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1.アリエルの疾しいこと

「どちらに行ってらしたの?」


 馬車から降りてすぐ、アンリは時が来たらもう二度と会いたくない人間の内の1人と早速遭遇してしまった。


「……お父様から聞いてないの?」

「聖堂に行ってらしたにしては、随分と遅いお帰りだと思いまして」

「……何が言いたいの?」

「いえ。ただ……」


 アリエルは手を口元にあてながら、声だけは心配そうにこう言った。


「明日、ルイ殿下との婚約の発表がありますでしょう?」

「だから?」

「そうなれば、お姉様はお妃候補としてますます忙しくなりますでしょう?」


 アリエルの心配そうな声の裏に隠された本音が、口元を隠した指の間から垣間見える。

 口角が、ほんの少し上がっていたのだ。


(一体何が楽しいのかしら)


 アリエルの言葉にどんな含みがあるのか、今のアンリには正直どうでもいい一方で、知れるならやはり知っておきたい。

 復讐を効果的に行う為には、復讐相手の思考というカードを知れば知るほど、精度が上がるものだから。


「仮に明日から忙しくなるからって……それと遅い帰りに何か関係があるの?」

「特に何もないですわ」


(……嘘ね)


 アンリが尋ねた瞬間、アリエルが利き手である右と反対……つまり左の方に視線をやった。


(何を、考えているの?)


 アンリは復讐の方法を馬車の中で考えている間、ずっと一度目の人生で味わった屈辱的なアリエルからの口撃を、こみあげてくる様々なものを抑えながらも、思い出していた。

 アンリが処刑されるきっかけになったお茶会の誘い文句から、子供時代に受け続けていたアリエルの虚言に至るまで。

 胃がムカムカしながら、そして時には涙しながらもアンリは耐え抜いた。

 二度目の人生という、決してアリエルにはない自分だけの価値を何としても生かしたい。

 その一心だった。

 そうして気がついたことが1つあった。

 アリエルは、アンリに自分の疾しいこと……つまり罪を押し付けるために話しかける時、必ず行う癖がある。

 それが、視線の動き。

 かつて、アリエルが公爵の大切な書類を間違えて燃やしてしまった時があった。

 その時公爵にアンリが犯人であると訴えるために、ペラペラと滑らかに話をする、ほんの直前の視線も、利き手と反対側に動いた。

 他にも、思い出せば思い出す程、その共通点はしっかりと存在していることがアンリは分かった。

 この癖を、アンリはこの復讐のために利用してやろうと、ちょうど考えていたところだったのだ。


(つまり、今の会話の中にアリエルの疾しいことがあるということね)


 アンリは言葉を流すフリをしながら、その正体を探ることに決めた。

 ここに今のアリエルのアキレス腱になる要素が入っているのではないかと、直感が働いたから。


「とにかく、もう疲れたの。早く部屋に入らせてちょうだい」

「疲れるようなことでもしたのかしらね」


 そう言うと、アリエルは「ほほほ」と鳥の方がよっぽど可愛い、耳障りな笑い声をあげながら、先に屋敷へと入って行った。

 アンリは、そのままアリエルの後ろ姿を見送ると、聖堂に戻ろうとしていた馬車の御者を捕まえた。


「悪いけど、街へこのまま私を連れて行ってちょうだい」

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