小さい味方
ブックマークありがとうございます(土下座)
それからサクッと一週間。俺に新たな、そして初めての仲間が出来ていた。
「よーし、シロ。そろそろおウチ帰るぞー」
「はい、マスター」
俺の声に答えたのは、美しい銀髪に碧眼の少年―――奴隷のシロである。いつ、何故俺が奴隷を仲間にしたかと言うと、それは5日前に遡る。
*
ギルドで冒険者登録をして3日目の昼。依頼を一つ終え宿屋でダンジョンの調整をしているとき、ふと思ったのだ。
――― 俺一人で宿屋経営はキツくないか?
色々と考えたが、結局、自分のダンジョンの傍で宿屋を経営するのが一番いいという結論に至ったのだ。冒険者として働くよりも遥かに安全で、何より楽に稼げるというのが決めてだ。
宿はAPで建てられるから破壊不可能で安全だし、食事もAPで出せるから無理に作る必要は無い。しかも、冒険者などが「宿に泊まる」ということは「ダンジョン領域内に滞在する」ことになる。客がいるとAPが貯まる。
つまり、宿の売り上げだけでなくAPまで稼げるので収入はぐんと増える。楽だ。非常に楽だ。
しかし、問題は人手のなさ、そして人選の難しさにある。ダンジョンのことや俺がダンジョンマスターであることなど、俺の秘密を洩らす事無く働いてくれる人材が必要なのだ。普通に雇うのは少々難しい。
ではどうするか。簡単だ、奴隷を雇えばいい。
正確には、俺が奴隷を買い、その奴隷を従業員として働かせるのだ。
奴隷には特殊な首輪がつけられている。悪意や殺意を持って主人を傷つけようとしたり、主人の命令に背いたり、主人の不利益になる情報を洩らすような真似をすると首が締まるようになっている。下手をすると死に至る程の強力な首輪だ。
つまり、奴隷がそれを着けている限り、基本的に主人が奴隷に危害を加えられることも情報を洩らされることもほとんど無いのだ。
そうとなれば早速仲間を探しに(買いに)行こう!
というわけで、マリアさんに場所を聞きやって来ました。ラウルス奴隷商。
「いらっしゃいませぇ」
出迎えたのは、絶対いいものを食べまくっているだろうパンパンに肥ったヒューマンの男だった。媚びた態度と加齢臭が不快だ。
「あの、奴隷を一人買いたいんですけど」
「うむ? …失礼だが、紹介状か何か持っているかね?」
「あ、すみません、紹介されただけでして」
「うーむ」
「ギルドで受付嬢をしているマリアさんに紹介していただいたのですが…」
「あ、ああ! いやぁ、そうでしたか! どうぞどうぞ、ご自由にご覧になってくださいな!」
おお、手のひら返すの早かったなあ。最初は「こんな奴が奴隷を買いたいとかナメてんのか? ああん?」とでも言いたげな態度だったが、マリアさんの名前を出した途端ニコニコと手を揉みだした。凄い。マリアさん効果怖い。あの人、何者だ?
「して、何かご希望などは御座いますかねぇ? 種族とか能力とか」
「えっと、種族は何でもいいです。性別も問いません。年齢は、あんまり高すぎないと嬉しいです。他は、ええと、そうだな。…あ、戦闘か接客が出来るとよりいいです」
「ふむ…。分かりました。出来るだけ希望に沿った者を探してみましょう。少々お待ちください」
そう言って一度奥に引っ込んだ商人は、資料らしき紙を持ってすぐに戻ってきた。おそらく奴隷の個人情報が書いてあるのだろう。
「すみませんね。ではご案内しますので、どうぞこちらへ」
言われるがままについて行くと、細く差し込む光に照らされた薄暗い廊下の両側に、格子で閉じられた3畳程の部屋がずらりと並んでいた。牢獄か、遊女が並ぶ河岸見世のようだ。中は布団代わりだろう薄い布と、何に使うのか分からない(というか考えたくない)小さなたらい、そして鎖に繋がれた奴隷がいるだけの狭い狭い個室だった。
20部屋程通り過ぎただろうか。奥にやや広い部屋(と言っても8畳程だろう)が8部屋程あるのが見えた。中はそれぞれ4人の奴隷がいて、いずれも隅の方に座り込んでいた。
商人はその広い部屋の前で止まると、手に持つ資料を捲り出した。
「えーと、この辺にいるのがご要望にお応え出来そうな者らですな」
商人はあれがいくらだ、これがいくらだ、と理由を添えながら俺に奴隷を紹介していく。上は金貨7枚から下は銀貨30枚まで。種族も歳もバラバラだ。
しかし、どの奴隷も買う気になれない。大柄(身長2m以上で筋骨隆々)の男は怖いし、色気があり過ぎる女性はまともに見ていられないし、3歳や4歳の子供なんかは幼過ぎて仕事なんてさせられやしない。ペドフィリアではないし、小学生以下の子供の子育てなんてとてもじゃないが全う出来る自信はない。
ううむ。現代日本でぬくぬく生きてきた俺が奴隷を買うなんて、そもそも無理だったということだろうか。
「…ん?」
3つ目の広い部屋の前に来た時、隠れるようにそっと端の方にいる子供が目に留まった。白っぽい綺麗な髪だ。
何となく気になり、その子供にこっそりステータスサーチをかけた。
名前:no name
年齢:8
種族:ヒューマン
職業:奴隷
レベル:サムライLv.5
スキル:刀術/気配察知
魔法:無し
アビリティ:刀適正
固有:無し
この子供…。普通は早くて10歳にならないとジョブの発現は難しいらしいのに、この歳でジョブ持ちな上、既にレベル5とは。驚いたな。天賦の才ってやつか。
「如何しましたか?」
「あの、あの子は?」
「あ、ああ…あれですか。あの子供はですね、どんな扱いをされていたのか知りませんが、ここに売られるまでの記憶がごっそり抜けておりましてねぇ」
なるほど、だから[no name]なのか。…ふむ、俺の境遇(設定)に少しだけ似てるかな。主に記憶喪失のあたりが。
「痩せ細ってはいるが、随分と美人だなぁ…」
「ええ、ええ、そうなんですよ! 見た目はとても良いんです」
「あれ? 男の子ですか?」
「そうなんですよ、ええ! しかし、何故か買われても買われても戻ってきてしまうもんで困っているんですよ、ええ。美少年は需要がありますから、それでも買ってはいただけるのですがねぇ」
ふむ。ジョブ持ちで既にレベル5の白髪の美少年、か。ジョブ持ちなら鍛えてダンジョンに潜らせることも出来るし、ダンジョンの難易度・危険度を測るのにいいかもしれない。この歳なら覚えも早いだろうから、接客や経理を教えるのもいいな。
―――ひとりというのは、案外怖いものだ。
何事も共有することが出来ず、誰にも指図されたりしないのは楽だが、ふとした瞬間にぞっとする程寂しくなったりする。それこそ、世界に一人取り残されたかのように感じたりする。
そんな時間を、俺は少なからず体験した。だから多分、色んなことを一緒にして、感じて、弱音を吐ける、そんな「守る存在」が欲しいのだと思う。
要は寂しいのだ、俺は。
あと魔物怖い!! 一人じゃ無理!! 戦えません!!!!
もうね、実際に対峙するとスライムですらガクブルでしたよ。なんなんだろうな、あの魔物独特の雰囲気。弱いって分かってても手が震えたよ。…ああそうさ、俺はヘタレさ!! 笑えよちくしょう!!!
しかしまあ、この少年なら少しは戦闘が出来そうだし、弱い魔物としか戦わないから怪我することもないあまりだろう。是非一緒に戦ってもらいたい。仲間がいれば頑張れる気がする。
ぼっち無理。怖い。ヘタレでごめんよ…。
うん、よし。決めた。この子にしよう。
「彼にします」
「え、よ、よろしいんですか? 他にも沢山おりますが…」
「いえ。彼がいいんです」
「はあ…」
俺が折れないと分かったのか、商人は格子を開け中に入ると少年の腕を掴み、俺の前へと連れてきた。
奴隷から解放してやることは出来ないが、この子の生活は俺が守ろう。代わりに、悪いがこの子には俺の精神を守ってもらおう。
「あの、本当にこの子供でよろしいので?」
「はい。それで、いくらですか?」
「そうですねぇ…これには少しは稼がせてもらいましたし、銀貨19枚でいかがでしょう?」
やっす! 安いな、破格の値段だ。
「ちなみに最初は金貨11枚だったのですよ、ええ」
しかしそうか、買われては返されを何度か繰り返したのならば、ある程度納得はいく。売値の何割か(おそらく3割程度)で買われ、それに少し足した金額で売られるとなれば、その差額はすべて売り上げになるのだから。
まあ、もう帰ってくることは無いけどな。
「じゃあそれで」
「おお! ありがとうございます。ささ、早速主従契約を」
そう言って、首輪を俺に見せようと商人が少年の髪を掴む。
「…っ」
引かれた髪が痛いようで、少年が小さく息を詰めた。それを気にも留めず、さあ、と商人が首輪を引っ張る。苦しそうに少年が喘いだ。
この野郎…、今すぐぶん殴ってやりたい。もうお前のじゃねぇんだぞ、分かってんのかこいつ。
つーか、そもそも奴隷は商品であってこの商人個人のものじゃない。だから手荒に扱っていいはずがないんだ。…ああ、クソッ。
「…もうちょっと我慢な?」
なんとか心を落ち着かせ、安心させるように少年に笑いかけた。何のことか分からない様子だが別にいい。これもただの自己満足だ。
もう一度少年に微笑んでから、俺は腰の短剣で指先を傷付け、血を付けるのと一緒に首輪に魔力を流した。指が痛いです。
奴隷の主従契約は、奴隷が着けている首輪に微量に魔力を流し、血と名前を与えることで成立する。この契約は、正式な手続きをしない限りどんなことがあっても破られることはない。
さて、あとは名前か。
「……シロ」
ふと頭に浮かんだそれを口に出してみると、何だかしっくりきた。
「よし。今日からお前は『シロ』だ」
「…?」
「シロ。お前の新しい名前だよ」
白い髪だから、シロ。…安直とか言うな。俺のネーミングセンスは壊滅的なんだ、仕方ないだろ。
「これからよろしくな、シロ」
はい、と口が動いたが声は出ず、シロはきゅっと口を結ぶと俺に深くお辞儀をした。それを見て、俺はここを出たら先ず水と栄養たっぷりの飯をあげようと心に決めたのだった。
*
というわけでシロはウチの子になったわけだが、あの後買い物をしたりシロに飯を食べさせるのがまあ大変だった。
奴隷は基本的にまともに人間として扱われないようで、奴隷の主人的には買った時の元が取れればそれでいいようだ。“奴隷は物”という扱いが普通で、ギリギリ人間程度くらいの認識らしい。酷いもんだ。
犯罪奴隷ならまだしも、借金奴隷まで酷い扱いだと思っていなかった俺は、それなりにショックというか衝撃を受けた。犯罪者は戦闘奴隷として買われ戦闘で使い捨てにされることが多く、性奴隷なんかはヤリ殺されることもあるらしい。怖い世界だ。
考えなかったわけではないし、覚悟もしていつもりなのだが、いざ目にすると…というやつだ。
そんな思考が常識なので、シロは俺に甲斐甲斐しく世話されることに酷く戸惑っていた。どうやら“普通に”扱われないことが原因だったらしい。
というか、何故かシロは性奴隷として買われたと思っていたようで、宿のベッドで横になった途端全裸で迫られたのにはかなり焦った。必死で説得と説教をして、なんとか分かってもらった。ペドフィリアじゃないからな。断じて幼児性愛趣味はありません。
説教後、さながら小さな騎士のように俺に尽くすようになったシロ。出会った時からジョブ持ちだったが、ギルドで冒険者登録をし、一緒に依頼をこなして5日経った今のステータスがこちら。
名前:シロ
年齢:8
種族:ヒューマン
職業:奴隷/迷宮管理者補佐
レベル:サムライLv.7/聖騎士Lv.3(合計Lv.10)
スキル:刀術/見切り/索敵/気配察知
解体/採収
魔法:無し
アビリティ:
呪い耐性/光属性耐性/刀適正
固有:無し
気が付いたら職業欄には[迷宮管理者補佐]が、ジョブ(レベル)欄には[聖騎士]が増えていた。
いつの間に聖騎士なんて格好いいジョブ発現したんだ、この子。しかも、ダンジョンマスター補佐って…いや、間違ってない。間違ってないのだが、ステータスとはこんな簡単に変わるものなのだろうか。
もしかしたら、俺の奴隷になったからか? …うん、有り得るな。
「? マスター?」
じっと見過ぎたようで、少し不思議そうに俺を見上げるシロ。
はい、可愛い。ウチの子可愛い。基本的には無表情だが、元が良いからか大体何をしても可愛い。完全に親の気分だ。美人は正義。
「なんでもない。さ、行くぞ、シロ」
「はい、マスター」
シロを連れて行くのは、最初の草原―――つまり、俺のダンジョンの出現予定地だ。
*資産推移*
所持金 100,079アウルム→97,825アウルム
所持AP 1,440,260,480AP→1,440,375,192AP
(使用予定AP:435,029,610AP/差引:1,005,345,582AP)
* * * *
奴隷…犯罪・借金・誘拐などにより下僕に堕ちた者のこと。
・奴隷に堕ちた理由
[犯罪奴隷] 罪を犯し奴隷になった者。
[借金奴隷] 借金により奴隷になった者。
・奴隷の用途
[戦闘奴隷] 戦闘能力があり戦闘時にこき使われたり、身代わりとして使い捨てにされることもある。主に借金奴隷が前者、犯罪奴隷が後者。報酬等の分配が不要の為パーティーメンバーとして重宝される。
[性奴隷] 主人の夜の相手を務めさせられる奴隷のこと。




