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【第一章 紅蓮の戦乙女と、甘すぎる毒(ダイヤ略奪編)】

最高神の過保護モンペと、哀しき愛の破壊者

四畳半の和室。

万年床の横に置かれたコタツで、ジャージ姿の女が怠惰に鼻をほじっていた。

手元には、福引きで使うような古ぼけたガラポン抽選機。

「はいはい、次の方~。入って~」

「あ、どうも。お姉さん」

ふすまを開けて入ってきた青年に、女――この世界を管理する女神ルチアナは、一瞬だけ目を奪われた。

(やだ、すっごいイケメンだわ。……でもでも、仕事仕事。テンプレテンプレ)

ルチアナは咳払いを一つし、いかにも女神らしい威厳のつもりで告げた。

「そこの若者よ。暴走トラックに轢かれそうになった猫を助けて死ぬとは、私は感動しました。特別に、剣と魔法のアナスタシア世界に転生する機会を与えましょう。はい、そのガラポン回して。出た玉の色で初期スキルが決まるから」

「あ、はい。えっと、これですかね……?」

青年――星月銀河ほしづき・ぎんがが、言われるがままにガラポンの取っ手に手を伸ばそうとした、その時だった。

『――こんにちは、ルチアナさん』

神々しい光と共に、四畳半の空間が歪む。

眩すぎる後光を背負って現れた【和装の美女】を見た瞬間、ルチアナはコタツごと盛大にひっくり返った。

「あ、アマテラスぅ!? さ、最高神が、何故こんな下請けの辺境部署に!?」

「息子の銀河が、そちらの異世界に行きたいと申してですね。是非とも、よしなに。あ、これつまらない物ですが。近所で並んで買ったカステラです」

「はぁぁ!?」

パニックになるルチアナをよそに、アマテラスはどこからともなくピコピコハンマーを取り出し、ルチアナの商売道具であるガラポンを『粉砕』した。

「ああっ!? 私の抽選機!!」

「あんな確率の低いもので、ウチの可愛い銀河にハズレスキルでも引かれたら困りますから。ええと、銀河にはどれが良いかしら? スマホで買い物が出来る【ネット通販】と、【鑑定】と、【無限収納ボックス】も持たせておきましょうね」

「ちょっとおおお! 勝手にシステムいじらないでよ!」

「あ、そうそう。銀河、これも持っていきなさい」

アマテラスが銀河に手渡したのは、鈍く光るS&W327ベースのリボルバー銃と、一振りの剣だった。

「神銃『ガイアリボルバー』よ。気絶から、惑星破壊、神殺しまでダイヤルで調整できるようにしておいたわ。あと、こっちは『天地雷鳴剣』ね」

「あんたら、私の箱庭を粉々に壊しに来たのかぁぁぁっ!?」

絶叫するルチアナをスルーし、銀河は困ったように眉を下げた。

「母さん、もういいから。過保護はやめてよね、僕はもう大人なんだから」

「心配なのよ! ちゃんと毎日、寝る前に電話するのよ? 何か少しでも嫌なことがあったら、すぐに次元ごと消し飛ばして助けに行くからね!」

「大丈夫だってば。……それじゃあね、ルチアナお姉さん。お世話になります」

銀河は爽やかに微笑むと、転移の魔法陣へ向かって歩き出し――。

「あっ」

何もない平坦な畳のど真ん中で、思い切りつまずいて派手に転んだ。

「あいたた……っ」

「ああッ! 銀河! 大丈夫!? 痛かったわね!? よし、この空間の重力場、消し飛ばそうか!?」

「だ、大丈夫だから! じゃあね!」

ポンコツでドジな青年。

過保護すぎる最強の母親。

光に包まれ消えていく銀河を見送りながら、ルチアナは頭を抱えた。

「……あーあ。とんでもないイレギュラー、押し付けられちゃったわね」

   ◆ ◆ ◆

――アナスタシア世界、マンルシア大陸。

うっそうと茂る広大な森の中に、一筋の光が降り立った。

着地した銀河は、周囲を見渡す。

誰もいない。誰も、彼を見ていない。

その瞬間。

人畜無害で、純朴で、庇護欲をそそるドジっ子の顔が――スッと、抜け落ちた。

「……あーあ。また、息苦しい『良い子』の仮面を被っちゃった」

呟く彼の瞳には、光がない。

底なしの沼のような、冷え切った虚無だけが広がっていた。

手にしたガイアリボルバーの、ひんやりとした金属の感触を確かめる。

『母さん』の愛は本物だ。絶対的な神の愛だ。

けれど、かつて本当の両親にアパートに置き去りにされ、ネグレクトという地獄を味わった銀河の魂は、いまだに飢え渇いていた。

「僕は、愛なんて信じられないんだ。……人間の愛なんて、条件付きのゴミだから」

銀河は、自嘲気味に笑う。

「『ドジで可哀想な僕』だから愛するの? 『優しくて良い子の僕』だから傍にいてくれるの?」

銀河は知っている。

ちょっとでも嫌なことをすれば、嫌われる。捨てられる。

だから彼は、完璧な『良い子』を演じて、女たちの心の隙間にスルリと入り込む。

「……ねえ、この世界の女の子たちは、どうかな」

誰にも聞こえない森の奥で、美しい青年は、狂気と悲哀に満ちた笑みを深めた。

「僕が、君たちの家庭を壊して、恋人を奪って、残酷な化け物だと知っても。

 ……それでも、僕を見捨てないでいてくれる?」

本当の僕を見て嫌いになる愛なんて、いらない。

壊れるなら、最初から壊してやる。

「誰か、僕のこの渇きを、絶対に壊れない愛で満たしてよ」

最強で、最悪で、最高に哀れな愛の破壊者が、女神の箱庭に解き放たれた。

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