第17話 間宮 良介 act 10~Strategy of the friend~
何とか最終の電車に間に合い乗り込んだ。
最終だけあって乗客は少なかったが、その少ない乗客全員がチラチラとこちらを見ている。
そこで初めて自分の恰好に気が付いた。
あぁ・・・そりゃ気になるわな・・・
間宮はそんな事を思いながら、電車の扉に頭を押し付けて無気力な目で外の景色を眺めた。
周りが気にしていたのは、全身ずぶ濡れの恰好だったからではない。
間宮の着ている服が血まみれだったからだ。
抱きかかえた時、流れて止まらない優香の血が付着した服を着替える事もせずに電車に乗り込んだのだから、周りが騒ぐのは当然だった。
だが間宮はそんな事は一切気にせずA駅まで沈黙のまま電車を降りた。
自宅へ帰宅した間宮は、携帯と財布を床に投げ捨てて、壁にもたれかかりズルズルと背中を滑らせて座り込んだ。
まだ、全く現実を受け入れられない。本気でこれは悪い夢なんだとさえ思っていた。
もう何もする気など起きらなかったが、一つだけどうしてもやらないといけない事を思い出して、床に転がしてあったスマホを手に取って実家の番号をタップした。
「もしもし・・・俺・・・」
ーおう!何か最近遅くに電話してくる事が増えたな。ー
「わるい!早急に連絡しないといけない事ばかりだったからな。」
ーええんやけど、んで?今日も急用なんか?-
「あぁ・・・次の週末に帰るって話なんやけどな・・・」
ーん?おぅ!準備は順調やぞ!あ!そうや!優香さんって肉料理か魚料理どっちが好きなんや?オカンが悩んでてなぁ。ー
「その事なんやけど、挨拶しに帰るって件を中止にしてもらいたいねん・・・」
ーは?なんでやねん!?ケンカでもしたんか?-
「そんなんちゃうけど・・・」
ーなんやねん!どうせお前が悪いんやろ?早いとこ謝って仲直りしてこい!-
「だから!ケンカなんかじゃないって言ってるやろ!」
ーじゃあ!なんやねん!説明しろや!ー
「だから!だから・・・・優香はもうおらんねん・・・・」
ーお前、まさか婚約破棄して別れてもうたんちゃうやろな・・・-
「違う・・・優香がな・・・」
ーおぉ!ー
「死んでもうたんや・・・・」
ー・・・・・・・・・-
「親父?聞いてるか?」
ー良介ー
雅樹の声のトーンがぐっと下がったのが分かる。
ーお前・・・言っていい冗談と、言うたらあかん冗談の区別もつかんのか?-
「冗談なら良かったんやけどな・・・」
ーまだ言うか!そんな事あるわけないやろ!ええ加減にしろよ!バカ息子!!-
「ほんまや!今日!俺の目の前で交通事故で死んだんや!俺が・・・俺が殺したんや!」
ー・・・・・・お前が殺したって・・・・どうゆう事じゃ!事と次第によっては、ただじゃ済まさんぞ!良介!!-
「とにかく!そうゆう事やから!!」
ガシャン!!!!!
間宮は雅樹との会話を一歩的に切って、スマホを壁に思い切り叩きつけた。
叩きつけられたスマホの液晶が砕け、ボディーも真っ二つに割れて床に散乱した。
そんなスマホを全く見ずに、間宮は無気力な目で天井を眺めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「おい!松崎!」
デスクワーク中に間宮の元共育役の先輩が、松崎を休憩室へ呼び出した。
「なんですか?」
呼ばれた場所へ向かい、先輩達にそう聞いた。
「いや、間宮の奴何してるか知らないか?」
「え?出社してないんですか?」
「あぁ、もう三日目なんだよ。さっきから携帯に電話してるんだが、繋がらないってか、電源が入ってないんだよ。」
間宮が無断欠勤なんて腑に落ちない。
あれだけ仕事に打ち込んでいたのを知っているだけに、無断欠勤なんてありえない。
「わかりました!今日仕事帰りにあいつの家に寄ってみます。」
「そうか!頼むわ!あいつあんなに頑張ってたのに・・・何か心配でな。」
「はい!先輩が心配してたって事も伝えてきますね。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ピンポ~ン!
・・・・・・・・・・
ピンポン!ピンポ~ン!ピンポ~ン!
・・・・・・・・・・
その日、仕事帰りに間宮のハイツに寄った松崎は、執拗にインターホンを連打するが、一向に反応がない。
まだ新人だからと、大学時代に住んでいたアパートにそのまま住んでいた為、オートロックなんて無縁の住まいで、容易に玄関まで来る事が出来るのだが、ここからは中々手強いそうだと感じた松崎は、玄関の隣に据え付けている電気の使用メーターを凝視する。
「この回り方は・・・・いるな。俺に居留守が通用すると思うなよ!バカめ!」
ドンドン!ドンドン!
「間宮いるんだろ!?俺だ!さっさと開けろ!!」
松崎は間宮が居留守を使っているのを確信して、玄関のドアを激しく叩いて、出てくる様に催促した。
部屋の奥から僅かに物音を聞いた松崎は、ドアを叩くのを止めて暫く待ってみる。
ガチャ・・・
開かずの扉が開いた時のような、重々しい動きで玄関のドアがようやく少しだけ開いた。
その隙間から間宮が顔を出す。
その間宮の顔を見て、松崎は声を失った。
休み前に見た間宮とはまるで別人のようだった。
髪はボサボサとゆうよりは、風呂に入っていないのか、髪がベタベタな艶があり、髭は伸ばし放題で老け込んでいるように見える。
「よう・・・・どうしたんだ?」
間宮が細々と話しかけるのを聞いて、我に返った松崎は重い口を開いた。
「どうしたじゃねえよ!無断欠勤なんてらしくない事してんじゃねえよ!」
「あぁ、わるいな・・・大丈夫だから・・・じゃあな。」
それだけ言って一方的に部屋に戻ろうと、玄関を閉めようとする。
松崎は慌てて右足を玄関のドアの間に挟んで、閉まらないようにした。
「おい!何、門前払いしようとしてんだよ!」
「うるさいな!お前には関係ないだろ・・・ほっとけって!」
そう言って間宮は無理矢理ドアを閉めようとするが、松崎は足で止めていたドアを両手で掴み、引き剥がすようにドアをこじ開けた。
そして改めて間宮に姿を見ると、顔だけ見ただけでも言葉を失ったのに、それを上回って一瞬呼吸を忘れて間宮の姿に絶句した。
「お、お前・・・なんだよ・・・その恰好・・・」
僅かに震える指を間宮に突き刺して、間宮の姿を問いただす。
松崎が絶句したのは、間宮の着ている服装の事だった。
皺だらけの泥だらけのワイシャツとスラックス・・・・
いや、松崎が驚いたのは、その服にベッタリと付着しているドス黒い色をした汚れだった。
「そ、その汚れって・・・・血じゃないよな?」
間宮は松崎の問いに無言で視線を落とした。
さっきまで間宮の対応に腹が立っていて気が付かなかったが、今の間宮には生気が感じられない。まるで亡霊を見ているようだった。
松崎は一瞬その姿に怯みそうになったが、立ち尽くす間宮の両肩に手を当てて、そのまま部屋に押し戻して松崎も部屋へ入り玄関を閉めた。
それから俯いている間宮に、静かに呟くように聞いた。
「間宮・・・・何があったか全部・・・話せ・・・」
「・・・・・・・・」
松崎の問いに何も答えずに、テーブルとベッドがある居間へ移動して窓際の壁に凭れた。
よく見るとそこだけ妙に汚れが目立つ、恐らくずっとそこに座っていて殆ど動かなかったのだろうと推測出来た。
松崎も居間まで入り込み、部屋を見渡すと床に砕けたスマホの残骸が散乱していた。
だから繋がらなかったのかと理解して、塞ぎこむ間宮を見下ろしてすぐに疑問に思っていた事を聞いた。
「優香ちゃんはどうしたんだ?殆どここで一緒に生活していたんだろう?」
そう質問すると間宮の肩が僅かに反応した。
やはり彼女と何かあったのだろう。しかしこの荒れ様は尋常ではない。
確か週末に結婚の挨拶をする予定だったはずだ。
もし、親の許しを得られなかったとしても、ここまで荒れる事はないだろう。
それじゃ・・・何故なんだ?
松崎はあれこれと考えていると、間宮が重い口を開いて、ボソボソと話だした。
「あ、あいつがさ・・・」
あいつってのは優香の事なのだろう。
「あぁ!優香ちゃんがどうしたんだ?」
「死んじまったんだ・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・は?」
今、こいつ何て言ったんだ・・・・確か・・・・し・・・・・え?
「悪い・・・もう一回聞いていいか?」
もう一度、話せと言われた間宮は、話し出すまで無表情だった顔を辛そうに歪めた。
「だから!優香が死んだんだよ!」
声を絞りだす様に、それでいてどこか投げやりな感じで香坂が死んだ事をもう一度松崎に告げた。
「ふ、ふざけんなよ・・・言っていい冗談じゃねえだろ・・・・」
「・・・・・・」
松崎の訴えに対して、無言で答える。
その無言が冗談などではないと確信出来てしまった松崎は、膝を畳に落として愕然とした。
「な、なんでだよ・・・」
掠れるような声で死因を聞く松崎に、間宮は詳細を話すのを拒否するように一言だけ答えた。
「交通事故で俺の目の前で死んじまった・・・・」
「・・・・・・・死んじまったんだ・・・・」
ショックだった。あんないい子が死んだ?
何であの子が死なないといけないんだよ・・・
視線が定まらない状態で、香坂の死を受け入る事が出来ない松崎は、両膝を立てて、その上に頭を乗せて沈んでいる間宮を見て思った。
自分ですらこれ程のショックを受けているんだ・・・間宮がこうなるのは当然なのかもしれないと。
それから2人はそれぞれに考えを巡らせて、沈黙が流れた。
どれくらいそうしていただろう・・・
お互い茫然をしていると、松崎はふと気になった事が頭の中を過った。
確か無断欠勤して三日目のはずだ。
それなら・・・・
「なぁ、葬式とかお通夜はどうしたんだよ。」
「・・・・・行ってない。」
「な、何で!?お前がいかないなんてあり得ないだろ!」
間宮が一切葬儀に参列していないと聞いて、松崎はあり得ないと猛抗議した。
「どの面下げて参列しろってんだよ・・・・俺が優香を殺したんだぞ・・・」
自分が香坂を殺した・・・その台詞を聞いて松崎はさっきまでのざわついた感情が急に落ち着くのを感じた。
恐らく、間宮はその事で苦しんでいるから、今の現状があるのだろうと察したからだ。
「何があったのか聞かせてくれないか?」
訴えるわけではなく、あくまで柔らかく頼むように間宮にそう言うと、間宮は少し考えてから、ゆっくりと口を開いてあの日の事の説明を始めた。
事故の事を最後まで聞き終えて、2人のいるこの狭い部屋を沈黙が支配していた。
台所の蛇口から水の雫が落ちる音が、妙に耳に響く。
松崎は雫の音が聞こえる台所中心に周りを見渡した。
つい最近までこの部屋で、2人は幸せな時間を過ごしていたのだ。
そんな空間にいきなり1人残されるだけでも辛いのに、その最愛の人を自分が殺したと責めているのだ。人格が腐ってしまっても仕方がない事なのかもしれない。
だが・・・・
「大体は何があったかは理解した。確かにショックな事故だと思うし、自分を責めてしまうのも分からなくもない。でもな!」
「その先はいい!そんな事言って貰っても俺自身が納得なんて出来ないから・・・」
松崎は、間宮のせいで香坂が死んでしまったわけじゃないと話そうとしたが、途中で遮断されてしまった。
原因や内容は全然違うが、自暴自棄とゆうかそんな感情に苛まれる事は度々ある。だが、今回は人間の死だ。しかも最愛の女性の死に関わる事だ。
間宮の性格からすると、下手をしたら一生引きずる事だって十分考えられる。
何とかしないといけない・・・そう黙り込んで考え込んでいると間宮の方が話を続けてきた。
「俺さ・・・このまま呑気に生きていていいのかな・・・」
ゾッとした。この言葉を聞いて初めて死を身近に感じた。
気が付くと間宮に近づき、襟元を掴んで間宮の顔を自分の目の前まで引き寄せて睨みつけていた。
「お前・・・今度そんな事言ってみろ!俺がぶち殺してやるからな!そうなったら、俺はお前のせいで殺人犯になって人生終わりだ!」
間宮にそう怒鳴り散らすと、掴んでいた手を振りほどいて,あいつも俺を睨みつけた。
「じゃあ、どうしろってんだよ!俺が優香を殺したのは事実だろ!それをあいつの親父さんにも言われたんだからな!」
「え?」
間宮が辛そうに僅かだが目に涙を溜めてそう訴えかけるのを聞いて、体が硬直して唖然とした。
「お前・・・優香ちゃんの親父さんのそんな事言われたのか?」
「あぁ・・・お前が優香を殺した。娘を返せって・・・もう二度と顔を見たくない、通夜や葬式にも来るなって言われたよ・・・・」
それはあんまりだ・・・確かに娘を事故で亡くしたのだからショックなのは当然だ。だが、本当に娘を殺した犯人ではない間宮に、婚約者を目の前で死なれた人間にゆう事なのか?!
間宮はその事実を松崎に告げると、また塞ぎこんでしまった。
これは簡単ではない。トラウマになっても仕方がない程に打ちのめされている間宮を見て、松崎はある覚悟を決めて蹲る間宮の視線の高さまで座り込んだ。
本当は今すぐにでもその父親の所へ怒鳴り込みたい衝動に駆られていたが、その感情を必死に押し殺して、松崎はある提案をした。
「今週いっぱいだ。それまでは俺が責任をもって、お前が休んでいても解雇されないように手回しをしておいてやる。」
「・・・・・・・・・・・」
間宮の居場所を確保する為に協力すると宣言した松崎だったが、間宮からの反応はない。
「簡単にお前のせいじゃないなんて、軽口叩こうとして悪かった。でも、お前は立ち直れると信じてる。また一緒に仕事しようぜ!待ってるからな・・・」
松崎は間宮の返答を待たずに、そう告げて一方的に部屋を出た。
間宮の自宅は二階建てハイツの二階の角部屋だ。
二階から階段を下りて、間宮の部屋を見上げる。
はぁ・・・
らしくない事をしたと溜息を吐く。本来松崎は人間関係は浅く広くを意識して生きてきた。他人に深くかかわるとろくな事がなかったからだ。
だから他人には一線を張ってきた松崎が、こんな事をするのは本当に珍しい事だった。
「あいつが俺にとって他の奴とは違うって事なのかな・・・」
そう独り言を呟いて松崎は帰宅した。
翌日出社して、宣言通り間宮の上司や関係者に頼み込み、必ず週明けには出勤してくるから、無断欠勤ではなく連絡を受けている様に総務に取り計らって貰うように頼み込んだ。
実際、普通に考えたら無理がある提案だったのだが、この数年、間宮の働きがかなり評価されていて、退職されるのは会社的に困ると判断され、松崎の要望を受理してくれたのだ。
これで週明けに間宮が出勤しないと自分の立場が大変な事になるのは、重々承知している。
だが、それこそが作戦でもあった。
自分が出社しないと俺の立場が危うくなる事に気が付かないはずがないと踏んでいた。
これで出社してこなかったら、間宮にとって自分は浅い存在だったのだろう。
勿論あいつの為にした事だが、同時に間宮にとって自分がどれほどの存在なのか知りたくなったのだ。
あいつが本当の意味で彼女の事を大切に思っているなら、きっと・・・・
そう願いながら、会社への協力を取り付けた事を簡単に纏めて間宮にメールを送信した。
レスは返ってこなかったが、もう間宮を信じる事以外松崎に出来る事はない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翌週、間宮がいつも通りの時間に出社てきた。
担当部署に入ると、直属の上司に謝罪して、それから先輩達、関係各所に頭を下げて回っていた。
そして最後に松崎の元を訪れた。
「よう・・・ちょっと時間いいか?」
「おう!んじゃ、いつものとこ行くか。」
そう話して2人は自販機が設置されている休憩場所へ向かった。
「とりあえず、あれだ・・・好きなの飲めよ・・・」
到着して自販機に小銭を入れて、照れ臭そうに頭を掻きながら自販機に視線を向けて飲み物をすすめた。
「え?なに?これでチャラとか言わないよな?」
ニヤニヤしながらそう言うと間宮は苦笑いした。
「わかってるよ。今度酒でも奢るから。」
それじゃ遠慮なくと缶コーヒーのボタンを押して取り出した。
お互い並んで椅子に座り松崎が珈琲の缶を突き出した。
「ま!お帰りって事で!」
「あぁ!心配かけて悪かったな。それと助かったよ!ありがとう。」
間宮はそう感謝して缶を突き合せた。
初めて間宮の顔を見てからすぐにでも突っ込みたかった事を、ようやく聞いてみる事にした。
「で!何でお前の顔・・・そんな傷だらけなんだよ・・・」
「ん?まぁ・・ちょっとな・・・そんな事より、今日からまた仕事頑張るよ!迷惑かけた分、取り戻さないとだしな!」
間宮の部屋から出て、昨日までの間に何があったか気になったが、間宮がそんな言い方をする時は、何を言っても話てくれないって事は、これまでの付き合いで分かっている。
だから、これ以上聞くつもりはないが・・・
「また、話す気になったら聞かせてくれよな・・・」
間宮が空き缶を捨てて、自分の部署に戻ろうとした時に呟くように言った。
「ん?なんか言ったか?」
「んにゃ!別に!さて、今日も頑張りますかね!」
「おう!!」
松崎は間宮が見えなくなってから、ガッツポーズをとった。
帰ってきてくれた!あいつ帰ってきた!
それが帰ってきた事実と、あいつの中で自分の存在が小さい物ではなかった事を証明された事が嬉しかったのだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「・・・・・・・・・・月並みだけどさ。」
「その月並みってのは聞きたくない。今まで色んな奴に聞かされてきたからな。」
あの日から6年と呟く様に言ってから、お互い色々な事を思い出していた。
間接的にしか知らない間宮の苦しみ。
でも、ここまで苦しまないといけない事なんてしていないのは知っている。
だから私も彼に姉が死んだのは、良ちゃんのせいじゃないと言いたかった。
今日、墓地で待ち伏せまでして会いたかったのは、これを言う為だったのに、拒否されたのは少しショックだったが、
それだけ彼の中で深刻な問題として生きているのだと痛感したから、無理に話すのを止める事にした。
間宮はゴソゴソとポケットから財布を取り出して、一万円札をテーブルに置いた。
「悪いけど、今日は帰るわ。釣りはいらないから。」
そう言って立ち上がろうとした。
「待ってよ!私が誘ったんだから、こんなのいらないよ!」
優希は一万円札を間宮につき返しながらそう言った。
「いや、でもな・・・」
「墓地からのタクシー代とか出してもらってたんだから、ここくらい払わせてよ。その代わりって言ったら何なんだけど・・・」
そこまで言うと優希は少し俯いて歯切れが悪くなった。
「ん?なんだ?」
「また会って欲しいから、アドレス交換してくれないかな?」
「・・・・でも・・・」
優希からの申し出に少し困惑していると、優希がダメだしのように話を続けた。
「それとも、俺に会いたかったら、また墓地で待ち伏せしろって言うの!?」
「ングッ!?わ、わかった・・・」
それを言われると辛いとこがあった為、優希の申し出を受ける事にした間宮は、素直に自分のスマホを取り出した。
「ん!ありがとう!また連絡するね。」
お互いのアドレスを交換すると、満面の笑顔を間宮に向けてそう言った優希の顔が一瞬優香とダブってしまい、逃げる様に間宮はおやすみと告げて店を出た。
外に出ると、たいして飲んでいないのに、寒さをあまり感じずに妙に暑いとすら感じたほどだった。
正直あまり優希には会いたくなかった。
もちろん彼女自身が嫌いだとかって訳ではない。
自分でも分かっているからだ、このままではいけないと。
だから自分なりに優香の事を整理しようとしている時に、彼女と関わるとどうしても優香の事で頭がいっぱいになってしまうからだ。
本気で前を向かないといけない時なのかもしれない。
でもここにいて、それが出来るとは思えない。出来るのならとっくに出来ているはずなのだから・・・・
それなら・・・・




