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2.私、王子の正妃になりますの

 フィロサフィール公爵には、娘が2人いる。

 1人目は、すでに公爵との仲が冷え切っていた正妻との間に10月に生まれたアンジェリカ。

 つまらないピーナッツ色をしたロングストレートヘアと、生真面目で融通がきかない性格は、母親の遺伝子が色濃く受け継がれたことを証明している。

 微笑む事が何よりも苦手だったアンジェリカは、幼い頃から笑顔の仮面をつける訓練をしなければならなかった程だ。

 訓練のお陰もあり、アンジェリカは必要に応じて笑顔だけは作れるようにはなったものの、自分の微笑みを鏡で見る度に「気持ち悪い蝋人形のようだ」と、つい思ってしまう程、アンジェリカは自分の微笑みは不恰好だと思っていた。


 もう1人は、父が溺愛している愛人との間に12月に生まれたアンジェリカの妹、アリエル。

 性格だけでなく髪質もアンジェリカと真逆。甘そうなハチミツ色のふわふわウェーブロングヘアを持ち、いつも花が咲いたような笑顔を浮かべている。

 誰もが、アリエルのことは天使のようだと、褒め称えた。

 溺愛している愛人に顔貌がそっくりなアリエルを公爵は何よりも優先し、彼女の望みは何でも叶えた。

 食事のメニューには、アリエルが大嫌いな人参が加わることはなかったし、新しいドレスもアリエルにばかり買い与えた。

 アリエルがマナーの授業に参加したくないと駄々をこねれば、マナー講師をクビにして授業ごと無くしてしまった。

 さらに、アリエルが早く舞踏会に参加したいとおねだりをした時は、わざわざこの屋敷で舞踏会を開くことまでした。

 そんな父のアリエルへの溺愛を側で見ていたアンジェリカは、幼い頃からこう思っていた。


(どうして、私には何もしてくれないのかしら?)


 アンジェリカは肉を食べるのが嫌いだ。特に獣の肉は臭く、血の味がするから口にするだけでも吐き出したいと思っていた。

 幼い頃に、アンジェリカはたった1度だけ訴えたことがあった。


「お父様。私、お肉を食べるのが好きではありません」


 でも、公爵がアンジェリカに与えたのはたった一言だけ。


「我慢しろ」


 アンジェリカの顔を、1度たりとも見はしなかった。


「わかりました」


 それからアンジェリカは、訴えても無駄であると諦め、獣肉が食卓に出てくる度に鼻を摘み、涙目になりながら無理やり飲み込んだ。

 そんなアンジェリカの不格好さを見ながら、アリエルは隠すことなく嘲笑していた。

 

 ドレスも、アンジェリカはアリエルのお下がりばかり与えられた。

 アリエルが選ぶデザインは、豪華さを見せつけるためだけの、装飾がゴテゴテとついたセンスが悪いものばかり。

 だけどアリエルが選ぶ時は、ちょうどそのデザインが流行の最先端だと言われている時。

 なので、アリエルが身につける時は人々は「最先端ね」と褒め称える。

 一方で、アンジェリカの手元に来る時にはそのデザインの流行に陰りが見える頃になるので「時代遅れ」「ダサい」と貶すのだ。アンジェリカがアリエルと同じように着飾ったとしても。


 マナーの授業は、アリエルとアンジェリカは同じ講師に教わっていた。社交界を生き抜くためにマナーは大事だと考えていたアンジェリカは、アリエルが抜けても1人でも習い続けたいと公爵に訴えたが、それも認められなかった。

 アリエルのためだけに開かれた公爵家主催の舞踏会は、アンジェリカにはまだ早いと参加することすら認められなかった。アンジェリカの方が、2ヶ月年上だと言うのに。


 そんな父の理不尽な決定に、正妻でもあるはずのアンジェリカの母は反論すらしなかった。

 そんなことばかり続けば、バカでも気づく。

 アリエルに盲目的な愛を注いでいる公爵に、可愛がられることを夢見ることなど、愚か者の所業であることに。

 アンジェリカが、誰かの愛を求めることを止めるのは、ごく自然なことだった。


 それからのアンジェリカは、心を殺し、与えられるものを無理やり笑顔の仮面を顔に貼り付けて受け取るだけのつまらない人生に、一刻も早く終わりが来ることを、ひっそりと祈った。


 そんなアンジェリカの、つまらない人生が大きく変わるきっかけは、突然やってきた。


 ルナ暦435年の12月。

 アンジェリカもアリエルも、15歳になったばかりの頃。

 よりにもよってアンジェリカが、ソレイユ王国第1王子ルイの婚約者に選ばれてしまったのだった。

 元々、公爵家から娘が生まれたら、1人は王家に嫁がせるという暗黙の了解があったらしい。

 ルイは、アンジェリカ達の4歳上で、現在王位継承権第1位。

 貴族令嬢達の憧れの眼差しを一身に集める美男子。

 そんな美男子の妃になるのは、誰もが認める美少女、アリエルの方だろうと思った。

 アンジェリカも、当然そう考えていた。

 ところがある日、父に呼び出されたアンジェリカは告げられた。


「お前が、ルイ王子の正妃になるんだ」


 この時の公爵の不本意そうな表情は、アンジェリカは今の今まで忘れることはできなかった。

 でも、アンジェリカがもっと恐れたのは、その後アンジェリカとすれ違った時のアリエルの顔だった。

 自分が選ばれた訳ではないのに、妙に勝ち誇った顔をしていたのだ……。

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