使いこなしてこそ
お久しぶりですねすみません!!!!しかし平成最後に間に合ったー!!!
ラウルス皇国を出発して約一日。
「………」
「………」
「…………マスター」
「……頼む、何も言うな…」
俺は、きれいさっぱり自信を無くしていた。
というのも、まあ、あれだ。俺が色々とセンスが無さすぎるせいで、全力でシロの足を引っ張っている状況なのだ。
ラウルス皇国に滞在している間にシロと一緒に冒険者稼業をしてみたが、少なくとも剣術のセンスは無いということは良くわかった。
現に今も、戦闘センスが欠片も無いらしい俺は、スライムやケルビアという鹿のような魔物を相手に苦戦を強いられたばかりである。
本当に情けない。シロはそれらを買い与えた短刀一本でサクッと倒した上に、ケルビアに関しては解体すら素早く済ませたというのに。
しかもスキル無しで。 ス キ ル 無 し で !!
まあおかげで質の良い素材が手に入ったし、なんと解体の仕方を教わることも出来てしまったけれども。予想通りのグロさでした本当にありがとうございました。
…この子、ステータス以上にハイスペックだよな。
というか、ちょっとおかしくないか? ステータス的には世界最強と言えるくらい強いはずなのに、何故こんなにも苦労して戦わねばならないのか。もっとこう、魔法でバーン!とか、スキルでドーン!とか出来ていいと思うんだ。
そう、魔法やスキルだ。
こんなにも戦闘に苦労しているのは、取得しているはずの魔法やスキルの使い方が分からない、というのが大きな原因だと思う。決して俺に戦闘センスが無いだけではないはずだ。
まあ、魔法やスキルを発動させるセンスは本当にからっきしのようだがな!
ヘルプによると、魔法は、魔力を体内に循環させて呪文を詠唱することで効果を固定・発動させるらしい。では、魔力の循環のさせ方は? 必要な呪文の内容は? ―――うん、分からん。
スキルは、攻撃動作をスキルとして確定させていれば、切っ掛けとなる必要行動(初動体勢)をとれば自ずと発動するらしい。ではその必要行動とは? そもそもスキルとして確定させるにはどうすればいい? もしくは、もうしているのか? ―――うん、まったく分からん。
そういえば、状態異常耐性や身体能力向上などのアビリティは、ちゃんと有効化しているのだろうか? メニューから設定するなど、何か作業が必要なのだろうか? ―――うん、さっぱり分からん。
「…インベントリは使えるんだよなぁ」
魔法やスキルはてんで駄目なのに、インベントリに関しては多少練習しただけで思考操作が出来るようになっている。己の技術かそういうシステムか、という違いではなかろうかと予想してはいるものの、本当のところは分かっていない。
何が悪いのか、今ある知識では理解しきれそうもないし、そもそも知識だけではどうにも出来ないような気がする。分からないことだらけだ。
程よく不親切だよな、ヘルプって。助かってもいるが今は困ってるぞ、森田氏。ヘルプに関してヘルプ状態ですよ、森田氏。
「はぁ…。ごめんな、シロ。足引っ張ってばかりで」
「…戦闘は、みな始めは怖いものだと聞きます。マスターは普通です。それに、現状では僕が対処出来ますので、問題ありません」
なんて頼もしい子供なんだ、シロ…っ!
って、ん?
「お前は、その…怖く無かったのか? 最初の戦闘」
今、シロは確かに「怖いものだ」と言わず「怖いものだと聞きます」と言った。つまり、自分の経験則では無いということだろう。これまでに何かあったんだな。
その推測が正しいことは、シロがそっと視線を下げたことで確信した。
「……僕は、」
「あー。やっぱりいいわ。言わんでいい」
「っ」
ただでさえ変化の少ない表情がどんどん消えていくのが嫌で話を遮ったのだが、今度は泣きそうな顔になってしまった。ああ、今のは俺が悪い。
しゃがんで下から覗くようにして目線を合わせると、左手でゆっくり頭を撫でた。
「今のは『無理に言わなくていい』って意味だから。ごめんな、言い方が悪かった」
「いいえ…」
訂正してみるも、顔は晴れない。うーん。
「なあシロ。何があったかは知らないけど、俺は今更お前を手放したりするつもりは無いからな? そこは安心していいぞ」
「え?」
「つーか、お前が俺の世話してくれなきゃ困ります! 俺一人で生きていける自信がありません!」
どやっ! …いやまあドヤるとこじゃないんだけどね。ぼっち無理宣言とか格好悪過ぎだからね、俺。
「…でも、僕なんかが」
「『なんか』っての禁止」
「っ。…僕、で、いいのでしょうか」
「うん。シロがいい」
「…!」
目をまんまるにしてこちらを見るシロに、俺はちょっと恥ずかしくなり、シロの髪をぐしゃぐしゃっと掻き混ぜてから立ち上がった。
不安があるみたいだがな、シロ。俺も不安なんだよ。誰かと一緒にいる温かさとか安心感を知ってしまったのだ、今更一人にしないでくれ。
腰に下げた剣がカチャカチャと鳴り、また頭を撫でた。
*
「はあっ!」
ザクッと肉を切り裂く感触と共にようやく角兎を討伐した俺は、死体の処理をシロに任せて道端に座り込んだ。
疲れた…。主に精神的に。
というか、身体的には今のところ全くとっていい程疲れが無い。チート級ステータスのおかげなんだろうな。体力あって良かった。
だが、ステータスが高いことと心の強さは別物だ。
身体的な能力はとんでもステータスが補ってくれるが、精神的な能力はそうもいかないらしい。思考の癖や傾向、性格、感情なんかは、この世界に来る前の俺となんら変わらない。
つまり、俺の心は、平和ボケした普通の現代人のそれでしかないのだ。
「はぁぁ」
手早く且つ綺麗に解体していくシロの手捌きをぼんやりと見ながら、つい大きく溜め息をついてしまう。
こんな調子で、一体いつになったら俺もそんな風にテキパキ捌けるようになるんだろうか。というか、そもそもそんな日は来るだろうか。
「はあぁぁぁー…」
「……マスター」
「ん? おお、終わったか?」
「…はい…」
んお。しまった。俺が溜め息ばかりついているから、シロに余計な心配と不安を与えてしまったようだ。
いかんいかん。保護者失格だ。しっかりしないと。
「ごめんなー、シロ。情けない主人で申し訳ない」
「!」
へらりと笑うと、シロは条件反射のようにブンブンと勢い良く首を横に振った。とても必死で、その目は俺の幻覚でなければ「そんなことない」と言っているように見える。自分の主人がネガティブになって、邪魔だ面倒だと捨てられでもしたら、とそういうことだろうか。
…だとしたら、学習しないな、俺。だから、こんなんじゃ保護者失格だってば。
「…ごめん。ありがとうな、シロ」
「! …はい…!」
よしよしと頭を撫でてやると、嬉しさを噛み締めるように微笑むシロ。それはもう花が綻ぶような、抜群の可愛らしさだ。
あー可愛い…シロさんほんと可愛い…。しみじみと、それこそ噛み締めるように撫でる。きっと今の俺の顔は、孫を溺愛するおじいちゃんのようにデレデレになっている事だろう。
もうね、可愛さに性別とか関係ないよね。うちの子可愛い。癒されるぅ…。
「よし! 癒された。満足です」
「?」
あっうん分かんないよね。でもそこがまた可愛くてよし!
まあ、それは置いておいて。
実は既にダンジョン出現予定地に到着しているわけなのだが、ダンジョンの入口や宿屋の設置場所を迷っていて、現実ではまだ何も出来ていないのだ。情報的には一応完成しているのだが、配置はどうするかなぁ。
さて、どうしたものか…。
「………よし」
ウィンドウを開き、ダンジョンに関する項目を開く。皇国に行って帰ってくるまでに設計して保存しておいたダンジョンを選び、マップを見ながら位置を調節し、[設置]を選択した。
「わ…!?」
「おおー」
データが構築されていくように、上に向かって緑の光が伸びる。塔のような巨大な建造物と、その入口付近に二階建ての建物が、光を消しながら下から順に出現していった。
なるほど、こういう風になるのか。
「シロ。この塔みたいなのがダンジョンで、こっちの建物が宿屋兼俺たちの家だよ」
「は…はい…」
「うん。じゃあ中確認しに行こう」
「え、あ…はい」
うーん。戸惑ってるなぁ。ま、しょうがないというか、そうだよなーって感じだけど。
さて、まずは宿屋部分から確認していこう。入ってすぐ前にあるのは勿論受付カウンター。すぐ後ろには休憩室兼事務所として、資料などの収納用の大きな棚にテーブルとソファ、簡易キッチンを備えた小部屋がある。
広さは良し。でも収納が少ないかな? 冷蔵庫代わりに小さめの魔導収納箱(空間拡張・内部時間停止の効果付き)と食器用にキッチンの上に戸棚を追加しよう。
開きっぱなしのメニューから設計図にさっと追加と変更を加えると、現実が書き換えられるように新しい家具が出現した。おお、便利だ。
「じゃ次は客室ね」
…返事が無い。あ、シロさん絶句なうだわ。手を引いていこう。
一階は男女別の浴室と客室が全部で4部屋。ベッドと荷物置きの小棚がそれぞれ二つ、書き物が出来るようにテーブルと椅子が1セット、カーテン付きの窓にパーテーションが一つという全て同じ間取りの二人部屋だ。
二階はその二人部屋が2部屋に一人部屋が6部屋。内容は一人用にしただけでほぼ同じ。問題は…うん、なさそうだ。
あーあ。こういうのはちゃんと使いこなせるんだけどなぁ。魔法とスキルはなぁ……はあぁぁぁぁ。仕方ない、気にしないことにしよう。
「よし。次はダンジョンだけど……」
混乱の極みにいるシロさんが可哀そうになってきた。ちょっと休憩したほうがいいかな。
「えっと…シロ? 大丈夫?」
「……マスターは…」
「うん?」
「マスターはやっぱり、すごい人なのですね」
それまでの苦悩顔から急に何かを悟ったようなすっきりした顔になり、真っ直ぐ俺を見上げてそう言った。
…ちょっと色気を感じた俺は変態かもしれない。反省しよう。




