sweetheart 重要キーワードか? 1 挿絵あり
「あー、そういや思い出してきたなあ」
適当に話を濁そうとしている可能性からセルジオが畳み掛けた。
「んじゃあ言ってみろよ~?」
「俺、お前の事を何でか好きになれなかった」
あっちゃーと額に手を置いてセルジオが悲痛な声を発する。
「ひっで~~……ってゆーか俺もだけどな!! ディリーの事を何だコイツーとか思ったりしてさ」
初対面はろくでもなかったんだなとまずセルジオが笑い飛ばす。しばらく笑いが止まらなかったので息を切らして、それからお互い見つめ合った。
「あはーっはっはっはっはっはっ」
互いの顔がよっぽど面白かったらしく、あまりしゃべらないディリーでも笑い転げた。
「そっ、そういやさぁ……
ぷぷっと吹き出し笑いが耐え切れず笑ってから
僕らってルフランを通じて知り合ったんだよなーっ、はっはっはっ」
つい笑い話の中にルフランの名前を出してしまったので、セルジオはハッとしてもしかしてルフランの話はタブーだったかと口をつぐむ。
失敗したかと思い、笑いが止まった。ディリーが下を向いている。セルジオはやっぱまずかったかもしれないと少し反省。
しばらく沈黙の時間が流れた。スッと上を向き、ディリーがセルジオの方を見る。光が射してディリーの顔を照らした。異様に綺麗な光景だ。セルジオが恐る恐る声をかける。
「ディ……ディリー……。ごめんな、僕、軽かったよな……」
ゆっくりと首を振るディリー。
「いいや、気にする事はない」
「いや……本っ当にごめん」
「いいと言っている」
しゅんとセルジオがうなだれてしまっている。気にしなくていいって―のに。俺、意地悪な事を言ったか? とディリーが思っているとセルジオの動きが止まっていた。
!?
ど……どうしたんだ~~セルジオのやつ!? と困惑したが、そういえば施設の助かった人達の看病についていたんだから疲れが溜まっているのかもと理解する。
ベッドに座ったまま船を漕いでいる状態のセルジオに気づいて、隣にあるべッドに移ったディリーは安心感からか床につくことが出来た。
朝を告げるかのようにスズメのさえずりが教会の外から聞こえてきた。
「ん……?」
窓から射しこんできている日の光が目に当たる。寝起きなのでまだボーッとした感覚がある程度残っているようだ。その時、ディリー達の様子でも見に来たのか誰かがドアを開いた。
神父さんはディリーが起きていたので微笑む。
「……やぁ、ディリーくん、気分はどうだい?」
「はあ……まあ」
教会の人が着衣している衣に身を包んでいる神父さんが、ディリーのあいまいな返事も気にせず口の端を笑顔を作るかのように広げた。
「いやぁ~ビックリしたよ。セルジオが急に駆けてくるんだもの」
「はぁ……」
「……君は本当に不器用だなあ、人と接するのがねぇ」
事実とはいえ、好きでそうした性格になったわけではない。ムッとしたディリーは睨むような感じで神父さんを見てしまった。「おっとと」と少し神父さんはたじろぐ。
「君は目つきが悪いな」
言葉にこそ出さないが、ディリーはその言動が気に入らなかったので余計なお世話だと言わんばかりに背をそむける。それを見て神父さんが苦笑した。
「いやぁ、ゴメンね。悪気はなかった……んだけど……。ね」
うさんくさいとディリーは思う。
「ねぇ、ディリー君。何か言ってくれないかな」
何かってなんだよ。この人、訳わかんねー。そう思ったディリーが話を打ち切ろうとした。
「別に……言う事なんか……」
無愛想に答えてしまった。ま、俺はどーせ不器用だからな。どうでもいいんだよと考えの中でも自虐する。
なにか大切な事を言うためか、神父さんが深呼吸して息を吸う。すっと人差し指をディリーの目の側に近づけて「よく聞いてね」と注目させた。
「ねぇ、ディリー君。『SWEETHEART』っていう話を知っているかい?」
無言のままディリーが首を振る。
「じゃ、話してあげるとするかな~」
傷心のディリーに神父さんが笑顔を向ける。
「まずは『SWEETHEART』の意味を教えてあげよう。その『SWEETHEART』っていうのはね、直訳すると『優しい心』という意味になるんだよ」
ディリーは最初その単語を聞いて変な想像をしてしまう。『SWEETHEART』=『甘い心臓??』とか思ってしまっていたのだ。バッカみてーと自分の間抜けな想像を呪った。そんなディリーのわかりづらい感情が表情でわかる貴重な一瞬を見た神父さんがそろそろ話を続けていいか尋ねた。
「ディリー君、続けていいよね。いいかい? 優しい心っていうけどね、私的な考えでは『優しい心』って強調されるくらい慈愛に満ちた『心』を持っている人。なんだけど、まず〈いない〉と思ってしまって。ディリー君もそう思わないか?」




