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1.あの出来事は、現実だったの?

 馬車から下ろされたアンジェリカは、そのまま聖堂の応接室まで通された。

 これから祈りを捧げる人々、心を鎮めたり身だしなみを整えるために使われている場所でもある。

 そんな場所で、祈りを捧げる予定もないアンジェリカは「どうぞ」と勧められたソファに腰掛けている。


(居心地が悪いわ……)


「少々お待ちくださいね、ただいまお茶の準備をさせていますから」

「お茶ですって?」


 教皇は、そんなアンジェリカの不安な気持ちを読んだかのようにこう続けた。


「ええ。聖女達が日々育てているハーブで淹れておりますので、きっとお心を落ち着かせることができるでしょう」

「聖女が、ハーブを育てるの?」

「ハーブだけではありません。私たちは基本的には自分たちで食べるものは全て、自分たちで作っております」

「自分たちで……?」

「私たちは、修行の一環として自給自足を目指しておりますので」


 だが、ソレイユ国の首都のシンボルの1つでもあり、街中に堂々と聳え立っているこの聖堂には、野菜を育てられるような畑はない。


「ここで作っているわけでは、ないんでしょう?」

「はい。……ソレイユ霊山は、ご存知ですよね」


 ソレイユ霊山は、この国で最も高い山。

 頂上は、神に最も声が届きやすいと言われており、叶えたい願いがある者は霊山に登ると良いと言われている。ただし、1度山に足を踏み入れたものが、無事に戻ってこられる保証はないとも言われている。そのため、王族や貴族達は自分たちの代わりに騎士を送り込む事例も数多く見られた。

 公爵も、そうして何人かを送り込んだがその結果、誰1人帰ってくることはなかった。


「どうしてそんなことを聞くの?」

「この霊山には、私たち聖人や聖女たちが生活する修道院があるのです。そこには自分たちが食べていくためであれば十分すぎる程の、広い農場もあります」

「そうなの」

「そこで採れた新鮮なハーブで淹れたお茶です。きっと、今のあなたには必要なものだと思いますよ」

「私に、必要なもの……ですか……」

「ええ。身体だけでなく、心にも、ね」


 その時、ちょうど扉がノックされた。


「入ってください」

「失礼します」

「っ!?」


 扉越しに聞こえた声。

 そして、ゆっくりと開く扉から入ってきたのは、見慣れたパピヨンの耳の色をした、ふわふわの赤毛を持つ、健気に働くあの少女。


「コレット!?」


 アンジェリカは無意識に立ち上がり、侍女服ではなく聖女の証である白い修行服を着た少女に抱きついた。


「コレット……!良かった、無事なのね!」

「あ、あの……」

「いいの、何も言わないで。私のせいで辛い目に遭わせてごめんなさい」


 またもや、無意識につらつらと出てきた言葉。

 でも、コレットに辛い思いをさせたのは、先ほどまで見ていた夢の中だけの話のはずだった。

 夢の中では、アンジェリカの暗い王子妃時代を支えてくれた、たった1人の味方だった。

 

(あんな性悪女狐の策略にまんまとハマり、この愛らしい娘の体を豚のように吊り下げてしまった事が、なんと悔しいことか……この子の方が、よっぽど生きる価値はあったというのに……)


 そこまで考えて、またアンジェリカは自分の思考のチグハグさに混乱させられた。


(やっぱり……あの出来事は、現実だったの……?)


 アンジェリカの脳は今、現実と夢がごちゃごちゃになっている。

 

(そもそも、今こうして聖堂でコレットを抱きしめている事の方が実は夢なのかしら……? 分からない……今の私は、一体何者なの……?)


 立っているこの場所も、見えている景色が徐々に自分にとって得体のしれないものになっていく恐怖が、アンジェリカに襲い掛かり始めていた。


「アンジェリカ様」


 背後から教皇の声が聞こえたことで、アンジェリカは恐怖から自分を取り戻した。


「あれ? 私……」

「いけませんよ、そんな風に女性を失神させるまで抱きしめては」

「え?失神?」


 言われてからすぐ、アンジェリカは自分の腕の中に閉じ込めていたコレットを見た。

 コレットは、目を回してぐったりしていた。


「きゃ!! コレット! コレットー!!!」

「い、いけませんアンジェリカ様! そんなに揺すってはなりません!! 脳震盪を起こしてしまいます!」


 それから、教皇はすぐにアンジェリカからコレットを引き剥がすと、そのままコレットの額に手を当てて何か呪文のようなものを唱えた。

 それから30秒程してから、コレットは目を開けた。


「あれ? 教皇様……?」

「大丈夫? 疲れたのかな?」

「あ、いえ……そんなことは……」


 教皇は、アンジェリカのせいでコレットが倒れたことを悟られないような表現を選んでいた。


「ここはもう良いから、持ち場に戻って。必要になったら呼ぶからね」

「かしこまりました、教皇様」


 意識を回復したコレットは、ハーブティーをテーブルに上に置いてからすぐ、私から逃げるようにぺこりとお辞儀だけして去っていった。

 決してアンジェリカの方に振り返らないコレットに、アンジェリカは寂しさを覚えた。

 自分が知っているコレットだったら、最後にもう1回振り返って


「アンジェリカ様!」


 と、呼んでくれたから。


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