僕を受け入れてくれる人がいるから
宿で食事をとってから寝ることにした。
ベッドを三つ並べて眠る。なぜか僕が真ん中でミリシャとララに挟まれる形となった。
断続的な寝息が聞こえてくる。二人とももう寝てしまったみたいだ。
僕も休ませてもらおう。ドキドキしてる。ちゃんと眠れるか不安だ。
「……眠れない」
案の定目が冴えてしまっていた。
そりゃ年頃の男が眠る美少女に挟まれて平静でいられるわけがないだろう。
もちろん手を出す気なんてない。ない、のだけど。きついものがあった。
この悶々とした気持ちをどこにぶつければいいのだろう。
そう思っていた時だった。
「ん?」
ドアの向こう側から足音が聞こえる。一人じゃなく複数だ。
なんだろうと思っていたらドアが開かれた。思わずぎょっとしてしまう。
え、ここ僕達が泊ってる部屋なんですけど。びっくりしすぎて声にならなかった。
それでも動かずじっとしていた。そうしていたら僕も含めて三人とも寝ていると思ったのだろう。複数の影が動く。
「よし、ぐっすり寝ているみたいだな」
「そりゃもう。夕食に眠り薬をしっかり混ぜましたからね。朝まで何があっても起きねえでしょう」
なんだって?
ミリシャとララの寝つきが良いと思ったらそんな理由だったのか。本当に男として見られてないと思ってちょっとへこんでたよ。
ちなみに僕にはそういう状態異常は効かない。他にも毒やしびれ、石化にだって耐性を持っているのだ。勇者を舐めてはいけない。
それにしてもなんなんだこの人達は? 声からして全員男のようだけど。
いや、うち一人は宿屋の店主の声だった。なんで店主が客の部屋に入ってくる?
「女の一人はエルフです。これは高く売れそうですよ」
「へへっ、上玉か?」
「もちろんです」
下品な笑い声が聞こえる。
こいつら、もしかして僕達に危害を加えようとしているのか。
「男の方は殺しちまうか」
「シーツは汚さないでくださいよ」
……。
まさか、こんな村でこんなことが起こっていたなんて。
手ごろな客を見つけては人さらいをしていたのだろう。話からして人身売買でもやっているのかもしれない。
店主自らこんなことをしているのだ。常習犯と見てまず間違いない。
せっかくオークの姿を隠していたというのに……。
前に訪れた町やこの村。あまりいい人はいないみたいだ。
今はオークの姿をしていたとしても僕は勇者だ。人を守るために魔王を討伐する者だ。
けれど、こんな人達のために戦っていたわけじゃない!
僕は起き上がった。
「お、おいっ。寝てねえじゃねえか!」
「バカなっ。ちゃんと薬は盛ったはずなのにっ」
驚いているところ悪いんだけど、もっと驚いてもらおうか。
僕は覆面を外した。よく見えるように証明魔法を使う。
「ひ、ヒィィィィィィ!? ま、魔物!」
「オーク!? なんでこんなところにいるんだ!?」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオーーッ!!」
言葉はいらない。きっと意味なんてないと思ったから。
まさに魔物の如く、咆哮を上げて侵入者をすくみ上らせる。
置いていた剣を掴むと一番近くにいた男に突き付けた。
「去れ」
「ああああぁぁぁああ……」
「去れと言った」
「ヒィィィィィィィィィーーッ!!」
男達は恐怖に飲まれて顔を引きつらせながら部屋から出て行った。
「……ふぅ、もうここにはいられないな」
早急にこの村から出た方がいいだろう。
薬を盛られたからというにはミリシャとララはすぐには起きないだろう。僕は二人を担ぎ上げると荷物をまとめて宿から出た。
※ ※ ※
「ん……あ、あれ? 外?」
ミリシャが目を覚ましたようだ。
「おはようミリシャ」
「レオン? おはよう。どうして外にいるの? あたし達宿屋にいたわよね」
さて、どう説明したものか。
僕が言葉に窮していると、ミリシャはやれやれと肩をすくめた。
「……言わなくてもいいわ。あなたのその態度で何があったのかなんとなくだけれどわかったから」
「ミリシャ」
「そんな顔しないで。別にレオンが悪いわけじゃないんでしょう?」
「う、うん……」
「やっぱりね」
ミリシャはわかっていたのだろうか。あの宿屋の店主の企みを。
彼女は僕の方をしっかり見つめて口を開いた。
「人は決して綺麗な生き物じゃないってこと、あたし知ってるから」
「……」
僕は、信じたくなかった。
僕は勇者として何を守ろうとしていたんだろうか。そんなことを考えてしまうくらいには昨日の出来事は衝撃的だったのだ。
「良い機会だと思いましょうよ」
「良い機会?」
ミリシャが僕の肩に手を置く。なだめるようにゆっくりと撫でられる。
不思議と落ち着く感触だった。
「きっとレオンは人の汚い部分をあまり見てこなかったのよ。それはあなたが勇者だったから。誰だって偉い者に悪いところを見せたがらないものよ」
「それは……」
「でも、今は違うわ」
ミリシャは優しく微笑む。
「今のあなたは良くも悪くも勇者として見られることはないわ。だからこそしっかりと人という生き物を見定めるチャンスよ」
「見定める……」
彼女は頷いた。
「その姿で人の裏表を見定め、元の体に戻った時に答えを出せばいいわ」
「答えって?」
「レオンの目的の意味、かしらね」
ミリシャは背伸びをしてうーん、と唸る。
「それまでは付き合ってあげるわ。だからちゃんとあたしのことを守ってよね、勇者様」
彼女はそう言って背中を見せる。ララを起こすようだった。
「……」
見定める、か。
ミリシャの言った通り良い機会なのかもしれない。
僕は今まで魔王を倒すために心身を鍛え、旅をしてきた。
だから自分が守るべき人達をよく見てこなかったのだ。そんな暇がなかったといえばそれまでだけど、今はその時間があった。
僕の知らない部分を持った人がいる。それは思った以上に悪いところなのかもしれない。
それでも、ちゃんと知らなければ始まらない。
しっかり向き合ってみよう。勇者ではないこんなオークの姿だけど、それでも見定めるくらいはできるだろう。
今の僕には、この姿でも受け入れてくれる人が少なくとも二人はいるのだから。
これにて完結です。




