第44話:生と死の境界線
「う~ん…」
ゆっくり瞼を上げると、真っ暗な世界が広がっていた。
「ここは一体どこなの?どうしてこんなに真っ暗なの?確か私は…」
海の神、キース様の力で、海の世界に連れて行かれた。そんな私を連れ戻すため、ワイアーム様がキース様と戦って…それで私は…
そうだわ!
「ワイアーム様、どこですか?ワイアーム様!」
必死に叫ぶが、返事がない。ワイアーム様はどうなったのかしら?生きていらしたらよいのだけれど…
とにかく、ここから出ないと。出口はどこかしら?
辺りを見渡すと、奥に光が。あそこが出口ね。すぐに出ないと!そう思い、歩き出そうとした時だった。
“セーラ、こっちに来てはダメだ!”
えっ?この声は、お父様?
「お父様、お父様なのですね。どこにいらっしゃるのですか?」
亡くなったはずのお父様の声が聞こえるだなんて。もしかして私、死んでしまったのかしら?
“セーラ、こっちには来てはいけないよ。とにかくすぐに戻れ…と言いたいところだが、戻る方法は私にもわからなくてね…”
よく見ると、光の先にお父様の姿があったのだ。
「お父様!」
とっさにお父様の元に向かおうとしたのだが…
“セーラ、こっちに来てはいけないと言っているだろう。この光の中に入ると、完全にあの世の世界に来てしまう。君はまだ、生きているのだよ。だから、どうかそこに留まっているのだ“
「そんな…それでは私はどうすればいいのですか?」
必死にお父様に向かって叫んだ。
“だから言っただろう、セーラ。僕と一緒に海の世界で暮していれば、こんな事にはならなかったのだよ”
目の前に現れたのは、キース様だ。ただ、透けている様に見える。
-“海の神、セーラから離れろ!”
お父様がものすごいスピードで、こちらにやって来たのだ。嬉しくてお父様に抱き着こうとしたのだが…あれ?するりと体が通ってしまった。
“セーラ、すまない。私は既に命を落としているため、触れる事が出来ないのだよ”
「そうだったのですね。それでもお父様に会えて、嬉しいですわ」
まさかお父様に、また会えるだなんて。嬉しくてたまらない。ただ、ワイアーム様の事が心配でたまらないのだ。きっと私の事を、今頃血眼になってさがしているだろう。
“海の神、セーラはどうすれば地上に戻る事が出来る?今セーラは、魂が抜けている状態の様だが”
「魂が抜けている?」
“ああ、そうだ。肉体は地上にあるが、魂が出てしまっている為、意識がない状態なんだ”
なるほど、という事は、私の肉体は、ワイアーム様の元にあるという訳か。
“セーラが地上に戻る方法はないよ。セーラはあの時、自分の持つ全ての力を使い、地上に戻ったのだからね。その代償がこれだ。既に力を使い果たしてしまったセーラが、地上に戻る事は出来ない。このままこの地に留まり、寿命を迎え強制的にあの世に逝くか。それともあの光に向かって歩き、あの世に逝くかの1つに2つだよ”
悲しそうに呟くキース様。
“ちなみにネフェリアは、寿命が尽きるまで何とか地上に戻ろうと、必死に出口を探していた様だけれどね”
「ネフェリア?」
“ああ、そうだよ。君と同じように、私との海の生活をこばみ、地上に戻った子だ”
確か1人だけ、地上に残れた子がいたと聞いた。それじゃあ、その女性はずっと意識が戻らずに寿命が尽きたという事なの?
“そんな…セーラはやっと幸せになれるはずだったのに。とにかく、何とか地上に戻れる方法を考えよう”
“マレディア侯爵、いくら探しても無駄だよ。この地に来てしまったら、もうどうする事も出来ない。海の神の力を持つ私ですら、どうする事も出来ないのだから。あっ…でも…いいや、何でもない。私もこれ以上ここにはいられないから、そろそろ行くよ。セーラ、さようなら”
悲しそうにそう呟くと、姿を消してしまったキース様。
「お待ちください、今何か言いかけましたよね?」
必死に声をかけるが、反応はない。
“セーラ、落ち込んでいる暇はない。ここでの時間と地上での時間は、天と地ほど差がある。セーラはここにきてまだ数分の感覚だろうが、地上ではすでに半年経過している。とにかく、一緒に地上に戻れる方法を考えよう”
お父様が慰めてくれた。でもさっき、キース様が言っていた。地上に戻れる方法はないと。現にネフェリアという女性は、結局地上に戻れず、命が尽きたとの事。
「お父様、私はどうすればいいのでしょう。きっと今頃、ワイアーム様がものすごく心配していらっしゃるわ。きっとお兄様やお母様、お義姉様も。ワイアーム様の事だから、もしかしたらショックで龍の力が暴走しているかもしれない。あの時、瀕死だったのですよ。もし龍の力を使ったら…」
ワイアーム様の事を考えると、涙が止まらない。
“落ち着きなさい、セーラ。君はワイアーム殿下を、心から愛しているのだね”
「ええ、愛しておりますわ。ずっとお傍にいると約束したのに。それなのに私は…」
一気に涙が溢れだす。
“セーラ、私の方を向いて”
優しく私に話しかけるお父様の方を向いた。
“セーラ、どうやらワイアーム殿下は、君を諦めるつもりはない様だ。どうかワイアーム殿下と、幸せに暮らしなさい。それから、皆に伝えてくれ。私はいつでも、君たちの事を見ている、君たちの幸せを願っている。母さんには、愛していると伝えてくれ”
「お父様?」
“セーラ、お別れだ。どうか幸せになってくれ。愛しているよ、セーラ”
お父様の言葉と同時に、温かい光に包まれた。この光は…間違いない、ワイアーム様の温もりだ。そうか…ワイアーム様が私を!




