魔族から魔力を持った人間に戻されたジルヴィア
◇
「おい、大丈夫か? ディリー……」
辛い時の状況を結構細かく話してきたので、ディリーは辛くなかっただろうかとロキは心配する。
「あ……あ、よくわかっただろ? ロキ……お前が魔祓い師見習いの知識で実習をしていた頃どういう惨い事が起きていたか……」
「ああっ」
ただ自分で業を背負っているので、本当に最後まで手助けしあえる存在がディリーの前に現れるまで、それまでは必要以上に人と馴れ合わないんだという事実を告げた。
「俺……の手は魔物の血で汚れている。俺の場合、ほぼ八つ当たりといえるかもしれないがな……。恨みも入っている……!!」
安易に理解するのは逆鱗に触れる可能性もなくはなかった。だけど今のディリーならそれも受け入れてくれる気がしてロキは気持ちに寄り添う。
「わかるぜ……。俺もディリーが……セルジオが……物言わぬ者になっていたとしたら……。きっと魔物を地の果てまで追っかけるだろう……」
「本当に……すまんな」
「おっ、俺。な……んかカッコつけていたようだな~~。恥ずかしい……」
今更なのだが知らされていなかった事(ルフランは遠方の遊軍に派遣されていったと嘘をつかれていた事)にロキは気づいたようでディリーをどこか責めるような視線で見てしまった。
「お前……! ルフランは……!!」
ディリーは静かに目を閉じて
「そうさ……。命を落……とした。だけど俺はっ……!!」
思うところが多すぎてそれ以上の言葉は続かなかった。
「……どうして……あの時に真実を告げてくれなかったんだ……。なぁ、ディリー」
その時の状況からして今責めるのは酷だとロキも頭ではわかっていた。しかし、ディリーがほとんど話さない無口な奴だって事は昔から周知の事実だったので、彼の動作や表情などから察せなかったのかとロキは自分の考えの浅さに泣きそうになる。
◇
ジルヴィアは記憶にない場所で目を覚ました。この建物の同じ部屋に人の気配を感じたので気配のする方へ問いかける。
「あの~~~~……? ここは?」
何かに気づいて――
「ん!? ……あ~~っ、俺の家だ」
ロキはジルヴィアが目を覚ましたようなので質問に応じた。
……眼鏡!! 私の眼鏡はどこに……!? あれがないと……『魔』が来るなどとわめきながらジルヴィアがとても慌てた感じで騒ぎまくっている。
「? どうかしたのか? 何か探しものか?」
質問されたジルヴィアがどこか冷静さが残っているようにそれがないと困るという事を端的に伝えた。
「あ……あ……眼鏡は……!?」
「メガネ?」
すぐそばの机の上に置いてあるのだが、それに気づいてなさそうなのでまさか気づいていないとはと指差す。
「机の上にあるが?」
慌てながらもかなりの速度で走ってわしづかみにして持つ。そしてメガネをかけた。
(はぁ~、これで一安心)
「アンタ、ずいぶんと慌てていたな。どうかしたのか?」
取り乱した所を見られた恥ずかしさからか、その一連の流れを忘れて欲しそうに別の話題に変える。
「あ……いっ……いえ、お気になさらず。ところでどうして私はここにいるのでしょう?」
「ああ! 俺の友達がよ、運んできたのさ。ホラッ、そこに直立な姿勢でいるだろ」
顔で方角を示したロキ。ジルヴィアがその人物を確認するとそういえば気絶させられたような等記憶から思い出される。だがそれよりも、自分が『魔』の束縛にもなる力を抑える必要がなかったという事に驚いた。
(あ、本当だ。あれ? そういえば私……眼鏡がなくても普通でいられた……!?)
ディリーも見られていることに気づいたのかジルヴィアを見つめ返した。視線が交差する。
「気がついたか」
「え……。あっ、は……はい」
随分とまっすぐな目標を持っている人だとジルヴィアは感じ取った。
「アンタ、もう大丈夫だ」
急に安心させるための言葉をかけられたジルヴィアは、理解しきれていない部分も結構あるので疑問符をいくつか浮かべたような表情をしていたかもしれない。
「は? 何がです??」
ディリーが頭を軽くかきながら「どう言えばわかりやすいかな~」と言った。そこでロキが口を挟む。
「えー、いやー。だからー……簡単にいえば俺が『魔』を祓ってやったからよ、もう大丈夫だって言いてえわけよ」
「ほらっ」とロキが手首を見せた。
(あ……包帯が巻いてある……。血の儀式で祓ってくれたんだな……)
魔祓い師の高等技術は一部の人材しかいないと聞いていた。だからこそ、そういう人に会えた強運と魔を消去してもらった事にお礼を述べる。
「あ、ありがとうございました」




