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もし人類最強の勇者がオークになってしまったら  作者: みずがめ@10/1『エロ漫画の悪役』2巻発売!


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寝所問題

 宿に到着して部屋を借りることができた。


「このベッド柔らかいわ。もっとみすぼらしい部屋かと思ったのになかなか良いじゃない」


 ミリシャは大はしゃぎである。それをオロオロしながらララが見守っている。

 そんな二人を僕は眺めていた。


「ねえミリシャ」

「何よ?」


 僕は戸惑いの感情を声に乗せた。


「なんで僕達同じ部屋なのかな?」


 僕達。そう僕達なのだ。

 ミリシャとララ。それに僕を含めた三人で宿の一室を借りていた。



「え、何か問題でもあるのかしら?」

「あるよ! 普通は男女別々に分けるんだよ!」

「二部屋取れってこと? そんなのお金が勿体ないじゃない。贅沢言わないの」


 あれ? なんだか僕が駄々をこねているみたいじゃないか。

 おかしい。ここはどちらかと言えば女性側が文句を言う場面だろう。なんで僕だけが文句を口にしているんだ?


「そうだララ。ララだって僕といっしょは嫌だろう?」


 ララに希望を求める。彼女ならわかってくれるはずだ。

 猫耳少女は首を振った。横に。


「そんなことないです。ララはレオン様といっしょにいたいです……」


 かわいいことを言ってくれる。でもそうじゃないんだよ。


「はいはいそこまで。男なんだからいつまでも文句言わないの」

「く……ミリシャに任せるんじゃなかった」

「あら。あたしのおかげで宿代をまけてもらったのよ。むしろ感謝してもらいたいものね」


 宿泊の交渉はミリシャに任せていた。交渉がうまくいったことに彼女はご満悦なのである。

 ……まあミリシャに任せきりだった僕にも非がある。顔を隠せるようになったんだし今度からは僕が交渉することにしよう。

 一応三人部屋ということでベッドは三つある。それぞれ一つずつ使えばいいのだが、そこで問題が出た。


「狭いな……」


 ベッドの大きさは庶民用のものだった。普通の人間なら何も問題なんてないのだが、このオークの体だと別だ。

 このオークとてつもなくでかいのだ。それも横に。

 ベッド一つ分だと横にはみ出してしまう。寝返りなんて打とうものなら床へダイブだろう。


「しょうがない。僕は床で寝るよ」

「あ、あのレオン様」


 床で寝る覚悟を決めていると、おずおずとララが提案してきた。


「ララのベッドを並べればレオン様が横になられるのに支障はないかと……」


 確かにベッド二つ分ならばオークの体でもなんとか寝られるだろう。

 でもそれは新たな問題を生み出していた。


「そうなったらララといっしょに寝ることになっちゃうんだけど」


 ララが小さいとはいえ女の子だ。寝床をいっしょにすることなんてできない。いっしょの部屋でいることはこの際目をつむることにしている。


「そ、そんな。ご主人様とごいっしょに眠るなんてできません。ララは床で寝ますからどうかお気になさらないようにしてください」

「それは絶対にダメだから!」

「そうよ。ちゃんとした寝床で寝ないと大きくなれないわよ」


 ミリシャ、問題はそこじゃない。


「でも……ララがいると狭いでしょう?」

「だからそういう問題でもないんだってば!」


 もうちょっとこの女子二人には身の危険を感じてほしいものである。


「僕のことはいいから、ララは気にせずベッドを使いなさい」

「で、ですが……」


 ララはなおも食い下がろうとする。

 彼女の心遣いが嬉しくないわけがない。それでもこの場合は僕が床で寝るのが一番正しいはずだ。


「そうだわ」


 ミリシャがぽんと手を打つ。

 何を思いついたんだろうか。どうしても彼女の思いつきに不安が先行してしまう。


「あたしのベッドもくっつければいいのよ。これなら三人いっしょに寝られるわ」


 名案とばかりにミリシャは言う。

 確かにベッドが三つもあればオークの体でも余裕ができるだろう。僕に比べれば格段に小柄であるミリシャとララならそこに加わったとしても大して窮屈にならないかもしれない。


「いやいやいやいや! そんなのダメに決まってるじゃないか! 男女でいっしょに寝るだなんてダメだ!」

「でも野宿の時はいっしょに寝てたじゃない」

「それとこれとは話が別!」


 それに野宿している時はほとんどの時間を見張りのために起きていたのだ。あまり寝なくても平気なので警戒は僕が行っていた。

 こうやっていっしょに宿に泊まるとなったら話が変わってくる。

 勇者として旅をしてきた頃から気を付けていたのだ。パーティーメンバーが全員女性だったから余計に気を配っていた。

 というか今も僕以外は女の子だ。気遣いは必要なのだ。


「大丈夫よ。そんなに心配しなくても」

「何が!?」


 ミリシャはからからと笑う。


「レオンがあたし達を傷つけるようなことをしないってわかってるから」


 あっけらかんと言われてしまった。


「ララも……信じていますから……」

「……」


 そうまで言われると焦っている僕がバカみたいだ。


「わかったよ。じゃあみんないっしょに寝よう」

「きゃー、レオンってば大胆」

「どっちなんだよ!」


 からかわれているとわかってても反応してしまう。僕とミリシャのやり取りにララも笑顔を見せる。

 オークの体でも受け入れられていることに喜ぶべきなのか、それとも男として見られていないことに嘆くべきなのか。ちょっと複雑だ。



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