メイの回復まで 2
「あたし……そろそろ様子を見に行ってみるね。一人じゃ寂しいだろうから」
「おう、じゃあ後でな」
「うん、お先に頼んだよ」
本来ならグレイが先に妹の様子を見に行ってあげたかったが、同性のデュアが気にかけてくれるというのでお願いする事にする。
女の子2人が宿泊している部屋にデュアが戻って、メイに明るく声をかけてみる。
「ただいまー」
浅い眠りから覚めたかのようにうなりながら
「おかえりー」
とメイが返事を返す。それからメイは心配はかけたくないからと遠慮して言うかどうか迷っていた状況をデュアに話した。
「……ねぇ、デュア」
「ん~~? 何?」
眉をひそめて勘違いだったら恥ずかしいなと思いながらも確認する。
「ちょっと気になる事があるんだけどぉ……」
「どうしたの?」
窓の外の方を向いて、そこから見える木に誰かがいるかのような気配を感じたと訴えかけた。
「さっきからさぁ、何でか誰か木の上に乗っている気がするんだけど気のせい? 怖くなって見るのやめたから」
さりげなくデュアが木の上を見ると――
「あながちそうでもなさそうよ、誰なの?」
別に何かをするわけでもなく、もう少ししたら帰るつもりだった人影。気付かれないつもりだったのに気付かれてギクリとしたかのような動きを見せた。ごまかし笑いを浮かべつつ、2人の宿泊している部屋の窓のすぐそばの木まで降りてくる。
「アハハ、鋭いですね。初めまして……じゃないか。私です、覚えていませんか?」
「?」
得体のしれない相手なのでちょっと後ろにひいた。
「イヤですねー、ひかないでくださいよ。つい最近の事なんですけど本っ当~~~~にっ覚えていないんですか?」
自信がないのでだまって2人はうなずいた。
(そっか……私とした事がこの事を忘れてしまっていただなんて)
うっかりしていたのをどこかごまかすような仕草の後でうやうやしく頭を垂れる。
「いやいや、失礼しました。私はジルヴィアです。略してジルとでもお呼びください。この度はうちのバカ弟がご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」
「弟……?」
記憶にひっかかる存在がいるデュアが、その自分の記憶を思い起こさせるつもりで訊ねた。
「はい。クイというのですが……。イタズラが過ぎたようで……」
「クイ……?」
ああっ! とデュアの記憶が蘇った。
「っとーですよ! ジルさんッ、あなた兄なんでしょ!? どーいう教育をしてるんですか!? しっかりしつけないと……」
しかしこんな鮮明に思い出せる記憶を何で忘れていたのかとデュアは首を傾げる。
「あ~~、スイマセンスイマセン怒らないで」
実はジルヴィアが登場した辺りから記憶に靄のかかる呪術をデュア達一行に行使していたのだ。だからジルヴィアの事を忘れているのは不思議のない事なのだが、記憶を曖昧にしすぎた様であった。
(はは……私とした事がクイの事まで少し消してしまったようです……)
ジルヴィアが肩をすくめて苦笑する。
「メイの具合の悪いのがわかるでしょ!? 早く出て行ってください」
「そうですか……。あっ、では治して差し上げましょうか?」
「出来るの?」
その行為が出来るかどうかもそうだし、魔族が人間を助けるのは裏があると考えて当然である。疑いの目で見た。
「ええ。少しお待ちください。調合しますので……」
何やら草を道具袋から取り出して何やらし始めた。ゴリゴリ……一般的な薬草の作り方ですりつぶす音が耳に届く。
(怪しいヤツ……)
今は何もする気はなさそうではあるが、訝しがって当然だ。
ジルヴィアが一息ついて
「は~~、やっと出来上がりました。どうぞ」
おそるおそるとデュアは何かをしかけてきても対応出来るように飲み薬を受け取った。
「ヤですね~。そんなにビビらないでくださいよ」
(こんな怪しい魔族を見てビビらない方がおかしいわよ)
そう内心毒づきながらも、助かる可能性の高そうな薬なのでお礼を言っておく。
「ど……どうも……」
メイに少し飲ませてみると――
すごく不味そうな顔をしたと思ったら勢い良く吹き出してまたぐったりした。
「なんですかーー、コレは~~っっ!!??」
メイが苦しそうなので驚愕しながらも薬について追求する。
「え? 何ですかって……酔い覚ましですよぉ」
「どこがですか~~っ。ますます悪くなっているっぽいですよ~~!?」
デュアの追求を聞こえないフリをして、苦しそうにえずいているメイの顔をジルヴィアが覗きこんだ。
「う゛え゛え゛~~おぅえええ~~後味悪すぎーっ」
残っている後味を減らしたくてメイは意味もなく舌を外に出す。
「フフ……そのうち治りますよ」
も~~……いい加減なとデュアは思ったが、メイの顔色が良くなっているような気がしてアレッ? と思った。
「ん? んん~~~~? 何か体の調子が良くなってきたような?」




