チャンスをうかがうデュア
本気でわからないという表情でヴィアンがつぶやいた。
「どうしてそんなに怒るのかなぁ、君の家族を私が殺したって事実もないのに」
感情の高ぶっているデュアを、ヴィアンが汗をかきながらただ観察している。
「どうして!? そんなこと決まっているでしょう!! あたし達は帰る場所がないのよっ! それに親友の両親の命を奪ったのよ。それが許されると思っているの!!」
魔族のヴィアンにとっては、人間の生死について熱く訴えかけられてもどうでもいいと思っているので何とも思わないようだった。
「フン……私にはわからない事だ……「生命」が何だっていうんだ。生命など短いか長いか二つに一つなだけなのだぞ!」
この思考が理解できない魔族では話にならないと思うデュア。
「あ……あなたにはわからないことかもしれないわね。どんな人でも平凡な暮らしが出来ている限り長生きはしたいものなの。とうにバラスのような奴に忠誠を誓ったあなたになんかこの尊さがわかってたまりますか!」
「可愛いながらも口の減らない方ですねそなたは。少し大人しくしていてください」
「大人しく!? 出来ないわよそんな事っ!」
ヴィアンはデュアとの会話が面倒になってきて、そんな理解できない感情論をぶつけられてもかったるいだけなので、沈黙させる脅しをかけた。
「では私が大人しくさせましょう、少し手荒ですがね……」
今、ヴィアンの攻撃を受けて戦闘不能にされてはかなわない。デュアはそう考えて口約束する。
「手……手荒……!? 嫌よ。だったら大人しくしているわよっ」
沈黙したデュアに私の言う事を聞いたなと満足したのか、ヴィアンが他の方法で行動を封じた。
「ほう……。では私が眠りへの道に誘ってさしあげましょう」
「うっ……!」
ヴィアンに眠りの呪法をかけられてしまう。そのヴィアン、デュアの寝顔を眺めながらつぶやいた。
「フッ……眠っていれば誰でも天使のように見えるものよ。かわいいな……」
デュアの寝姿を眺めてから、これからしようとすることを考えて赤面する。
(そ……それでピーやズキューンやガ~をしなくてはならないだとか……。マーヤ様の占いは当たるからやらないわけには……。しかしやらないといけないこととはいえ……うわー、顔が熱いっっ)
ヴィアンの羞恥が表情に表れているところを、シーオンが叱責した。
「は……! わ……私は何を考えていたんだか……あの子の言うように私は変態そのものだーっ!!」
自分の考えに罪悪感を感じたヴィアンが、頭を抱える。
(今のご主人は変態そのものですね……おいたわしや……)
「ふうっ、冷静さを失ってしまった。取り消さねば」
ヴィアンが冷や汗ものの状況から、平静を装おうとするがシーオンには何かを企んでいるようにしか見えなかった。
(はっ……! ま……またあの顔はご主人様ったらまだ怪しい事を考えていますね)
デュアを眠らせている間に事をすませなくてはと行動に移そうとするヴィアン。だが、つい余計な考えが頭をよぎって彼は苦悩する。
(この娘……。この娘の、は……ハダ……。うわ~っっ、はっ! イカンッ。私はまたアヤシイ事を考えてしまった。私の変態! スケベ、チカンッ)
そんな状況でも冷静な思考を主人が取り戻したと思ったシーオンは、ホッと胸をなでおろした。
(ほっ……。元のご主人に戻った、よかったよかった)
ヴィアンがシーオンに自分の行動がおかしいのかどうか確認した。
「シ……シーオンッ。私はもしやとんでもない変……態……っ!?」
聞くまでもない事を聞かれて、シーオンはご主人ヴィアンの必死さが面白くて吹き出してしまう。
(あっははははははっ。ご……ご主人、そんな真顔で言わないでくださいよっ。笑いすぎてくっ、苦しい)
さすがにそこまで笑われてしまっては、ヴィアンは少し言い返したくなってしまっていた。
「シーオンーーっ、そこまで笑うか? 失礼な幻想生物だな。ま~っ、仕方ないと思うとしようか。お前の意見は正しいのだからっ」
笑いすぎて涙が出てきてしまっているシーオン。ヴィアンの『いつも』はこんな様子だと教える。
「あは……す、すみません……。う~ん、そうですねぇっ。今のご主人は変態そのものですけど、いつものご主人はCOOLで冷たいですよ」
ヴィアンはシーオンの話の中で、気になった部分を指摘した。
「何を言ってるんだ……。大体お前な~、COOLと冷たいは同じ意味じゃないか……」
(どうもすみませんっ。ご主人の『変態』というギャップが私の思考回路を狂わせたもので」
シーオンの言っていることがヴィアンの感に触った部分があったみたいだ。どこかはわからないが。
「お前~、ペガサスのくせに生意気だぞ~~。大体幻想動物が『思考回路』とか言っているのが変に感じるのだがーっっ!!」
ヴィアンの態度に、シーオンも気に入らない所があったようだった。
(まあ~~っ、何て事を言うんですかっ! 聖なるペガサスに……)
「なあ~にが聖なるペガサスじゃい!! 私にとってお前なんか単なる馬にすぎんのだーっ!!」
幻想生物の自尊心を刺激して、さすがにシーオンのプライドが傷ついてしまったようである。一時的にヴィアンを見限る。
(言いましたね、ご主人ッ……! わかりました。では私は出て行かせてもらいます。いいですね……)




