第18話 未遂と希望
ピンポ~ン!
神楽優希と再開した日の週末の昼下がり。
間宮は何やらラッピングされた大きな荷物を抱えて、とあるマンションを訪れていた。
ーはい!-
「あっ!間宮です。」
ーおぉ!すぐ開けるからちょっと待ってて!-
そう返答がきてすぐにインターホンが切れた。
切れる間際に後ろから元気な赤ちゃんの声が聞こえて、間宮はその声に優しく微笑んだ。
ガチャッ!
「いらっしゃい!よく来てくれたな。」
「こんにちわ!東さん。」
間宮が会いに来た人物とは、優香の先輩だった東だった。
東は間宮の顔を見るなりジッと見つめる。
「な、なに?俺の顔に何か付いてる?」
思わず後退りしながら、見られている理由を聞いた。
「ん?いや!前に会った時より元気そうだなって安心してたんだ。」
「あ、ありがとう・・・・です。」
見られていた真相を聞いた間宮は照れ臭そうに後頭部を掻いて妙な礼を述べた。
東は間宮と会う度に、表情を真剣に見つめてくる。
初めの頃はそれが鬱陶しいなんて思ってたりしていたが、本当に自分の事を心配してくれているのは、誰よりも分かっているから止めて欲しいとは言えなかった。
何故、東がそんな事をずっと気にしているのには理由がある。
それは東と今もこうして親交がある原因でもあるのだ。
間宮は東に大きな恩がある。多分、死ぬまでに返しきれない大きな恩が・・・
あれは優香が事故で死んで絶望の底にいた時の事、松崎が部屋を訪れた翌日の出来事までさかのぼる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
松崎に待っていると告げられて、色々と一人で考え込んでいた。
これでも大進歩だった。あいつが来るまでは、まるで時間ごと止まっているのではないかと錯覚する程、頭が全く働かずに何も考える事が出来なかったからだ。
でも頭が働くようになったが、決して良い事とは限らない。
実際、考え出した事はとても酷いものばかりで前を向くどころか、自分への憎悪しか感じられなかった。
「会社・・・仕事か・・・・」
そうポツリと呟く。優香との未来の為に頑張ってきたんだ・・・
それを無くしてしまったのに、頑張る意味があるのか?
本当に俺は生きていていいのか?
優香・・・俺は・・・どうしたらいい?
一番好きな彼女の笑顔が頭の中にハッキリと現れた。
それから最後の言葉を話したあの表情の彼女が現れる。
間宮は咄嗟に頭を抱えて蹲る。
ポツポツポツ・・・
窓から雨が当たる音が聞こえてきた。
その音があの日を連想させてしまう。
気が付くとフラりと立ち上がり、足を引きずるように歩き出して部屋を出ていた。
頭はまた仕事をするのを拒否するようにまともに働かない。でも体はゆっくりだが真っ直ぐに目的地へ向かって進んでいる。
目的地と言ったが間宮自身どこへ向かっているのか分かっていない。
ただ導かれるように体が勝手に進んでいる感覚だった。
雨の中トボトボと歩いてA駅から電車に乗り込んだ。
もう21時前だ。平日にこの時間だと反対の上り線は帰宅する乗客で混んでいるが、逆に都心方面の下り線は、ガラガラの状態だった。
間宮はシートが空いているにも関わらず、いつもの日常のように壁際に立っている。壁についた手の間にあるスペースにはもう彼女はいない。
その空間がやたらと寂しさと冷たさを感じる。
電車が到着してドアが開くと間宮はまたトボトボと歩き出して電車を降りた。
降りた駅は優香の住んでいる場所から、最寄り駅になるV駅だった。
傘をさして足元を見つめながら、優香の家の方向へ歩き出す。
俺はどこへ向かっているのだろう。あそこまで拒絶された香坂家へ向かうつもりなんだろうか・・・
無意識に動き続けている自分の両足をじっと見つめながらそんな事を考えていると、まだ香坂家までは距離がある所で足が止まった。
止まった事を確認した間宮は、顔を上げて周りを見渡した。
「ここは・・・・」
立ち止まった場所は、優香が車に跳ねられた事故現場である交差点だった。
雨はまだ振り続けている。その雨があの日この場所で起きた惨劇を鮮明に思い出さされ酷い頭痛に襲われて、間宮は傘を手放して両手で頭を抱えて蹲った。
そっか・・・そうだよな・・・・
分かってる・・・・俺は・・・お前のそばに・・・・
頭痛が急に治まり蹲っていた間宮は、足元に視線を向けたままフラりと立ち上がった。
そして顔を下に向けたまま、目線は目の前を走る車に向ける。
数台の車が走り去った後、大型トラックが目の前を通過しようと間宮の手前に差し掛かった時、間宮は口元を僅かに釣り上げて車道に向けて足を前に出した。
パパパアァァァン!!
トラックの大きなクラクションが鳴り響く。
タイミング的に重量が重いトラックでは制動距離が足りない。
このままだと間違いなく間宮を跳ねてしまう状況だった。
そんなトラックのクラクションを無視して間宮は更に、足を一歩前に出して完全に体を車道に出した。
今・・・・そっちに行く・・・待ってろよ、優香・・・・
ギギギギキキキィィィィ!!!!!
トラックの急ブレーキで発生したタイヤのスキール音が響く。
間宮はトラックの運転手が、叫んでんいる表情を目に焼き付けるように見た。
これでまた会えるよな・・・
間宮が体の力を抜き優香の笑顔を想像して、死を完全に受け入れた時、間宮の肩を誰かが鷲掴みした感覚を感じた。
その感覚がある肩を物凄い力で引っ張られて、間宮の沈めたはずの意識が戻されて目を丸くしていると、体を歩道側に放り投げられた。
ズザササアアァァァ!!!
強引に投げ飛ばされた間宮は、成す術なく尻餅をついて歩道に崩れ落ちた。
「ばっかやろう!!何やってんだ!てめえ!!」
死を覚悟して抜いた体の力がまだ戻らずに、今更のように体が震えだして、投げ飛ばされたまま動けずにいた間宮の耳に、トラックの運転手からの罵声が響いた。
「すみません!こいつ酔っぱらってて!本当にすみませんでした!」
次に、恐らく自分の事を投げ飛ばした奴が、運転手に謝罪している声が聞こえてきた。
それからトラックが急加速して走り去って行くのを見届けて、俺の前に立っている男の姿を見上げた。
車道を背後に立っていた為に逆光になって、その男の顔が見えない。
でも、聞き覚えのある声だったのには気が付いていた。
ゴッッ!!!!
男は間宮に何も言わずに近づいて胸倉を掴み、強引に立ち上がらせて殴りかかった。
一発・・・二発・・・三発目がまともに左頬に入ったのと同時に、掴まれていた胸倉を離した為、間宮はまたアスファルトに倒れ込んだ。
「おい!今何しようした!?答えろ!何しようとした!?」
男は険悪な口調でそう間宮に問いただした。
「答えろよ!!!」
間宮は聞かれた事に、無言で返すと男は更に大きな声で怒鳴って、また間宮を殴った。
逆光の原因になっていた車がなくなった為、怒鳴っている男の顔を確認する。
倒れ込んでいる間宮の前に立っていたのは間宮同様、雨に降られてずぶ濡れになった東だった。
死ぬ事を邪魔したのが東だと知ると、間宮はゆっくりと立ち上がって東を睨みつける。
「死んで優香の所へ行こうとしただけだろうが!ほっといてくれよ!」
ゴッ!!!!
間宮がそう叫ぶとまた東の拳が顎先へヒットして、立ち上がったばかりだった間宮の体がまたアスファルトに倒れ込んだ。
「全く、俺の見込み違いの女だったみたいだな!こんな奴に惚れるとか笑わせんなっての!」
東が倒れ込んでいる間宮を見下ろしながら、香坂の事を罵った。
倒れ込んだまま動かずにいた間宮は、東の罵倒先が自分ではなく香坂に向けられ、ピクリと肩が反応した。
そのまま無言のままで立ち上がり、東を睨みつける間宮の顔は憎悪に満ちた目をしている。目を合わせた東はあまりの鋭く殺気立った目に一瞬怯む動きを見せたが、すぐに負けないように間宮を睨みつける。
「どうした?何か文句でもあんのか?」
挑発する動きを見せながら、ニヤリと笑みを浮かべる東。
本音はヤバいと自分自身の警告音が鳴り響いていた。
それだけ今の間宮の目は危険な状態だったのだ。
「俺はいい・・・俺は何を言われても仕方がない事をしたから・・・でもな・・・」
一歩、また一歩と東との距離を詰めながら、間宮が東を刺すような声色でそこまで言うと、間宮は構えを作り東を目掛けて右足に力を込めて一気に距離を詰めた。
「優香の事を侮辱するのだけは絶対に許さねえ!!!」
ゴッ!!ドッ!!ゴンッ!!
間宮は叫びながら東に顎先に一発拳をねじ込み、前傾姿勢になった東の背中に両手を回し間髪入れずにみぞおちに膝を叩き込む。
たまらず、悶絶の表情を浮かべながら崩れ落ちようとした東の頭を両手で鷲掴みし、仕上げと言わんばかりに反対の膝を東の鼻面に蹴り上げるように強打させた。
流れるような強烈な三連打を浴びた東は、両膝を地面につき鼻を強打されて大量に流れ出した鼻血を手で押さえて動けなくなってしまった。
「オラ!優香に土下座して詫びいれろや!」
完全にスイッチが入り大阪人特有の言い回しで、優香に謝罪を要求する間宮に対して、鼻で笑う仕草を見せながら立ち上がり口を開いた。
「は?詫びだ?馬鹿言ってんじゃねえ!優香に謝るのはお前だろうが!」
口の中が切れ口内に溜まった血を吐き捨てながらそう言う東が、間宮の腹部に渾身の蹴りをお見舞いした。
ガハッ!!
苦悶の表情を浮かべて前かがみになりながら、東を睨みながら怒鳴った。
「何で俺が謝るんだよ!俺は優香を殺してしまった責任をとって、あいつがいる所へ行こうとしてるじゃねぇか!」
「それが馬鹿だっつってんだろ!優香が本当にそんな事望んでると思ってんのか!?」
「!?・・・・うるせえ!!」
ゴッ!!
間宮は返す言葉を見失い、東の顔に追い打ちをかける。
だが、誤魔化す事を良しとしない東は、すぐさま間宮の襟元を鷲掴みして文字通り逃げられない状況を作り出し訴えを再開させる。
「優香が望んでいる事なんて一つしかないだろ!お前の幸せ以外何があるってんだ!!お前だってそんな事分からないわけないだろ!」
そう言われてさっきまで入っていた力をダラっと抜き、抵抗していた腕を下ろした。
「お、俺にそんな資格あるわけ・・・・」
「は?資格!?お前は優香がいないと幸せを掴む権利すら無くす事になるってのか!?」
「よく考えろ!お前はあの優香が愛した男なんだぞ?そんな存在のお前が腐ると、優香の存在自体が腐っちまうんだよ!」
振り続けていた雨脚が更に強くなる。2人の流している血を雨が洗い流すように叩きつけるように降りそそぐ。
東の口調に僅かに震えを感じる。泣いているのだろうか・・・
だが、雨がその液体と同化してしまい、その事を確認するのは不可能だった。
「・・・・・・・・・」
間宮は東に対して反論する言葉が見つけられない。
そんな間宮の反応を確認して東は言葉を更に紡いでいく。
「俺が好きだった優香を汚すのはやめてくれよ・・・・頼むから・・・・」
間宮の両肩を掴んでいた東の腕がズルズルと下がっていき、完全に手が体が離れると、東は間宮の足元に崩れ落ちて肩を震わせた。
そんな東の頭の上から意外な言葉が聞こえてきた。
「お、俺は・・・・俺が・・・優香を侮辱していたのか・・・・」
東はその言葉を聞いてすぐに目の前に立っている間宮の顔を見上げる。
見上げた間宮の表情は、自分がしようとしていた事が間違っていたのを初めて本気で気が付いたのか、目を見開いてショックを受けている顔をしていた。
「コラーーー!!君達!そこで何してるーー!!」
そこに大声で叫びながら駆けつける人影が2人に近寄ってきた。
どうやら2人の乱闘を見た通行人が通報したらしい。当然と言えば当然の事なのだが・・・
その場で職務質問を受けて冷静になった2人は身振り手振りで、状況を説明してこの場を収めようとしたのだが、説得は失敗に終わり頭を冷やすとゆう意味で留置所へ放り込まれた。
我ながら何をやっているんだと思う。
身元引受け人を呼べばすぐに釈放と言われたのだが、お互い身内は近くにいなかった為、結局翌日まで留置所に拘束され、朝ようやく釈放された。
警察署を出てシャバの空気を吸い込む2人。
大きく吸って、大きく吐き出す。
同じ事を同時に行った2人は、お互いを横目で見て目が合った瞬間、何だか無性に可笑しくなって大声で笑いあった。
笑いあった2人に少しの沈黙が生まれたが、すぐに間宮が東に話しかけた。
「その、わるかった・・・それで・・・その、あ、ありがとう・・・」
素直に、でも照れ臭そうに謝罪と礼を述べる間宮を、東はクシャクシャに表情を崩した。
「おう!気にすんな!これから色々あるだろうけど、頑張ろうぜ!な!イテテ・・・・・」
東はそう言って間宮の肩をポンと叩いた。
正直昨晩の乱闘で体中に痛みが走って辛い状態だったのだが、体が自然と動くのに抵抗する気がおきなかった。
「あ!やっぱり痛むか?すまん、本気で殴ったりしたもんな・・・ほんと、ごめん!」
焦り顔で間宮が、痛みに引きつる東の顔を覗き込みながら、また謝罪してきた。
「それはお互い様なんだから、気にすんなって!」
「え?俺はたいして痛みなんてないけど?」
「・・・・・なんだよ・・・まるで俺が雑魚みたいじゃん・・・」
クククク・・・・あはははははは!!
2人はまた大きな声で笑いあった。
拳を交えて得る友情なんて、今時流行らない昭和のノリだった。
でも、やはりこんな関係は強固な友情が生まれるんじゃないかと、2人は口には出さないが、そんな友情を信じたいと思う昨日の雨が嘘のように、晴れ渡った朝だった。
「さてと!腹減ったし駅前のカフェでモーニングでも食べないか?」
「いいね!夜中に激しい運動したからな。」
「それ、聞く人間によっては誤解されるからな・・・」
駅前のカフェに移動して、オーダーを通して一息つく。
「ん?どうした?」
間宮が黙って東の顔を凝視している。昨晩殺気立った表情は微塵も感じられない。
「いや、今更なんだけど、何であんな時間にあそこにいたのかなって。」
「あぁ!優香の自宅にお邪魔して仏壇に手を合わせた帰りだったんだ。」
「アンタってほんとにマメだよな・・・」
聞けば葬式は勿論の事、通夜も参列したらしい。
本来ならば婚約者である自分がしないといけない事を、全て東が行ったと知って何だか申し訳ない気持ちになった。
「わ、わるかったな・・・暇人で・・・」
呆れたような表情を見て、東は口を尖らせて自虐めいた事を呟いた。
だが、間宮はそれを聞いて静かに頭を下げる。
「お、おい!」
「ありがとうございます。本来なら俺がしないといけない事だったのに・・・」
周りにいた客達が、横目で頭を下げる間宮を見ている。その視線に気が付いて慌てて顔を上げるように促すが、間宮は謝罪を止めようとしない。
東は溜息をついてテーブルに設置してあるアンケート用紙の裏に何やら書き込んで、その紙を頭を下げたままの間宮に差し出した。
紙に気付いた間宮は、頭を上げ差し出された紙を受け取り書かれた字を読む。
手渡された紙にはどこかの住所と施設名が書き込まれていたが、見覚えのない場所に首を傾げた。
「その住所と施設の名称は、優香が眠る墓がある場所だ。急な事故死だったんで、まだ埋葬はされていないんだが、ここで供養されるそうだ。」
「何でそれを俺に?」
「昨日留置所で優香のご両親に葬儀に来るなって言われたって言ってただろ?それじゃ仏壇に手を合わせる事も出来ないだろうから、せめて墓参りだけでもと思ったんだけど、余計なお世話だったか?」
「そんなわけないだろ!ありがとう!本当にありがとう!」
東の心遣いに本当に感謝しながら、そのメモを受け取って大切にしまった。
朝食を済ませて店を出たところで、東が間宮の正面に立ち真剣な表情を見せる。
「とりあえずお前は仕事を頑張れ!自殺までしようとした奴だから、新しい恋なんてすぐには無理だろうから、仕事に打ち込んで男としての自信を手に入れろ。」
真っ直ぐに間宮を射抜きながらそう進言する東の言葉が間宮の中にストンと落ちた。
「ん、そうするよ!でも!俺が本気になったら、東さんの会社が困る事になるかもよ?」
ニッ!と笑みを浮かべた間宮の表情に少し驚いた顔をした東だったが、ニヤリと笑みを返して宣言する。
「上等だ!俺も間宮の会社じゃ作れないシステムを作ってやるよ!」
お互い今後の展望を宣言して、固く握手を交わして別れた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「おお!これ凄いな!これで遊んだらウチの娘は天才になるじゃん!」
出産祝いに送ったプレゼントの包装と解いて、中身を見た東はテンション高く喜んでくれた。
「あはは!それは投資した甲斐があったかも。」
「ほんとね!今は本当に色々あるから凄いよね。ありがとう、間宮君。」
キッチンから珈琲を運んで来た、東の妻である洋子が礼を述べた。
「いえ!喜んで貰えてよかったです。」
間宮はそう言って運ばれてきた珈琲に口をつけた。
あの日から東とは良く会う機会が出来た。
その流れで洋子との相談を受けるようになり、東達が結婚してからも家族ぐるみの付き合いが続いている。
正直、東が幸せになるのは嬉しいもので、それだけでも自分が死なずに生きている価値があったと実感できた。
そんな間宮を横目に早速リビングの脇に置いてあるベビーベッドから、東夫妻の第一子である赤ちゃんを抱きかかえて間宮の側に連れてきた。
生まれたばかりの、所謂、新生児にはまだ早い贈り物だったが、今必要な物はもう大半が揃っているだろうし、足りない分は周りからプレゼントされているだろう。だから被らないように一才からを対象にした頭の活性化を促すおもちゃを間宮は用意して、それをプレゼントとして送ったのだ。
まだ目が殆ど見えていない赤ちゃんだったが、側に自分よりも大きな物があるのを気配で察知したのか、プレゼントの箱をジッと見つめるような仕草見せる。
「おっ!わかるのか?自分を高める物を気配で見つけるなんて、やっぱり天才なんだな!」
もうスタートから親バカっぷりを全開で発揮している東に、間宮と洋子は苦笑いするしかなかった。
それから間宮の目の前に赤ちゃんと連れてきた東は、優しい声色で赤ちゃんに話しかける。
「ほ~ら!良介おじさんだよ。パパの大切なお友達なんだぞ。優香も仲良く出来るよな?」
「・・・・・・・え?」
赤ちゃんの名前を聞いて、赤ちゃんの顔を覗き込んでいた間宮は、ハッとして東の顔を見た。
「ゆ、優香って・・・・」
「あぁ!俺達の大切な娘の名前だ。」
自分の娘に優香と名付けた事に驚いて、香坂の事を話そうとしたが、後ろに洋子がいる事を思い出して、慌てて口を閉じた。
「心配いらない!洋子は全て知っていて、この子に優香と名付ける事に賛成してくれたんだ。」
「マジで!?」
全てを知ってその事を了承したらしい洋子の方に振り向いた。
「はい、本当ですよ。普通は嫌がる事なのかもしれませんが、優香さんの事を必死に追いかけたからこそ、私が好きになった徹さんだと思ったから反対しませんでした。」
そうだ、普通なら昔好きだった女の名前を自分の子供に名付けるなんて反対するはずだ。
なのに、この女性は賛成したのか・・・・
それだけ東の全てを愛している証明なのだろう。
「それは凄いですね。本当にご主人を大切に想っているんですね。」
「はい!心から愛しています。」
洋子は恥ずかしげもなく、夫である東を愛していると言い切った。
何だか言われた間宮の方が顔を赤くする始末・・・
それだけ東には大きな魅力があるのだろう。
なら、何故優香は俺ではなく東を選ばなかったのだろうと、今更ながらに不思議に思う。
自分は東のような魅力がある男だとは思えない。自分の事なのだから自分が一番理解できている。
でももうその理由を確認する事は不可能だ。いや、知らない方が良いのかもしれないとさえ思う。
そんな事を考えながら、娘を取り囲む東夫妻を見て、あの事故から初めて少しだけ結婚に憧れを抱いた自分に気が付いた。
もう優香とそんな時間を過ごす事は出来ないが、もし本当の意味で前に歩き出せる日が訪れたら、自分もいつかこんな時間を過ごす事が出来るのかもしれないと、少し凍り付いていた感情を溶かしてくれた東達に心の中で感謝の気持ちを言葉にした。
ありがとう




