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気持ちの甘さ(改稿版)  作者: 霜三矢 夜新
新幹部 現る
26/112

魔物退治中断 中断中 1

「やばいっ、思ったより傷が深いかもしれないな。立てないよ……」

「…………………………」

 少しの時間沈黙があったが、デュアが意を決したかのように言った。

「よし! あたしが担いでいくわ。グレイなら大丈夫そう、軽そうだし」

 グレイが遠慮の言葉をかけたが、デュアに一喝される。

「だっ……ダメだよデュアっ。こう見えても重いんだから僕……」

「もうそんなこと言っている場合じゃないでしょ。よいっ……しょお」

 

デュアが明るい口調で、グレイに心配しなくても大丈夫だと小声でささやく。

「何だ思ったよりそんなに重くないじゃない。さーっ、担いでいくわよー!」

 メイが口を手で抑えながら、目を丸くしていた。

「すごっ……力持ちねえ。そのままで行くの? しぇ~、すごい」

 トムがデュアに「今からでも代わるぜ?」と言ったのだが、大丈夫だと遠慮されてしまったので強引に交代は出来ない。バランスを崩して彼女まで怪我したら大変だ。

「オレがやってやったのに……血で汚れるぜ」

「大丈夫よ。ちょっとぐらい汚れるからってなに? どうってことないわ」


 トムが呪文が使えたはずという思い出して、メイにその方がいいだろと聞く。

「そうだ! メイ、お前ってテレポーテーション出来ただろ? やってみたらどうだ?」

 メイが一番思い出さなきゃいけないのは自分だったのに……と思いながらも後悔している場合じゃないと考え直した。

「うっ、うん。やってみるね」

 意識を集中させて試してみるメイ。

(テレポーテーション)

「……れ? 出来てないよ~~」

 落ち着いてもう一度やってみろとトムが進言した。


「集中力が足りなかったんかもな。もう一回」

「うん……」

 今度は失敗していられないとメイの集中力が高まっていく。

(集中、集中……テレポーテーション!!)

 メイのワープ技が成功して、本人が一番町の入り口に来れたことを喜んだ。

「でっ、出来た。出来たよっ、ここって町のすぐ出入口だよね。やった~」

 デュアがメイの喜びに共感する。

「やったわね、メイ。早く宿屋に戻りましょ」


 トムがグレイに傷の状態はどうかと尋ねた。

「そうだね、止血は大丈夫みてえだけどどうだ? グレイ」

「……止まったことは止まったみたい。でも血が結構流れちゃって少し安静が必要そう……。ハア、力がなかなか入らないや」

 思わしくないようなので、みんなが心配する。

「そら、大変だ―。一刻も早く治療しないと……やばくなっちまうぜ」

「そうね、早急な手当が必要ね」

「大丈夫? グレイ、私達にも心配してくれる人がいるよ~、嬉しい」

 

 グレイは友達(今は冒険の仲間)の親切にありがたみを感じながら、メイに慈しみの目を向けた。

「そうだね……ありがたいことだよ」

「そうね。お父さんやお母さんだって天から心配してくれているはず。今は怪我を治しなよ?」

 メイがないものねだりをしながらなげく。

「あ~あ、誰かヒーリングの能力がすぐ使える人がいれば……」

 デュアはメイが少し一人になりたそうな気分を察して、グレイを連れて部屋に向かう。

「部屋……先に行ってるよ」

「うん」

 

 部屋は2階、流石におんぶで階段を登るのは無理と判断。トムに頼んだ。

「階段か~、しんどいな。でもそれくらいしなきゃだよな」

「ごめん、デュア。それにトム」

 気にしない様にトムはグレイに言い聞かせた。デュアも同様である。

「いーっていーって、これくらいどうってことない」

「もうちょっとだから頑張って……にしても何か熱そうにしてない?」

どうもグレイが発熱して体調が悪化しかけているかもしれない。なので、部屋までトムを急かす。

「ああ。少し熱が出てきたかもしれないや。でも薬草を飲めば治るよ」

 デュアが一足先に部屋のドアを開けて、道具袋から薬草を取り出した。


(んーっと、薬草薬草ー。あーっ、あったあった。これ多めに三枚くらいでいいかな。これを擦るのか~~。面倒だけどグレイのためだもんね)

 薬草専用すり鉢でゴリゴリとすり始める。約十分くらいかけてやっと完成した。

「ふーーっ、後はせんじて飲ませるだけね。んーっとお茶お茶ーと。この中に入れれば完成」

 グレイの方をちらっと見ると、トムがいつの間にやら部屋の外に出ていた。グレイが寝息をたて始めている。

「あれ、寝ちゃってるや。起こすの悪いしどうしよう? 二人ともの意見も聞こう」

 その頃、トムとメイはやることがなかったので階段の踊り場でぼけーーっとしていた。




「あーっ、いたいた。トムーっ、メイーっ! 来てもいいよーっ、ていうか来てーーっ」

トムとメイが顔を見あわせた。きっと二人とも「やっとか」と思っているに違いない。

 部屋ではグレイが目を覚ました。

「……れぇ? デュアいないのか。ん? 薬草の匂いだ……、あんなに遠くにあるよ。届かないな~」

 横着にもグレイが寝床から手を伸ばす。

「うっわー、ダメだよねやっぱり~。手が痛くなっただけ……」

 階段を登ってくる何人かの足音が聞こえてきた。

(何となくまだ寝てないとって気がする。潜っちまお。あ゛~、手の筋肉がつっちゃった気が~~)


 デュアがドアの前で、グレイに尋ねる。

「グレイーーっ、起きているのかなあ」

 ドアを先に開けたトムが見たまんまを答えた。

「寝てるぜーー、アレは寝て治すってか!?」

 しかし、メイはピンと来る。

「ううん、起きてるわ」

(あちゃー、メイはだませないか。さすが妹だ。僕のことを良くわかってるね~。でもタヌキ寝入りしちゃお)

 メイは布団をめくると、グレイに起きるように言い渡した。


「こらっ、グレイ。何でタヌキ寝入りしてんの? わかってるんだから」

 バツの悪そうな表情を浮かべて、グレイが寝床から体を起こす。

「一度布団の誘惑にはまっちゃうと何かこういう事しちゃうんだよね。メイはわかってくれてるだろ」

 仕方がない双子の兄だと思いながらも、やはり心配なので看病を始めた。

「あっ、そうだ。グレイ起きているんだったら薬草入りのお茶を飲んでね。ハイ」

 メイがグレイにお茶を手渡す。

「ああ、ありがとう」


 ノドを鳴らして一口飲んだ……そして――

「にっが~~~~~~!!!! 薬草ってここまで苦かった!? うわ~~~~」

 トムが多分そんなものだろと言った。

「そりゃ薬の草っていうんだから苦いんじゃねえのか?」

「一気よ! 一気に飲んだ方が苦い思いは一回ですむって!!」

「ぐーーーーっといけば平気よ。いっちゃえ、グレイ」

 メイとデュアにけしかけられたので、グレイは本当に一口で飲み干す。

「ぷはー、ぜいぜい。にが~~っ……。けど飲みきった~~っ」


 

 メイが心配そうにグレイを見つめていた。

「後は治るのを待つだけね。先に寝なよ、ね?」

「そうだな早く治すよ。次にすべき事が後回しに。ごめん、僕の不注意のせいで……」

 怪我や状態異常も謝られても仕方がない。メイだけでなく、みんなに気にしない様に言われてしまう。

「そーゆーことは言わなくていいの! さっさと寝・て! ホラホラ」

「う……ん。おやすみ……ぐう」

 グレイがとても早く寝たので、メイはビックリした。

「あら、もう寝ちゃった。早いわ」


「薬草が効いたのよ。あたしも疲れちゃったし寝ていい?」

 トムはデュアの体がどこかダルそうに感じて肩もみを提案する。

「そうだな、みんなご苦労様だよ。肩もんでやろうか?」

「ううん、いい。眠たいから寝る。おやすみ」

 微妙に残念そうな表情をするトム。

「あ……ああ。おやすみ……」

 メイは寝床につこうとしながらも、二人の様子を見ていて焦れったいと思っていた。


(あぁ~あ、デュアったらまたトムの好意を断ってる。ったく、気付いたかなって思った時でも……いつまでもにぶいわあの子)

 トムも気づいて欲しいとやきもきしている。

(デュア~~、オレの好意わかってくれェ)

 メイがトムの気持ちを察して、優しく言い聞かせた。

「デュアも眠そうだからあたし達も寝よっかトムッ。あの子とっても鈍いから気長に行きなよ。ね?」

 トムの顔が赤くなる。

「なっ……何でわかんだよ。オレ、そんな風に見えるのかなぁ……」


 メイは今さら!? と思いながらも、トムにあんたは顔に出やすいのっと指摘した。

「思いっきり見えるわよ、バ・レ・バ・レ。もうグレイにもバレてるって!! 顔にデュアが好きって書いてあるのよ! もうコクっちゃえば? 二人見てるとほとんど進展しないからイラつくのよっ」

 トムはそれが出来るほど、まだ勇気を持てていないようだ。

「ば……出来るワケねーじゃん。ホラッ、顔が火照ってきたーーっ」

「んっ、もう! そんなだからいけないのにバカッ。ほらもう寝よっ」

 メイに話を打ち切られてしまった。

「おやすみ……」

「おやすみ」

 


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