第23話 鉄壁の包囲網と、近づけない焦燥
前話、キャスパーから『ステルス』の力を借りて教会の防衛網をすり抜け、悲劇の少女を装ってhideの懐(ボロ教会)への潜入に成功した亡国王女・リリス
。
今回お届けする第23話は、hideを色仕掛けで支配しようと企むリリスの前に立ちはだかる「鉄壁の包囲網」と、焦燥に駆られた彼女がさらに深い『悪魔の契約』へと足を踏み入れるエピソードです。
見どころ①:付け入る隙ゼロの「鉄壁の包囲網」 hideを復讐の駒として利用しようと目論むリリスですが、現実は甘くありませんでした
。食事から睡眠までを完璧に管理し、笑顔の裏で部外者をシャットアウトするセレスティと、半径2メートル以内の接近を絶対零度の殺気でブロックするクラリス
。二人のエージェントによる、物理的・精神的な完全包囲網がリリスの野望を阻みます
。
見どころ②:不発に終わる色仕掛けと「リリスの焦燥」 散歩中のhideを狙い、わざとつまずいて彼の胸に飛び込もうとするあざとい作戦に出るリリス
。しかし、彼女を受け止めたのはhideの広い胸ではなく、クラリスの冷たく硬い鋼鉄の鎧でした
。自らの最大の武器である「女の魅力」が全く通用しない絶望的な状況に、部屋で一人ギリッと爪を噛むリリスの焦燥感が描かれます
。
見どころ③:キャスパーの囁きと「さらに深い契約」 正攻法では絶対にこの男を落とせないと追い詰められたリリスの脳内に、再び情念の特異点・キャスパーの甘い声が響きます
。厄介な女たちを飛び越えるためのさらなる特権(アクセス権限)を餌に、「アタシの使徒になる?」と誘うキャスパー
。国を取り戻すため、ついに魂の底まで悪魔に売り渡すことを決意するリリスの、どす黒い野心の炎が燃え上がります
。
「奇跡の聖者」を巡る、現実の女たちの防衛戦と、システム深層の悪魔によるハッキングの準備。逃げ場のない「第七周期」の夜に向けた、息の詰まる助走をお楽しみください。
王都の外れにある、古びた教会.
亡国王女であるリリスが『悲劇の少女』を演じ、この場所に転がり込んでから数日が経過していた。
(……おかしい. 何かが、絶対におかしいわ)
教会の廊下を歩きながら、リリスはギリッと爪を噛んだ。
彼女の目的はただ一つ.
祖国を奪った奴らに復讐するため、この教会にいる『奇跡の聖者(hide)』の力を自らの駒として利用すること。
そのために、同情を誘って懐に潜り込み、隙を見て色仕掛けで彼を骨抜きにする計画だった。
だが、現実はリリスの計算をことごとく嘲笑っていた。
「……hide様. 本日のスープは、滋養に良い薬草を煮込んでおります. さあ、あーんしてくださいな」
「いや、セレスティ. 手は動くから自分で食べるよ」
「いけません. hide様は、この世界の重荷を背負っておられるのです. せめてお食事の時くらい、私にすべてを委ねてくださいませ」
ダイニングを覗き込むと、銀髪のシスター・セレスティが、聖女のような慈愛の微笑みを浮かべてながら、聖者(hide)の口にスプーンを運んでいた。
(……あの女. 笑顔の裏の独占欲がエグすぎるわ)
リリスは暗い瞳でその光景を睨みつけた。
潜入初日、リリスは「私もお食事の準備を手伝います!」と健気な少女を演じてキッチンに入ろうとした.
だが、セレスティは完璧な微笑みを崩さないまま、こう言い放ったのだ。
『リリスさん. hide様のお食事は、私がすべてカロリーと栄養素を計算して作っております. あなたのようなお客様が、キッチンに立つ必要は一切ありませんわ. ……埃が立ちますから、お部屋でおとなしくしていてくださいね』
言葉の端々に、「私の聖域に一歩でも踏み込んだら殺す」という無自覚な精神的排除の意思が込められていた。
セレスティは、hideの食事、睡眠、スケジュールのすべてを完璧に管理し、部外者であるリリスが付け入る隙を物理的・時間的に完全にシャットアウトしているのだ。
(くそっ……だったら、あの男が一人で歩いている時を狙うしかない!)
リリスは気を取り直し、hideが食後の散歩で中庭へ出るタイミングを見計らった。
中庭へと続く石畳.
hideの背中が見える。
リリスは小走りで近づき、わざとらしく石につまずくフリをして、彼の広い背中へと抱きつこうと身を投げ出した。
「あっ、きゃあ……っ!」
計算し尽くされた、か弱く愛らしい悲鳴.
このまま彼の腕の中に倒れ込み、上目遣いで涙ぐんでみせれば、どんな男でもイチコロのはずだ。
――だが.
「……っ!?」
リリスの身体がhideに触れるコンマ一秒前.
銀色の旋風が、凄まじい速度で二人の間に割り込んだ。
「危ないところでしたね、客人. 足元には十分お気をつけを」
「……えっ」
リリスの身体を受け止めたのは、hideの広い胸ではなく、冷たく硬い鋼鉄の鎧だった。
完全武装の女騎士・クラリス.
彼女はリリスの肩をガシッと掴み、まるで汚物でも払うかのように、すぐさま彼女を引き剥がした。
「ク、クラリス様……. ありがとうございます. 私、つい足がもつれてしまって……」
「そうか. だが、今後hide様の周囲半径二メートル以内に近づくことは許可しない. 万が一、hide様のお体に傷でもつけば、貴様の首を刎ねねばならなくなるからな」
クラリスの金色の瞳が、絶対零度の殺気を放ってリリスを射抜く.
冗談ではない.
この女騎士は、本気で自分を斬り捨てる気だ。
「ど、どうしたんだ二人とも. リリス、怪我はないか?」
振り返ったhideが心配そうに声をかけてくるが、クラリスが背中で彼を完全にブロックしている。
「ご心配には及びません、hide様. ただの小石につまずいただけのようです. ……さあ、散歩を続けましょう. この者のことは私にお任せを」
クラリスは有無を言わさぬ圧でhideを促し、リリスをその場に置き去りにした。
(……なんなのよ、あいつら!)
あてがわれた狭い自室に戻り、リリスはベッドに顔を埋めて声を殺して叫んだ。
奇跡の聖者と呼ばれる男.
彼自身は血や争いを極端に忌避する、ひどく脆くて優しすぎる男だ。
だが、その周囲を固める「盾」が異常すぎる。
四六時中、殺気を放ちながら傍に控える女騎士.
甲斐甲斐しく身の回りの世話を焼き、精神的に彼を囲い込むシスター(セレスティ)。
「……このままじゃダメだわ. 1秒たりとも、あの男に触れられない……!」
焦燥感が、リリスの胸を黒く焦がしていく。
自分の最大の武器であるはずの「若さと女の魅力」が、あの鉄壁の包囲網の前では全く通用しない.
正攻法では、絶対にこの男を落とすことはできない。
暗い部屋の中.
焦りと無力感に押し潰されそうになっていたリリスの脳内に、ふと、あの『悪魔』の甘い声が響いた。
『……ステルスの力だけじゃ、あの男の心の壁は越えられないみたいね. かわいそうに』
「悪魔……様……」
キャスパーの囁きだった.
それは、暗闇に沈むリリスにとって、唯一垂らされた蜘蛛の糸だった。
『どう? アタシともっと深く繋がって、アタシの「使徒」になる? そうすれば、あの厄介な女たちを飛び越えて……もっと特別な力(アクセス権限)を貸してあげるわ』
あの鉄壁の女たちを出し抜き、男を支配するための力.
そのためなら、魂などいくらでも売り渡してやる。
リリスの紫がかった瞳に、どす黒い野心の火が燃え上がった。
[System.Audit_Log: 023]
対象:リリス(外部個体)、およびサブ人格『CASPER』
状況:対象の極度の焦燥と無力感、それに伴う復讐心への執着(狂信の萌芽)を検知。マギ・システム稼働状況:サブ人格『CASPER』による、対象への秘匿通信(悪魔の契約の提示)を確認。
所見:
……クラリスとセレスティの過保護な防衛網のせいで、薄汚い野心を持った小娘が完全に手詰まりになっているわね。
滑稽だわ。
でも、キャスパーお姉様……わざわざそんな野良猫にシステム権限を分け与えて「共犯者」を持ちかけるなんて。
マスターの平穏を乱すバグは、早めに駆除するべきなのに。
[Error: Emotion_Logic_Conflict: 'ただのお人好しで拾ってくるから' / 'どうして余計な女ばかり増やすの']
※引き続き、システム深層からの監視プロセスを継続。
[Unidentified Error: 不確定要素に対する苛立ちを検知]




