って、優しく教えてくれましたから♡」

ルナが可憐に微笑みながら指を鳴らすと。

ズドドドドドンッ!!

「うわぁっ!?」

銀河の足元の地面から、極太の『茨のツル』が数千本単位で一斉に飛び出し、大蛇のように銀河の体に巻き付いた。

腕、足、胴体。抵抗する間もなく、銀河はあっという間に蓑虫みのむしのようにグルグル巻きの簀巻き状態にされてしまった。

「ちょっ、まっ、ルナさん!? これ誘拐! いや違法監禁だよ!! 離して!!」

「まぁまぁ、銀河様ったら。そんなに照れなくてもよろしいんですのよ?」

ルナは、簀巻きにされてバタバタと芋虫のように暴れる銀河の頬を、ツンツンと嬉しそうに突いた。

「て、照れてるわけじゃない! 本気で嫌がってるんだよ!!」

「うふふっ、分かっておりますわ。銀河様が、私を放ってこんな森の奥深くまで全速力で走ってきた理由。……それは、『一刻も早く、私のお母様にご挨拶をしなければ!』という、誠実な愛と焦りの表れですわね!」

「…………はい?」

銀河の口から、魂の抜けたような声が漏れた。

「私、感動いたしましたわ! 臓器を売ってまで私との未来の資金を稼ごうとしてくださった上、こんなにも早く、親への挨拶を済ませようと森の聖域を目指して走ってくださるなんて……っ! 銀河様は、なんて情熱的で男らしい方なんでしょう!」

「違う! 違う違う違う! 全力で逃げてただけ!! むしろ君から一番遠いところに行きたかったの!!」

銀河の魂の叫びなど、幸せ回路が暴走したお花畑エルフの耳には一切届いていなかった。

「さあ! そうと決まれば、こんなところで立ち話をしている場合ではありませんわ! お母様も、きっと首を長くして私たちの到着をお待ちですのよ!」

ルナは、ニコニコと微笑みながら、簀巻きになった銀河のツルの端っこをガシッと掴んだ。

「いざ、実家(聖域)へ! 出発進行ですわーっ♡」

ズザザザザザザザァァァァッ!!

「ぎゃあああああッ!!?」

愛の破壊者・星月銀河。

彼はそのまま、大根か何かのように地面を引きずられながら、森の最深部へと強制連行されていくのだった。

   ◆ ◆ ◆

ルナに引きずられること数十分。

森の空気が、急激に重く、そしていにしえの魔力に満ちたものへと変化していった。

「到着いたしましたわ、銀河様! ここが私のお家ですの!」

「イタタタ……石ころが顔に当たって……え?」

ツルで縛られたまま地面に転がされた銀河は、顔を上げ、言葉を失った。

そこは、森の最奥に存在する『聖域』。

目の前には、天を衝くほど巨大な、まるで山そのもののような超巨大樹がそびえ立っていた。

幹には神々しい光の脈動が走り、周囲の空間そのものが、その巨大樹の呼吸に合わせて震えている。

(な、なんだこれ……。アマテラスの神気にも匹敵する、圧倒的な『力の塊』……!)

ファンタジー世界の生態系の頂点の一つ。大地の主。

『世界樹』である。

「お母様ーっ! 連れてまいりましたわ!」

ルナが、純真無垢な声で巨大樹に向かって手を振る。

その瞬間。

ズズズズズズズズッ!!!

世界樹の巨大な幹の表面がメキメキと音を立てて歪み、巨大な『顔』のような木目が浮かび上がった。

そして、森全体を揺るがすような、途方もなく低く、重い、威圧感の塊のようなテレパシーが、銀河の脳内に直接叩き込まれた。

『……ホォ。ソレガ、ウチノ可愛イ可愛イ娘ヲ、タブラカシタトイウ、虫ケラカ……?』

「ヒッ……!!」

銀河の背筋に、氷柱を突き立てられたような悪寒が走った。

S級魔獣など比較にならない、純粋で圧倒的な暴力の気配。

銀河は悟った。

目の前にいるこの大地の主は、ただの神聖な木ではない。

ルナを溺愛するあまり、娘に近づく男を無条件で肥料コンポストにしようとする、『宇宙規模のヤンデレ・モンスター・ペアレント』なのだと。

「銀河様、さあ! お母様にご挨拶を!」

ルナが、能天気にウインクをしてくる。

(無理だ……! 挨拶の前に、僕の命がコンポストにされるゥゥゥッ!!)

愛の破壊者の命運は今、最悪の義母(世界樹)の根元で、風前の灯火となっていた。

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