第43話:隠されたもう1つの真実~ワイアーム視点~
「マレディア侯爵、これは…」
さっきまでネリーヌの肖像画が掛かっていた場所に、小さな空洞があり、そこには手記らしきものが置いてあったのだ。この手記は、もしかして…
急いで手記を手に取った。早速内容を確認する。
「これは…ネフェリアの夫、アランの手記だ!どうしてこんなところに、彼の手記が?」
「殿下、とにかく読んでいきましょう」
マレディア侯爵と一緒に、手記を読み進めていく。
“明日はついに、ネフェリアの16歳の誕生日。僕は絶対に、ネフェリアを海の神なんかに渡さない。僕たちは昨日、正式に夫婦になったのだ。これからもずっと、ネフェリアと一緒だ”
“ネフェリアが海の神に連れて行かれてしまった。必死に止めようとしたが、ネフェリアは操られているのだろう。全く歯が立たない。僕は結局、ネフェリアを守れなかった…僕の大切なネフェリアが!そう思っていた僕に、奇跡が起きたのだ。なんとネフェリアが、その日の朝帰ってきたのだ。海岸で倒れているところを発見した。ただ…意識がない。すぐに目覚めるかな?”
“ネフェリアが地上に戻って来て半年、まだ目覚める気配はない。一体いつになったら目覚めるのだろう。ネフェリア、君の声が聞きたい…君の笑顔が見たい…頼む、目覚めてくれ…”
“ネフェリアが地上に戻って来て、早5年。君はやっぱり目覚めないのだね。もし僕に、もっと力があれば、君を守れたのかな…僕に力がなくて、ごめんね。それでも僕は、君を愛している。僕の命が尽きるまで、ずっと傍にいるよ…”
“ネフェリアが地上に戻って来て、もう50年。ついにネフェリアは一度も目覚めないまま、彼女の心臓が止まってしまった。待っていてね、ネフェリア、僕も近いうちに、君の元に向かうから。どうか天国では、可愛い笑顔を見せてくれ。愛しているよ、ネフェリア”
「これは…」
あまりにも衝撃的な内容に、手記を落としてしまった。
ネフェリアという女性は、愛する夫の元に戻ってくることが出来たけれど、結局最後まで意識を取り戻すことはなかっただと?そんな…
「そんな…セーラ…」
「落ち着いて下さい、殿下。確かにネフェリアという女性は、地上に戻ってきた後、意識を取り戻すことが出来なかったかもしれません。ですが、セーラは違うかもしれません」
「マレディア侯爵、僕を慰めてくれているのかい?でも、ネフェリアという女性も、セーラと同じく海に連れて行かれた。きっとセーラと同じく、目覚めたばかりの力を使ったのだろう。その代償が、きっと永遠の眠りだったのだよ。キースがね、言っていたんだ。“地上に戻っても、セーラは幸せにはなれない”て。きっとこういう意味だったんだ…」
地上に戻るためには、きっとかなりの力が必要となるのだろう。
「要するに、ネリーヌの血を色濃く受け継ぐ女性は、海の神と海で暮らすか、地上で意識のないままずっと暮らすかの2択しかないのだよ…きっとあの男は、その事を知っていたんだ」
それなのに僕は…
「セーラ…」
「殿下!お待ちください。殿下!」
後ろでマレディア侯爵の声が聞こえるが、今はそれどころではない。部屋から出ると、急いでセーラの元へと向かった。
「セーラ!セーラ、ごめんね。僕が君を愛したばかりに、君は…もう一生、目覚める事が出来ないのだね」
セーラを抱きかかえ、声を上げて泣いた。
「殿下、落ち着いて下さい。殿下!」
辛い、悲しい、セーラに申し訳ない。そんな感情が、一気にあふれ出す。僕が彼女を愛したばかりに、セーラは…
「殿下、落ち着いて下さい。殿下。まずい、殿下の龍の力が、暴走しようとしている。早く止めないと」
近くで執事が何やら騒いでいる。僕の力が暴走?今はそんな事はどうでもいい。いっその事、セーラと共に、あの世に逝けたら。
あの世でセーラと笑って暮らせるなら…
「セーラ、愛しているよ。どんな時でも、ずっと一緒だ」
セーラ、愛している。どうか僕と共に…
セーラの唇に自分の唇をそっと重ねたのだった。
次回、セーラ視点です。
よろしくお願いします。




